第18話 幽鬼族のイレギュラー

 俺は墓場の近くにある小屋に向かい、そこで体を休めていた。花や石、奇妙な模様の札など様々なものがあるが、ある程度体を休めることは出来る。俺は小声でミカエルと話していた。


「ミカエル。ダレスにも俺と同じような変身魔術をかけれないか? そうすれば、もっと良いところで休めそうなんだが」

『無理じゃな。妾が変身魔術をかけられるのはお主だけじゃ。これは妾との信頼が不可欠な魔術じゃからな』


 俺以外にかけられないのか。なら、ここでダレスを休ませるしかない。変装しないであの町に行こうものなら、大騒ぎ確実だからな。


「カイツ~。何をぼそぼそと話してるんだい?」

「何でもない。それよりダレス。体は大丈夫か?」

「うん。問題ないよ。殴られた痕が残ってるけど、ダメージは結構回復してきた」

「そうか。それは良かった。それで、あの餓鬼って奴の目的は、人間をペットにすることで良いのか?」

「あいつ自身がそう言ってたからね」

「んで。この世界。ヘルヘイムって言うんだっけ? この世界に引き込んだのも、あいつの可能性が高いと」

「イエス。とりあえず私たちの目的は、あいつをぶっ飛ばすこと。そういや聞き忘れてたけど、ウルやアリアはどうしたの?」

「なぜか分からないけど、あの2人はバリアみたいなものに阻まれた。入れたのは俺とダレスだけだ」

「ふむ。何かしらの条件があるのかな? まあ今はどうでも良い。ひとまず、あの餓鬼って奴を探すとしよう」

「だな。とりあえず、餓鬼を探すのは俺がやる。そっちの方が色々と楽だしな」

「待て。あいつは私の獲物だ。私が戦いたい」

「けどその状態じゃ、まともに戦うことも」

「心配いらない。この程度……ぐっ!?」


 彼女が立ち上がって言うと、いきなりふらついたので、彼女を支える。


「いわんこっちゃない。まずは体力の回復。奴を探すのはその後だ」

「むう。分かった。大人しくするよ」


 俺が彼女を降ろすと、拗ねたように横になる。


「全く。君はとんだ過保護人間だね」

「これぐらい当たり前のことだろ。過保護でも何でもない」

「どうだか。にしても、ここは骸骨人間が襲ってこないね。あいつら、どんなとこにでも出てくる印象会ったんだけど」

「そういや出てこないな。何か理由でもあるのか?」

「ま、強い奴ならともかく、雑魚が来てもめんどくさいだけだけど。にしても、この札とか何なんだろうね。えらく趣味が悪いけど」


 そう言って彼女が壁にかけてあった大きな水晶に触れると、ぴこーんと音が鳴った。


「ん? 何だこの音」


 音が鳴った後、床や壁、天井のあちこちから白い粉が噴き出してきた。


「なっ!? なんだこれ!」

「なんだ。この変な粉……ミカエル、この粉。体に害はありそうか?」

『いや。特に体に害があるということはなさそうじゃのお。お主が浴びてもなんの影響も無さそうじゃ』


 害は無い。じゃあ、この粉は何のためにあるんだ。ほんの数分もしないうちに、部屋の中は白い粉でいっぱいになった。


「ダレス。体は大丈夫か?」

「問題ない。しかし、この粉は一体」


 ダレスにも影響は無かったか。この仕組みはなんなんだ。ダレスが水晶を持つと噴き出してきたし、罠のようなものなんだろうけど、誰を迎え撃つためのものだ? 混乱していると、頭の中に声が響く。


 〖おや。珍しい客人が来たし。てっきり、餓鬼の部下が襲って来たと思ってたけど、どうやら違うようだし〗

「誰だ? どこにいる? そもそもこの粉は何だ?」

 〖いっぺんに質問しないでほしいし。ちゃんとひとつずつ答えるから、こっちに来てほしいし〗


 それだけ言うと、もう何も聞こえなくなった。言うだけ言って勝手に消えたかと思うと、部屋の一部に穴が開いた。穴の中には、地下へと続く階段がある。


「何だったんだ。あの声」

「さあ。一つ言えるのは、声の主は、餓鬼に敵対視されてるってことくらいね」

「……とりあえず、この階段を降りてみよう。声の主がどんなのかにも興味ある」

「賛成。行ってみようか」


 俺はダレスの肩を支えながら、階段を降りていく。下には円形の大きな部屋があり、奥の方には紫色の髪の女性のような人が1人いた。振り返ると、顔の半分と両手が骨になっていた。


「来たし。意外と早くてびっくりしたし。もう少し考えると思ったし」

「お前は誰だ? 餓鬼って奴とどういう関係だ」

「あたしは橋姫だし。幽鬼族のイレギュラーって呼ばれていて、餓鬼とは敵対関係にあるし。ついでにあんたの名前も教えてほしいし」

「カイツ。カイツ・ケラウノスだ」

「私はダレス・エンピシ―。ねえ。なんであんたはイレギュラーって呼ばれてるの? あと、なんで餓鬼って奴と敵対関係になってるの?」


 ダレスがそう質問したが、彼女は何も答えなかった。


「おい。私の質問に答えてほしいんだが」


 ダレスがそう言っても、彼女はうんともすんとも言わなかった。


「橋姫……だっけ? なんでダレスの質問は無視してるんだ」

「あたし。女嫌いだからだし。女って陰口言ってばっかのキモい奴らしかいないから大嫌いだし。その点、男はなんでも素直に表現するから大好きだし」


 いや。女性ってそういう人ばかりではないと思うし、男だって陰口言う人はいると思うんだが。まあいい。今はそんなことについて議論してる暇はない。


「橋姫。餓鬼と敵対関係ってどういうことなんだ? あと、なんでイレギュラーって呼ばれてる」

「餓鬼というか、ここにいる幽鬼族全員と敵対してるし。敵対関係になってる理由は簡単。あいつらの人攫い行為が気に入らないからだし。あいつらは人を攫ってペットにして、弄んでる。気持ち悪くて見てられないし」


 どうやら、あいつらとは考え方がかなり違うようだ。幽鬼族にも色々いるんだな。


「ま、こうも考え方が違うから、みんなからイレギュラーだのなんだの言われてとーっても嫌われてるし、骸骨兵士に追われまくってんだし」

「骸骨兵士?」

「全身骨になっていて、肉や皮膚がない奴らだし。餓鬼が作った便利な兵士だし。あんたらも会ったことあるはずだし」

「……あいつらか」


 俺を襲ってきた奴らのことか。ダレスの反応からしても、彼女も会ったことがあるようだ。にしても、考え方が違うだけでイレギュラーっていうのは、なんか違う気がするが。


「あたしはあいつらに見つからないようにするため、居場所を転々としたり、骸骨兵士を殺すためのトラップを色々作ってるんだし。あんたらが浴びた白い粉も、骸骨兵士を撃退するためのトラップだし」

「あの白い粉か。あれはどういう効果があるんだ?」

「あれはあんたら人間が浴びても害はないけど、幽鬼族や骸骨兵士が浴びると、体がボロボロになって死んじゃう恐ろしいトラップだし」


 ほんとに恐ろしいトラップだな。同族殺すためだけにあるようなトラップだ。彼女がどれだけ他の幽鬼族が嫌いなのかよくわかる。


「餓鬼、というかここの幽鬼族はみんな性格悪いし。廃墟のような建物を入り口にし、興味本位で来た人間を取り込み、ペットにしていくという気持ち悪さだし」

「あれが入り口なのか。なら、あの結界は何なんだ?」

「結界? ああ。あれは人間じゃない奴を弾くためのバリアみたいなものだし。この世界の入り口は、あの廃墟そのものなんだし」


 てことは、アリアとウルは人間じゃないって事か? アリアは普通の人間じゃないだろうとは思っていたが、まさかウルも普通の人間じゃなかったとはな。


「なるほどね。私が壁にもたれかかった時にこの世界に引き込まれたのは、それが理由か。建物自体が入り口になっているとはね」

「それで? ここを出るにはどうすれば良いんだ?」

「餓鬼の館に、この世界から出るための出口があるし。そこから出ることが出来るし」

「館に出口があるのか。ちなみに、人間が迷い込まないようにするためには、あの廃墟を破壊すればいいのか?」

「そんな面倒なことをしなくても、館にあるここに入るための門を作っている装置を破壊すれば、人間は入ることは無くなるし。んでその装置は、出口のすぐ傍にあるし」


 装置の破壊。それをすれば、もう人間が迷い込むことは無くなるんだな。だが、この世界にいる人たちも助けるにはどうすれば。


「なあ。餓鬼を殺せば、人間がペットとして扱われるのをやめさせることは出来るのか?」

「ある程度改善することは可能だと思うし。餓鬼はこの世界の長のような存在。そいつを殺してあんたたちの力を示せば、ある程度の幽鬼族はいうことを聞くと思うし。暴動起こす奴も出てくるかもしれないけど」

「なら、作戦は決まりだね。館に突入して餓鬼を殺す。人間をペットにすることをやめさせる。その後に出口を見つけ、人間を外に出す。最後に、それを作ってる装置を破壊し、人間がここに入らないようにする」

「そうだな。けど不安要素がひとつある。もし館に突入したのがばれたら」

「骸骨兵士どもが大挙してくるし。そんなことになれば、出口を見つけるどころか、餓鬼を殺すこともままならなくなるし」

「なら、出来る限りばれないようにして餓鬼を殺す方が良いな。そして、他の幽鬼族に首を見せ、人間をおもちゃのように扱うことをやめさせる」

「私も協力するし。あいつら気に入らないし、イレギュラーだの馬鹿だの欠陥品だのさんざん言ってきてムカつくし。館へ行く方法も案内してやるし」

「それは助かる。ありがとう」

「お礼はいらないし。私は私の都合で動いてるだけだし」

「そうだとしても、助けてくれるのはありがたいさ。じゃ、どうやって突入するかを考えるとしよう」


 餓鬼とか言う奴は絶対に殺す。これ以上、人間をおもちゃのようにさせるわけには行かない

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