第15話 怪しい廃墟への潜入
ゴブリン討伐の任務が終わった翌日。俺とアリアは部屋でくつろいでいた。アリアは俺の膝の上で寝転んでおり、ミカエルは頭の上に乗っかっている。
「むふー。カイツの膝の上は快適なのです」
「頭の上も中々良いものじゃぞ。髪がふわふわじゃから寝心地抜群じゃ」
「膝の上はまだしも、頭の上で何かされるってのは、変な感じだな」
「もしかして嫌か? 嫌ならすぐにやめるぞ?」
「別に嫌ってわけじゃない。いたいだけいてくれていいよ」
「ふふふふふ。カイツは優しいのお。そういう優しいところ大好きじゃぞ」
そう言ってミカエルが抱き着き、俺は彼女の頭を撫でる。
「ふふふふ。カイツに撫でられるのも良いものじゃなあ」
「分かるです! カイツに撫でられると、ふわふわになって幸せになれるのです!」
「分かる。実に分かるぞお。カイツに撫でられるのはとっても嬉しいのじゃ。お主。カイツと過ごした時間は短いというのに、中々分かっておるのお。カイツ。お前は幸せ者じゃのお。こんなにも思ってくれる者がおるのじゃから」
「そうだな。確かに幸せ者だ」
そうして話していると、ミカエルがいきなり玉になり、俺のポケットに入った。何事かと思った瞬間、ドアが破られるかと思うほどの勢いで開いた。
「やあ! 我がライバル! 久しぶりだね!」
「えっと……お前は確か」
「私はダレス! ダレス・エンピシ―! 好きな人は強い人だよ!」
誰もお前の好みは聞いてない。後ドアを開けるときはノックをしてほしい。そしてアリアが怯えてるから、もう少し静かに話せ。最後に、俺はいつお前のライバルになった。
「昨日の初任務聞いたよ! ゴブリンの大軍を倒したそうじゃない。ほんと、あんたはとっても強い奴なんだね」
「はあ。それはどうも」
「ほんと、あんたは強くてかっこいいね。かっこよすぎて惚れ惚れしちゃうよ」
「そうか。ありがとう」
なんだかうっとりとした目で見られてるな、昨日のウルと似たような目だ。
「にしても、そこの変てこ耳女は、私が苦手みたいだね」
彼女がアリアに視線を向けると、アリアは布団の中に隠れて行った。ほんと、俺以外の奴に対しては人見知りが凄いな。
「やれやれ。まるで嫌われてるみたいだ。悲しいね」
「あんた。一体何しに来たんだ? 俺たちと雑談をしに来たのか?」
「まあ、半分はそれだね。もう半分は連絡だ。ロキ支部長が私たちを呼んでたんだよ」
「俺たちってことは」
「ライバルとそこの変てこ耳。そして私が一緒に任務をするということだね」
「なるほどね」
支部長室に行くと、ウル、ロキ支部長の2人がいた。
「あら。あなたも来てたのね。てっきりダレスと私の2人だけだと思ったのだけど」
「ウルも一緒に任務か。頼もしいね。君とカイツがいれば百人力だよ」
「揃ったな。さてと。今回の君たちの任務は、ここの廃墟を調査することだ」
彼女はそう言って、俺たちに紙を渡してきた。紙には簡単に書かれた地図のようなものがあり、真ん中の建物に赤い丸が囲っていた。
「ここから北に数十キロ行った先に、とある廃墟があるんだ。昔は何かの研究所として建てられたらしいんだが、魔物の襲撃や資金打ち切りやらが原因で捨てられたらしいんだ。で、それを撤去しようと業者が何人か向かったところ、全員行方不明になった。それだけでなく、ここに興味本位や肝試し気分で来た奴らも、全員行方不明になってる。君たちには、その原因を調査してきてほしいんだ。よろしく頼むよ。と、大事なことを忘れてた。ダレス、武器の修理が終わったから返しておくよ」
そう言って彼女は、青い石をダレスに投げ渡した。
「ダレス。それは何なんだ?」
「これかい? こいつは、私にとっての切り札みたいなものさ。一緒に戦うことがあったら見せてあげるよ。私の本当の武器をね」
馬車を用意し、俺たちは廃墟へと向かっていた。ウルが御者をしており、俺とダレスは向かいあって座っている。アリアは俺に強く抱き着いている。ダレスやウルのことはかなり苦手なようだな。
「そういやウル。この前あの筋肉男から連絡が来たと聞いたけど、何があったんだい?」
「ここでその話しないでよ……やり直そうって言われただけよ。あまりにもしつこくて鬱陶しかったわ」
「ははははは! 相変わらず男運無いね。これで何十回目の失敗なのさ?」
「うるさいわね。次こそは成功させるわよ」
何の話をしているのだろうか。
「筋肉男って誰なんだ?」
「ウルの元夫だ。その筋肉男に結婚を申し込んで、1週間ほど夫婦になってたんだよ。ちなみに彼女にとって、40回目の結婚だ」
「「……えええええええええええ!?」」
あまりにも衝撃的なカミングアウトに、俺とアリアは驚き、ウルは顔を真っ赤にしている。
「え、それってどういう経緯で結婚したのですか! すっごく気になるです!」
「ていうか1週間で別れるって何があったんだ! そんな短期間で別れようって思ったきっかけは何だったんだ!」
「そもそも40回も結婚するってどういうことですか! 何があったらそんなことになるのですか!」
「ああああ! うるさい! 一から説明するから静かにしなさい!」
ウルが顔を真っ赤にしながら怒鳴りつけ、俺たちは黙ってしまった。
「街中を歩いてる時に、筋肉質のがたいの良い男性と出会ってね。見た目がかっこ良くて一目惚れちゃったから、結婚を申し込んだのよ。今から考えると馬鹿らしいとしか思えないけどね。そいつがとんでもなくズボラだったのよ! 食器片付けなかったり、服脱ぎ捨てたり、布団投げ捨てたり! 挙句の果てには尻や胸を何回も触ってきたり! 1週間我慢してたけど、ついに我慢しきれなくなって離婚したの」
「それは……凄いな」
ずいぶんと大変な結婚生活を送ったんだな。あと、彼女が40回も結婚する理由がなんとなく分かった気がする。
「カイツ。ウルって、惚れやすすぎないですか?」
「自分でも分かってるわよ! 仕方ないでしょ。気が付いたらどんな奴でも良い男って思っちゃうもの」
「難儀なもんだな」
「何とかしたいんだけど、どうしようもないのよ。色んな男を見るたびに、結婚したいって感情が率先しちゃうの」
「ほんと、ウルは惚れっぽいよね。とっても面白いし、見てて飽きないよ」
「面白がらなくていい! それより、そろそろ目的地が見えて来たわよ!」
前の方を見ると、この前の森で見た城に似たような雰囲気のある建物があった。あちこちが錆びたり穴が開いたり抉れたりしており、とても住めそうに見えない。
「わあ。酷い所ですね」
「見たところ、ただのおんぼろな建物って感じだな」
「ぼろっぼろだね。ここまでのおんぼろ建物は初めて見たよ」
馬車を建物の前に停め、俺たちは馬車を降りる。
「何か魔力があるわけではない。魔物のいる気配もない。普通の廃墟ね」
俺はウルにこれからのことを質問する。
「どうする? 建物に突入するか?」
「そうしたいけど、中がどうなってるか分からないからね。むやみに突入するのは」
まあそうだよな。罠がある可能性もあるし、下手に突っ込めば全滅する可能性もある。
「うーん。普通に突っ込むべきだと思うけどね。時には勇敢さが必要ってこともあるし」
「勇敢と愚鈍は違うのよ。私はちゃんと作戦を考えて突入したいの」
「そう。作戦とか立てるのはそっちが考えて。私そういうの苦手だから」
彼女がそう言って建物の壁にもたれこむと、壁に吸い込まれるようにして消えて行った。
「……え?」
「……あの人。吸い込まれたですけど」
「……待て待て待て待て! どうなってんだこの建物は!?」
ダレスが壁の中に吸い込まれたが、これはどういうことなんだ。
「そうよ! こんなのほほんとしてる場合ではないわ! 彼女を救出しないと! 建物の中に行くわよ!」
建物の中に入ろうとすると、ウルとアリアが何かに弾かれ、俺は普通に行くことが出来た。
「……弾かれた!? でも、カイツやダレスは入れてるのに」
「どういう基準なのですか? なんでカイツとダレスだけ」
「基準は分からないが、今は行くしかないな。ウル、俺があいつを連れ戻してくる! お前はここでアリアを守っててくれ!」
「ほんとはしてほしくないけど……あいつに死なれても困るし、仕方ないわね。やばいと思ったらすぐに逃げなさいよ!」
俺は不安そうにしているアリアの頭を撫でる。
「カイツ」
「心配するな。すぐに戻って来るから。ウルの元を離れたりするなよ?」
「……分かったです。気を付けて行ってくるですよ」
「おう。ありがとな」
俺はアリアの頭を撫で終え、建物の中に突入した。その瞬間、一瞬だけ視界が反転したような感じがした。
「なんだ。この感覚はー!?」
中は青いカーペットの1本道があり、星形の電球が等間隔に並んでいる。
「なんだ……これ」
明らかに廃墟とは違う。中も綺麗だし、まるで新築の建物みたいだ。
「これは……何かの魔術なのか?」
だが、ウルは魔力は無いと言っていた。てっきり魔術は使われてないと思っていたが。後ろを振り返っても、1本道が続いているだけであり、出口が見えない。
「……仕方ない。このまま進むか」
俺は周りを警戒しながら、前に進んでいく。気配は特にないが、こんな変な所だ。突然どこかから現れる可能性もあるし、気を付けて行かないと。それにしても、ダレスはどこまで進んだのだろうか。そう思いながら進んでいると、黒い扉の前にたどり着いた。警戒しながら開けてみると、巨大なシャンデリアの明かりが目に入った。中は広場のようになっており、石の地面に茶色のベンチ、真ん中には噴水がある。噴水は青い水が流れており、なんだか不気味だ。周りには建物やお店、家のようなものまである。それだけでなく、中途半端に皮膚や肉が付き、骨がむき出しになってる奇妙な何かがそこら中にいた。
「どうなってんだ。ここ」
しかも、周りの奴らが俺を見てひそひそと話をしている。危害を加えてくることはなさそうだが、気分が良いものではないな。それにしても、ダレスはどこに行ってしまったのやら。そう思いながら歩いてると、突如、俺の前にいくつもの魔法陣が現れた。その魔法陣からは、鎧を着た奇妙な骸骨人間が現れ、俺の行く手を塞がるように立っている。
「おいおい。なんなんだよ。このドッキリショーは」
骸骨たちは武器を構えて、俺の前に立っている。殺意は感じないが、敵意は感じるな。骸骨たちの中の1体が俺に聞いてくる。
「質問だ。貴様は人間か?」
「人間だけど、だったらなんだ?」
「貴様を餓鬼様の命令に従い、拘束するのである! 捕まえろ!」
奴がそう言うと、周りにいる骸骨たちが俺に向かってきた。
「六聖天・第1解放!」
そう言うと、背中から天使のような羽が1枚生えた。そして、自身の周囲に、赤い球体をいくつも出現させた。
「剣舞・五月雨龍炎弾!」
周囲の地面にぶつけ、爆風と煙幕を作り出す。
「ぬびゃああああ!?」
「くそっ! 煙のせいでなにも」
奴らが混乱している隙を突き、俺はそこから逃げる。殺意があったらそれ相応の対応をしたけど、奴らは俺を捕まえる気はあっても殺す気は無いようだし、わざわざ戦う理由はない。
「六聖天・脚部集中」
六聖天の力を足に集中させ、高く跳びあがった。六聖天は全身を強化する魔術であり、その力を体の一部に集中させることで、爆発的な力を生み出す。高く跳びあがった後は、刀を壁に突き刺し、それを足場にする。
「どこだ! 奴はどこに消えた!」
「まだ遠くには行ってないはずだ! 探せええええ!」
俺を追いかけた骸骨たちは、俺が上にいると気づかずに通り過ぎていく。人の意識は上には向きにくいってことを聞いたことあるが、他の種族でも、そういう所は同じらしい。
「とりあえず、少しの時間は稼げるか」
俺は刀を抜いて地面に降り、骸骨たちを警戒しながら歩く。
「にしても、どうしたものかな。このままじゃ調査もやりにくいし、顔を何かで隠さないと」
「それなら、良い方法があるぞ」
そう言いながら、ミカエルが実体化して出て来た。
「何か方法があるのか?」
「うむ。妾がお主をコーディネートしてやろう」
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