第16話 とある別世界の調査

 side ダレス


 私は裏路地で、骸骨の頭を踏んでいた。周りには、ぶっ倒した骸骨の残骸が散らばっている。


「ぐっ……この、ゴミカスが。我らに逆らって、ただで済むと」

「先に喧嘩を売ったのは君たちだろ? にしても、君たちは弱いねえ。つまらない戦いだったよ」


 そう言って、私は骸骨人間の頭を踏み潰した。


「はあ。面倒な所に迷い込んだものだ」


 肉や皮膚が中途半端についた骸骨ボディ。そしてこの真っ暗な世界。恐らくこいつらは、幽鬼族ゆうきぞくだな。生と死の狭間にいるといわれる種族。人間が死ぬとき、何らかの条件を満たすことでその種族になるらしい。


「こいつらが幽鬼族なら、ここはヘルヘイムと呼ばれる場所か」


 幽鬼族は私たちが住む世界で暮らすことは出来ず、ヘルヘイムと呼ばれる世界で暮らすと言われている。ヘルヘイム。別名死者の国。私たち人間がヘルヘイムにいるのは大丈夫なのか。死者の国に生者がいるって、かなりまずそうな状況だと思うけど。


「ていうかその前に、ここに来た原因だよね」


 本来、ヘルヘイムと私たちの住む世界は、互いに行き来することが出来ない。行き来するには門が必要だ。門の役割を果たしていたのはあの廃墟だとして、誰が何の理由で門を作ったのだろうね。そして、こいつら幽鬼族。幽鬼族は、こんな野蛮なことをする種族では無かったはずなのだけど。そもそも、なんで私をとらえようとしてるのか。分からないことが多すぎる。とりあえず、適当に歩くとしようか。私はそう考え、裏路地を歩いていく。


「にしても、これは酷いね」


 少し先に進むと、何人かの人間がゴミのように捨てられている。みんな体の一部が欠損しており、身体中傷だらけだ。これだけでもきついというのに、さらに先に進むと、大きなダンボールの中で1人の人間が三角座りしている。箱には拾ってください、もういりませんからと書かれており、人間は死んだような目をしている。こいつも身体中が傷だらけで、片腕が何かに斬られたかのように無くなっていた。周りを見渡すと、ゴミ箱を漁る小汚い少女や少年の姿も見えた。顔全体に火傷の痕があるし、髪はぼさぼさで酷いものだ。古びた首輪も着けられている。表の方でもちらちら見かけたけど、ここの幽鬼族は趣味が最悪だ。人間をペットのように扱っている。いや、ペットの方がまだマシな扱いを受けているかもしれないね。


「たく。さっさとこんな所を抜け出――! ……来たね」


 私は後方に何かの気配を感じ、2本の剣を抜いて構えた。現れたのは、私と同じくらいの大きさの骸骨だった。骸骨は2本の剣を振るい、私はそれを受けとめる。


「へえ。中々のパワーだね」


 私は奴の剣を弾き、体を蹴り飛ばした。だが、予想よりも吹っ飛ばず、そこまでダメージを受けてるようには見えない。


「かかかかかかかかか!」


 不気味な声を出しながら、奴は再び斬りかかって来る。振り回しが速く、1発1発のパワーが大きい。なんとかしのいではいるが、少しでも気を抜いたら負ける。骸骨の体だというのに、ここまでパワーが強くて素早いとは。


「まともなコミュニケーションは取れ無さそうだね。にしても、良いパワーだ。君との戦いは、中々楽しそうだ!」


 私は背中から2本の腕を生やし、4本の剣で構える。


「かかかか。かかかかかか!」


 奴がいきなり叫んだかと思うと、奴の足の骨が膝から外れ、背中にくっついた。どういう原理か分からないが、奴は宙に浮きながら動いている。そして、足の裏から骨で出来た剣が生えて来た。手数は私と同等になったわけか。


「そんな奇天烈変形が出来るとはな。ますます気に入ったよ!」


 最高の気分だ。ここ最近は強い奴ばかりで最高に嬉しいよ。ここまで楽しいことになるとはね。


「行くよ。骸骨野郎!」


 私は4本の腕を使い、上、下、斜め。様々な方向からの同時攻撃を仕掛ける。しかし、奴はそのすべてに反応し、裁いていく。ライバルほどの技量はないが、それでもかなりのもの。私の攻撃が全然届かない。


「はははははは! すごいね! こんなに強い奴と戦えるとは。強い奴との戦いはほんと楽しいよ!」

「かかかかかかかかか!」


 奴の剣が青白い光を纏うと、私の剣が紙を切るように斬られてしまった。


「と! これはやばい!」


 私は咄嗟に後ろに下がり、剣の攻撃を回避する。面白い。とんでもなく面白い奴だ。ここまで切れ味を鋭くできる魔術は素晴らしいものだ。


「やるね。剣を紙きれのように斬るとは。そんなお前に敬意を表し、私の全力を見せてあげるよ」


 斬られた剣を投げ捨て、ロキ支部長から受け取った青い石を取りだす。


「魔石解放!」


 青い石が輝きを放ち、石から4個のガントレットが現れ、私の4本の腕に装着された。


「かかか。かかかかか?」

「驚いたか? こいつは収納魔石と言ってな。その名の通り、色んな道具を収納できる便利な石なのさ。そして、これが私の本来の武器。ブレイクガントレットだ」


 本当ならライバルとの戦いでも使いたかったのだけど、あの時は修理が出来てなかったからね。ようやくこいつを使えるようになって嬉しいよ。


「さあ。来なよ!」

「かかかかかかかかか!」


 奴は剣を構え、こっちに突っ込んできた。そして、4本の剣が私に当たりそうになる直前、私はその剣を4本の腕で掴んだ。


「良いパワーだ。だが、このガントレットの敵ではない!」


 私はそのまま手を強く握り、剣を砕いた。


「かかかか!?」

「チャンス。ラッシュブレイクうううううう!」


 4本の腕で奴に高速で殴りかかる。反撃の隙を与えないほどのスピードで何十、何百と殴り続ける。


「かか……かかかかかか!?」


 奴の体はどんどん砕けて行き、悲鳴のような声を出す。


「楽しかったよ。君との戦いは! とどめえ!」


 最後に4本の腕全てで同時に殴り、奴の体を粉々に砕いた。


「よし。撃破完了。けど」


 こいつは何だったのだろうか。まともな言語も話せていなかった。どういうことをすれば、あんな奴が生まれるのやら。ほんと、謎が多すぎるね。


「仕方ない。先に進むとしようか」


 ここに留まっていても、出来ることはなさそうだしね。私は裏路地を歩きながら、周りを探索する。ていうか今更だけど、ここどこなの? 適当に骸骨共の相手をしてたら、いつのまにかこんなところに来ちゃったけど。


「何とかして出口を見つけないと」


 出るための門を見つけようと思ってあちこちを歩き回るも、門は一向に見つからない。それどころか、どんどん人の気配が無さそうな所になっている。ほんの数分前は、まだ骸骨人間がちょっとだけいたのに、今では彼らの残骸すら見つからない。


「嘘でしょ……マジでここどこ?」


 出口からどんどん遠ざかってる気しかしない。そういえば、他の団員たちによく言われてたわね。絶対に独断行動をするな。見つけられなくなるからって。こうしてとんでもない所に迷い込むと、なぜ彼女たちがそんなことを言ってたのか良く分かる。とりあえず、何とかして、人気がある所に行かないと。にしても、ここは不気味ね。墓のようなものがあちこちに建っている。まるで墓場。黒くて変な生き物が空を飛んでるし。


「あんた。なんでこんなところにいるの?」


 声のした方を振り向くと、へんな奴が立っていた。白い服を着ており、両足と顔の半分が骨になっている。他の奴らと比べて、肉や皮膚が多くついている。


「何者? 幽鬼族だってことは分かるけど」

「私は餓鬼。このヘルヘイムを統治してる者ね。あんた、人間だよね? なんでこんなところに来てるのね?」

「さあ。適当に探索してたらこんなところに着いたの。出来れば、人が多い所に案内してくれると助かるのだけど」

「残念だけど、それは無理なのね。あんたはこれから、私のペットになるのよね」

「ふーん。人間をペットにするのが好きなの?」

「そうなのよね! 人間はとってもいいペットなのね。しつけをすれば大人しくしてくれるし、いうことを聞いてくれる。おまけにサンドバッグにもなる。こんな素晴らしいペットは中々いないのね。だから、ここに迷い込んだ人間は必ず捕らえるよう、私の部下たちに言ってるのね」


 骸骨人間が襲ってきたのはそれが理由か。人間をペットにするって、悪趣味極まりないわね。理解不能だよ。


「さあ。私のペットになるのね!」


 そう言って奴はこっちに襲い掛かってきたので、その拳を受けとめた。


「悪いけど、私は誰かの所有物になるのが大嫌いなんだ。それは遠慮させてもらうよ」

「なら、無理矢理にでもペットにしてやるのね!」


 奴は私の手を振り払い、手の甲から鋭い爪を生やし、襲い掛かって来る。攻撃は単調で、簡単に避けることが出来る。この程度なら、魔術を使う必要もないな。


「このお。当たるのねえええ!」


 奴の勢いよく振りかぶった攻撃を躱し、腹を蹴り上げた。


「がっ!?」

「弱い。出直してきなよ」


 その勢いに乗って顔を蹴り飛ばした。


「あびゅう!?」


 奴はゴロゴロと転がっていった。


「はい。これでおしまい。それなりに偉い身分みたいだから期待してたのになあ。こんなに弱いとは思わなかったよ」

「まだ……まだなのね」


 奴はふらつきながらも何とか立ち上がった。立ち上がったのは評価するけど、まともに戦えないのは目に見えてる。足がふらつきまくりだし、あの様子からして、視界も安定していないだろう。


「雑魚をいたぶる趣味は無いの。大人しくくたっばてた方が身のためよ?」

「ふざけるなのね。勝負はまだ、終わってないのね!」


 奴はそう息巻いてこっちに襲い掛かるが、さっきよりも動きが遅い。奴が攻撃する直前に、顔を蹴り飛ばした。


「はい。今度こそ終わり。雑魚に時間を使うのは嫌なことね。さてと、これからどうするべきか」


 どこかへ歩こうとすると、後ろから気配を感じて振り返った。驚いたことに、奴はまた立ち上がったのだ。


「驚いた。雑魚のくせに随分とタフだね」

「私たち幽鬼族には生と死の狭間にいる者なのね。五感はなく、疲れを感じることもないのね。だからいくらでも戦えるのね。それに、私はこんなところで負けられないのね!」


 そういや、幽鬼族はそんな奴らだったね。疲れを感じないというのは羨ましいな。強い奴と戦い放題じゃないか。けど。


「心意気は立派だけど、あんたじゃ私には勝てない。諦めて逃げた方が得策よ?」

「ざけんなのね。まだ負けたわけじゃないのね! 私たちは最強なのね! 今から本気を見せてやるのね。来い。霊鬼ーーーー!」


 奴がいきなり叫んだかと思うと、奴の内に宿っている魔力が明らかに変わった。それだけでなく、体から何かが現れた。


「何。あれは」


 明らかにさっきとは何かが違う。幽鬼族にあんな力は無かった筈だが。奴の体がぐにゃぐにゃと蠢き、体格が変わっていく。腕と足の筋肉が太くなり、奴の骸骨顔のおでこ部分に、星の模様が刻まれた。


「むっふー。吾輩が出て来たということは、餓鬼も本気ということですな。吾輩を出させるとは、あんたは見どころがありますなー」


 声も話し方も変わった。一体どういう体してるの。ていうか、あいつはなに。霊鬼とか言ってたけど。


「むっふー。全力で行くでごわす!」


 そう言った瞬間、奴は一瞬でこっちに距離を詰め、爪で切り裂こうとしてくる。


「くっ!?」


 紙一重で躱し、後ろに下がった。さっきとは明らかに動きが違う。一体どうなっている。


「むっふー。逃がさない!」


 奴は隙を与えず、こっちに距離を詰めてくる。


「まずい。増殖腕インクリース・アーム!」


 お腹の部分から腕を1本生やし、さらにそこから腕を生やして奴を強く押し出し、強引に距離を開けた。


「ぐぬっ!?」


 奴は汚い声を出して、お腹をおさえる。私はさらに後ろに下がり、腹に生えてた腕を消して、背中から腕を生やした。


「むっふー。中々やるでごわすね」

「そっちこそ。さっきとは比べ物にならないほどの強さだ。一体どういう仕組みなんだい。ていうか、君は誰?」

「むっふー。吾輩は霊鬼。幽鬼族最強の戦士でごわす。お前みたいな家畜なんかに負けないでごわす!」

「ほお。随分と酷いことを言うじゃないか。魔石解放!」


 私は魔石からブレイクガントレットを出し、腕に装着させた。


「女の子に家畜と言った罪は重いよ? 覚悟しときな」

「むっふー。覚悟するのはあんたでごわす! 吾輩にはまだ、恐ろしい武器があるのですから」

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