第14話 ゴブリン討伐戦
俺は彼女たちを遠くに離し、意気揚々といった感じで城に向かって歩いていた。あと数十歩で、奴らの視線に入る頃だろう。
「さてと。やるぞ。ミカエル」
『了解じゃ。我らの力を見せつけてやろうぞ』
「六聖天・第1解放」
そう言って刀を引き抜くと、背中に天使のような羽が1枚生え、刀を紅い光が纏う。
「剣舞・五月雨龍炎弾!」
いくつもの赤い球体を刀から生み出し、それを城に向かって放つ。放たれた紅い弾は、あちこちに着弾して爆発を起こした。
「ぎいいいい!? なんだこれは!」
「攻撃!? どこの馬鹿が仕掛けてきやがった!」
「いぎゃああああ! 腕が! 腕がああああ!」
奴らが混乱してる隙を突き、俺は城に向かって駆け出した。だが、俺のことを見失うほど馬鹿では無かったようで、何匹かの視線が俺に向けられた。
「侵入者だ! しかも男。殺して今晩の夕食にしろ!」
その号令に従い、何十匹ものゴブリンが俺に襲い掛かって来る。
「剣舞・龍炎弾!」
俺は刀の切っ先に紅い球体を生み出すと、それを地面に向かって放つ。球体が地面にぶつかって爆発を起こし、辺りを土煙が覆う。
「ぐう!? 目くらましか」
「攻撃に気を付けろ! この煙の中からやって来ー!?」
俺は土煙に姿を隠し、すれ違いざまに、4体のゴブリンの首を斬り落とした。そのまま城に向かって直進していくと、土煙の中から出た。
「城には入れねえぞおおお!」
城に入ろうとすると、上から巨大なゴブリンが襲い掛かってきた。俺は後ろに下がってそれを躱した。
「へえ。こんなでかい奴もいるのか」
「ふううううううう! ここから先には、行かせねえぞ!」
随分とでかいな。4メートルほどの巨大な存在。どこにこんな奴が潜んでいたのやら。さっきのように土煙を起こして対策されるだろうし、別の方法で攻めないとな。俺は刀を収め、一気に駆け出す。
「そんな動きなど!」
奴が斧を振り下ろして攻撃してくる。俺はさらにスピードを上げて避け、足元を通過して後ろまで走った。
「ちっ! このお!」
奴が後ろに振り返って斧を横から振って来る。その攻撃を跳んで躱し、奴の首元まで跳躍する。
「剣舞・
鞘から刀を引き抜いて居合切りを放ち、ゴブリンの首を斬り落とした。
「うん。問題なくやれる」
俺はそのまま城の中に突入し、中を駆け抜ける。
「いたぞ! 奴を囲え!」
「男か? 男なら殺せ!」
「この斧でぶっ殺してやる!」
前や後ろから、大量のゴブリンが現れ、こっちに向かってきた。俺がやるべきは時間稼ぎ。そのためにこれだけのゴブリンを相手にしなければならないというのは、かなり辛いな。だが負けるつもりはない。過去と決着をつけるためにも、こんなところで死ぬわけにはいかない。後ろは50匹以上は確実。前は10匹前後と言ったところだろうか。俺は一気に走り出し、ゴブリンたちの中に突っ込んだ。
「殺してやらああ!」
ゴブリンたちは、一斉に斧で斬りかかってくる。
「剣舞・龍刃百華」
横一閃に剣を振り抜く。その直後、無数の斬撃がゴブリンたちを襲った。だが、俺が狙ったのは体ではなく、奴らの武器。奴らの武器を破壊し、集団の方にふっ飛ばした。
「いぎいいいいい!?」
「ぐべええええええ!?」
こっちを囲うように集まっていたゴブリンはドミノ倒しのように倒れて行き、道が出来た。その隙を逃さず、奴らの包囲を突破して駆け抜ける。いちいち相手にしてたらキリがないし、こっちが力尽きてしまうからな。
「くそが。逃がすな! あいつの肉をぶっ潰してやれ!」
「絶対に殺してやる!」
後ろから大量のゴブリンが追いかけて来る。確実に70匹以上いるな。まだ全部出てるわけではなさそうだし、恐ろしいものだ。だが、やることは変わらない。俺は階段を駆け上がり、上に上がっていく。
「殺せ! 殺せええええ!」
「ぶっ殺して今夜の飯にするぞ!」
上に上がると、またもや大量のゴブリンが向かってきた。後ろからも追いかけてきてる。死なないように何とかしないとな。
「やるか。ミカエル。覚悟しといてくれよ」
『全く。お主も無茶な作戦を考えるのお』
「これ以外思いつかなかったからな。行くぞ! 剣舞・双龍剣」
刀を纏う光はもう片方の手に伸び、2本目の刀を生み出した。そして、その2本を、前後のゴブリンたちに向ける。刀の周囲に、多数の紅い球体が現れた。
「剣舞・五月雨龍炎弾」
ゴブリンたちに向け、大量の紅い球体を放つ。弾は次々にゴブリンに当たって爆発を起こし、次々に倒していく。
「びぎゃあああああ!?」
「なんだ! なんだこれはああ!」
次々にゴブリンを倒していくも、その数はあまり減っているようには見えていない。この技は魔力消費が大きいから、ずっと撃ち続けてたらあっという間に魔力が無くなる。ゴブリンの数もえげつないほどに多いみたいだし、俺の魔力が空になるのが先だろうな。
「このままだとまずいし、この方法はどうだ!」
少し前の地面に向け、大量の紅い球体を放つ。城を壊さないよう、威力は小さくした。それでも地面に当たって爆発すれば、煙が俺たちを包んだ。
「うぎゅううう!? なんなんだこの煙は!」
「煙たい。煙たいぞ!」
「構うな! このまま突っ込め!」
これで多少の時間は稼げるかと思ったが、ゴブリンたちは気にせず突っ込んできた。
「たく。面倒だが、やるしかないか」
俺は2本の刀で、ゴブリンたちの攻撃を受けとめた。この狭い通路では、戦うことのできるゴブリンの数に制限がある。戦うことが出来るのは、7、8匹ほどと言ったところだろうか。それぐらいの数なら、なんとか裁くことが出来る。俺はゴブリンたちの攻撃を捌いていきながら、1体に狙いを定めた。
「剣舞・爆龍十字!」
狙いを向けたゴブリンの体を、バツ形のように切り裂いた。
「ガギャッ!?」
「受け取れ」
切り裂いた部分が爆発を起こし、後ろに大きく吹きとばした。そのままドミノ倒しのように、ゴブリンたちを巻き込んでいく。前は少し楽になるだろう。問題は後ろの方。
「このクソ野郎があああああ」
後ろから襲ってくる奴が、横から斧を振り下ろしてきた。その攻撃を刀で防ぎ、もう1本の刀で後ろ向きにゴブリンを刺し殺した。
「あがっ……このお」
刺し殺したゴブリンを、集団の方へ投げ込んだ。
「ぎい。貴様ああああ」
「ふう。かなり集まってきたな」
あちこちにうようよいて非常に気持ち悪い。だが、まだ時間稼ぎをしないといけない。作戦を成功させるためにも。
「こいつは絶対に殺せ! ひき肉にして飯にするんだ!」
両側からゴブリンが襲い掛かってきたので、その攻撃を2本の刀で受けとめた。その後も何度も前後から斬りかかって来る。俺は前の攻撃を受けとめ、後ろの攻撃を全て躱していった。だが。
「食らえええええ!」
後ろからの攻撃を完全に躱すことが出来ず、右肩に斧が突き刺さった。
「ぐう。この野郎!」
俺は攻撃してきたゴブリンを、刀で後ろ向きに刺し殺した。だがその隙を突かれ、4匹のゴブリンが一斉に攻撃してくる。
「双龍剣・解除」
双竜剣を解除し、剣を1本に戻す。
「剣舞・龍刃百華」
横一閃に剣を振り抜く。その直後、無数の斬撃がゴブリンたちを襲い、バラバラに斬り殺した。かなり殺したはずだが、それでも数が減ってるように見えない。これだけの数がどこに隠れてたのやら。どんだけ軽く見積もっても、300匹以上はいるだろうな。こんなボロボロの城にここまでいるとは思わなかった。そう思ってると、遠くの方で、森の方からバチバチバチッと音がし、ゴブリンたちがそっちの方を見る。
「なんだ。何があった」
「雷か? いや。それにしては音が小さいような」
ようやく合図が来たか。そう思った直後、俺の前を横切り、1本の矢が壁に突き刺さり、それにゴブリンたちの視線が集まる。
「警告。雷に気を付けろ」
そう言って俺が飛んだ直後、矢から雷が発生し、このフロア全体に広がった。
「いぎゃああああ!?」
「がぎいいいいい!?」
雷はすべてのゴブリンを1匹も逃さずに捕らえ、その肉体を焼き尽くしていく。これが俺たちの作戦。ゴブリンたちを1箇所に集め、ウルが魔力をたっぷり込めた魔術で倒す。正面突破でゴブリンを倒すのはほぼ不可能。確実性を高めるためにこの作戦でいったわけだが。にしても、彼女がここまで強力な魔術を使えるとは。ゴブリンの肉体はほぼ炭になっている。そういえば、ダレスもかなり強かったな。騎士団というのは、このレベルのやつがうようよしているのか。
「ほんと、とんでもない所に入ってきたものだ」
戦いが終わった後、俺たちは再び合流した。アリアは緑の妖精を出し、俺の傷を治してくれている。相変わらず足がガクガクと震えてるし、俺の腕を強く握っている。
「アリア。怖いなら、無理しなくても良いんだぞ。これぐらいの傷ならなんとでもなるし」
「いえ! 私は騎士団を回復させるのが仕事。それをほっぽるわけにはいかないのです! カイツと一緒にいるためにも」
今にも逃げだしそうになっているが、それでも彼女は回復をやめることは無かった。彼女の勇気は凄いな。逃げることなく、自分の仕事をきちんとやり遂げている。
「はい。これで治療は終わりです」
「凄いな。完全に治ってるし、体も軽くなった気がする」
「それなら良かったです。にしても、カイツは凄いのです。あれだけのゴブリンと戦いながら時間を稼ぐなんて」
「本当ね。あれだけの戦闘能力があるとは思わなかったわ。目をつけていただけのことはあるわ」
「それを言うなら、ウルの魔術も凄かったよ。あれだけ強力な魔術を使えるとは思わなかった」
「あれを使えたのは、溜める時間があったからよ。あなたが時間を稼いでくれたおかげで、あれだけの力を使うことが出来た。ありがとうね」
「どういたしまして」
「……やはり、目をつけていて良かったわ。速く結婚したいし、もっともっと距離を詰めれるように頑張らなくちゃ。そして、この人で最後の結婚にするのよ」
「? 何か言ったか?」
「いいえ。なーんにも」
「……むう。なんだか胸がチクチクするのです。それに、少しばかり嫌な予感もするのです」
なんだか、アリアからの視線が冷たくなった気がする。
『カーイツー。後ろから刺されないように気をつけるんじゃぞー』
ミカエルからも冷たい視線で見られてる気がする。俺が何をしたというんだ。
カイツ達がゴブリンを討伐した場所からはるか遠くの野原。そこには1人の女性がいた。短い茶髪に青い瞳。服装は騎士団の制服である襟や袖口が金で装飾された黒のコート、鎖の着いた黒のズボンだ。彼女はミルナ・レイート。騎士団メンバーにしてロキ支部長の秘書を務めている。彼女の前にはいくつもの青いターゲットマークが出ており、そこにはカイツやアリア、ウルの顔、周りの風景などが映っていた。
「にゃるほどにゃるほど。これがカイツ・ケラウノスの実力。面白いにゃんねえ」
彼女の仕事は魔物や悪人と戦うことでは無く、騎士団の監視、調査。メンバーの実力を調べたり、不正やサボりをしてないかを監視することが仕事である。
「ふむふむ。ウルとも良好な関係気づけてるみたいにゃんし、これは良い報告が出来そうにゃん」
彼女はターゲットマークを閉じ、スキップをしながらそこから離れていく。
「にゃははははは。あいつが来てくれたおかげで、楽しいことになりそうにゃーん」
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