第17話 ダレスと霊鬼の戦い

 俺は骸骨野郎がいる町を普通に歩いていた。周りの骸骨野郎は俺を仲間と思ってるようで、会釈をする奴もいる。俺は今、ミカエルの力で顔の部分が骸骨に変わっている。ミカエル曰く、変身魔術というものらしい。


「すごい。誰にも人間と思われていない。ミカエル、こんな凄い力を使えたんだな。知らなかったよ」

『まあ、今までは使うことが無かったからの。便利じゃろ。今周りの奴らは、お前さんを仲間だと認識しておる。この状態なら、色々と情報収集が出来る筈じゃ』

「そうだな。なんで俺たちを襲うのか、んで、ここがどういう場所なのか、そもそもこいつらが何なのかを調べないと。ミカエルは何か知らないか?」

『ううん。なーんか見たことある気がするんじゃが、どういう奴らじゃったかのお。妾、興味ない奴のことは覚えんからなあ』


 ミカエルも知らない奴らか。ダレスだったらなにか知ってるかな。というか、彼女はどこに消えたのだろうか。どこにいるのか全く分からないんだが。とりあえず、情報収集しつつ、ダレスがどこにいるか探そう。そう思って歩いてると、歓声のような声が遠くから聞こえた。


「良いぞお! もっとやってやれえええ!」

「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ! こいつは良いな! ストレス発散にぴったりだ!」


 なんだ。この物騒な声は。何をしているか分からないが、人がかなり集まってるみたいだな。情報収集の役に立つかもしれないし、行ってみるとしよう。そう考えた俺は歓声のする方へと向かった。そして、祭りのようなことをしているであろう場所に着くと、言葉を失ってしまった。


「なんだ……これ」


 骸骨野郎どもが何列かに分かれ、列を作っていた。列の先にいたのは、磔にされた人間だった。先頭の骸骨野郎がその人間を殴ったりけったりして、大はしゃぎしていた。


「ひゃっほおおおおお! こいつは良いなあ! 最高のストレス発散だ!」

「やっぱ人間を殴るのは良いわねえ! 気分がすっきりするわ」

「おい見ろよ。この人間、殴られすぎて歯がボロボロだよ」

「アハハハハハハ! めっちゃ間抜けな見た目してんじゃん。おもしろー」


 なんなんだこれ。あいつらは何をやってんだ。あんなむごいことを。急いで止めに行こうとすると。


『カイツ止まれ!』

「ミカエル! なんで止めるんだ!」

『奴らは既に死んでおる。お主が行ったところで何も解決せん。それに下手なことをすれば、骸骨の兵士にも追われるしで不利なことしかない。不用意な戦いは避けるべきじゃ』

「指をくわえて見てろってのか」

『そんなことは言っとらん。あやつらみたいな末端を倒しても意味はないと言っとるんじゃ。本当に止めたいのなら、元凶を撃つしかない』

「元凶」

『骸骨の兵士が言っとったろ。餓鬼様の命令がどうたらこうたら。恐らく、その餓鬼って奴が元凶じゃ』

「そいつを殺せばいいんだな」

『うむ。そうすれば、ある程度問題はマシになるはずじゃ』


 なら、一刻も早く餓鬼をぶっ殺さないとな。


「……ごめん。お前たちを助けられなかった。その代わりと言っては何だが、元凶は必ず殺す。こんなふざけたことを始めた奴は、絶対に許さない」


 俺は怒りを抑えながらそこを離れ、近くの骸骨野郎に話を聞いてみる。


「すまない。この辺りで、金髪の人間を見なかったか? それと、餓鬼がどこにいるのか知りたい」

「金髪の人間。それなら、あっちの細い道を通って、裏路地に行ったぞ。餓鬼様も同じ所にいると思う。奴らを探してるのか?」

「ああ。ちょっと色々あってな。奴を探してる」

「なるほど。餓鬼の部下も大変だね。頑張れよ」

「ああ。頑張るよ」


 餓鬼も同じ場所にいるとは都合が良い。ダレスと合流して、そいつをぶっ殺す。俺は骸骨野郎に教えてもらった道を歩き、裏路地へと向かう。


「……これは」

『わお。これはえげつないのお』


 裏路地に着くと、骸骨の残骸があちこちに散らばっていた。中には砕かれたものもある。


「これ。死んでるよな?」

『間違いなく死んでるの』


 ダレスがやったのだろうか。だとしたら、あいつは今どこにいるんだ。周りには骸骨野郎がいないようだし、探すのが大変そうだ。俺は裏路地を歩きながら、ダレスを探す。ここも酷いものだ。身体中ボロボロになった人たちがあちこちにいる。まるでゴミのような扱いだ。どういう奴らか分からないが、餓鬼や骸骨野郎どもは、相当な外道のようだ。にしても、ダレスが見つからない。痕跡のようなものでもあれば良いのだが、そんなものはどこにもなかった。


『あの残骸からして、奴にも刺客が差し向けられてるようじゃしの。急いで合流した方が良いかもしれん』

「だよな。けどこうも材料が少ないと、探すのも一苦労だぞ」


 ちらほらと骸骨野郎はいるのだが、生きてるのか死んでるのか、聞いても何も答えてくれない。死んだようなオーラを出しながら三角座りしているだけだ。


「くそ。あいつはどこにー!?」


 ダレスを探していると、何とも言えない気持ち悪い魔力を感じた。人とは思えないような、ぬるっとした不気味な魔力。


「なんだ……これは」

『かなり不気味な奴じゃのお。それに』

「ああ。ほんのわずかにだが、ダレスの魔力も感じた」


 この感じだと、ダレスと不気味な気配の奴が戦ってるという感じか。急いだ方が良さそうだ。俺は魔力のした方に急いで向かった。







 ダレスと霊鬼は激しい殴り合いを繰り広げていた。ダレスは背中から2本の腕を生やし、4本の腕で殴り合いをしている。状況は霊鬼が優勢であり、ダレスにどんどん傷が増えていった。


「ぐう。君は強いね」

「むっふー。あなたはそんなに強くないですなあ!」

「がっ!?」


 ダレスの腹に霊鬼の蹴りが当たり、ふっ飛ばされてしまう。


「むっふー。これで終わりでごあす!」


 霊鬼は追撃を仕掛けようと、彼女に接近していく。


「舐めるな!」


 彼女は背中に生えてた2本の腕を消し、右手からもう1本の腕を生やす。長くなった腕を鞭のように振るい、霊鬼に叩きつけた。


「ぐにゅ!?」

「どらあああああ!」


 そのまま腕を振り切り、ふっ飛ばした。しかし、霊鬼は即座に体勢を立て直して着地した。しかし、彼女の攻撃はそこで終わらない。霊鬼に接近しながら腕を元の長さに戻して右肩から新しい腕を生やした。


「どらああああああああ!」

「ぐにゅうううううう!?」


 そのまま全力でぶん殴り、霊鬼を大きくふっ飛ばした。霊鬼は地面をバウンドしながら転がっていき、墓に叩きつけられた。墓はその勢いに耐えることが出来ず、破壊されてしまった。


「手ごたえあり。さて、どれぐらい効いてるのかな?」


 破壊された墓の瓦礫を吹き飛ばし、霊鬼が姿を現した。足がふらついており、かなりのダメージを受けているようだった。


「むっふー。中々やるでごわすね。面白い奴でごわす」

「君も中々面白いよ。意外とピンピンしてるから驚いちゃった」

「むっふー。全然ピンピンではないでごわす。体中が痛くて仕方ないでごわす。それに、そろそろ決着をつけろと餓鬼からも言われてるし、終わらせてやるでごわす」

「そうだね。私の勝利で、この戦いを終わらせるとしよう」

「いや。あんたは勝てないでごわす。あんたは強いけど、弱点も分かったでごわすから。マッスル解除!」


 霊鬼がそう言うと、腕が棒のように細くなり、体もスリムになった。


「むっふー。行くでごわす!」


 そう言うと、霊鬼の姿が一瞬で消え、ダレスの後ろに移動した。彼女はそれに反応するのが遅れてしまい、顔をもろに殴られてしまった。


「がっ!?」

「むっふー。まだまだあ!」


 そこから何度も後ろに回られて攻撃を食らい続け、一方的に攻撃を受けてしまう。


「むっふー! これは良いサンドバッグでごわす!」

「がっ! ぐっ! ぐはっ!?」


 彼女は反撃することも出来ず、一方的に殴られ続けながらも周りを観察し、攻撃のチャンスをうかがう。


「むっふー! 終わりでごわす!」

「ここだ!」


 彼女は霊鬼のカウンターを狙おうと素早く振り返って攻撃するも簡単に躱され、また後ろに回られてしまった。


「なっ!?」

「むっふー。そんな遅い攻撃は当たらないでごわすよ!」


 霊鬼はそのまま彼女の背中を殴り、大きくふっ飛ばした。彼女は受け身を取ることも出来ず、地面を転がっていった。


「参ったね。ここまで強いとは。あはははは。ほんと、君は凄い奴だよ」

「むっふー。これで終わりでごわす。楽しかったでごわすよ!」


 霊鬼は再び後ろに回りこみ、彼女に攻撃しようとした瞬間。


「剣舞・五月雨龍炎弾!」


 いくつもの紅い球体が霊鬼に襲い掛かる。しかし、当たる直前にそれは躱されてしまった。


「むっふー! 誰でごわすか!」

「何とか間に合ったな」


 助けたのはカイツだった。背中には天使のような羽が1枚生えている。彼はダレスの傍に駈け寄り、彼女を支える。


「大丈夫か?」

「なんとかね。君のおかげで助かったよ。サンキュー」

「なんだ。あの変な体の奴は」

「餓鬼って奴だ。今は霊鬼って名乗ってるけど。どうやら、私たちをペットにしたいらしい」

「餓鬼。あいつか。俺らをペットにしたいとは、ずいぶんとふざけたことを言う奴だ。人間たちをゴミのように扱ってる元凶は、あいつで合ってそうだな」

「むっふー。まさかこんなところに来るとは思わなかったでごわす。2対1。ちょっと不利でごわすね」


 霊鬼はカイツとダレスの2人を見ながら、ぽりぽりと頭を掻く。


「むっふー。ここは撤退でごわす。さらば!」


 霊鬼は懐から小さな玉を取り出し、それを地面に投げつけた。玉が地面に当たった瞬間、目も開けられないほどの強い光が2人を襲う。


「ぐっ!?」

「くそ! なんだこれ!」


 光が収まり、ようやく目が空けられるようになると、霊鬼の姿はどこにも無かった。


「逃がしたか」

「中々骨のあるやつだった。今回はボコボコにされたけど、次会った時は必ず勝つ!」

「傷だらけなのに元気だな」

「そりゃあ、あれだけ強い奴と戦えたのだからね。体も元気になるってものさ」

「凄いな。どういう体の構造してるんだか」

「ふふふふ。強い奴と戦えるというのは、それだけでリフレッシュになるからね。それより、これからどうする?」

「ひとまず、体を休める場所と、情報を仕入れられそうな場所を探そう。話はそれからだ」

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