第13話 初任務

 試験が終わった翌日。俺たちは部屋に届いた騎士団の制服に着替えていた。


「おおおお。これ、すっごくかっこいいです。身も引き締まるですし」

「サイズもピッタリだし、動きやすさも問題なし。とんでもなく高性能だな」


 軽く足や腕を動かしてみると、この服の凄さが良く分かる。俺が着ていた服よりも何十倍も動きやすい。何というか、服が俺の動きを補助しているみたいだ。拳を振ったりする速さも、前より速くなってる。服を着替えるだけでここまで変わるとは。ミカエルは俺の周りを飛びまわりながら、必死に絵のようなものを描いている。


「何してんだ。ミカエル」

「いやあ。こんなにかっこいいお主を見たら、ぜひ絵に残さないとと思っての。今必死に描いてるとこなのじゃ」

「そうか」


 彼女は良い人なんだけど、時々良く分からないことをする。アリアも俺をじっと見てるし。


「確かにかっこいいです。今日のカイツは、いつもより何倍もカッコいい気がするです!」

「それは流石に言い過ぎだろ。アホなこと言ってないで、さっさと飯食いに行くぞ。ミカエルは俺の中に戻ってくれ」

「ちょっと待ってくれ。あと少しで絵が完成するのじゃ。これをこうして……あと少しで」


 ミカエルが絵を描き終えるのを待っていると、コンコンとドアを叩く音が聞こえた。


「カイツくーん。起きてるかい? ちょっと用があるだけど」


 それが聞こえた瞬間、ミカエルは紙とペンを投げ捨て、玉になって俺のポケットに入った。ロキ支部長の声だな。


「起きてます。入っても大丈夫ですよ」


 そう言うと、ロキ支部長が入ってきた。


「おお。騎士団の服がかっこよく似合ってるね。惚れ惚れしちゃうよ」

「ありがとうございます。それより何の用ですか?」

「騎士団の初仕事だ。早速働いてもらうよ」


 彼女に連れられて支部長室に入ると、赤いメッシュが所々に入った黒髪の女性がいた。


「! あなたは」

「あんたは。あの時の」

「そう言えば、自己紹介がまだだったわね。私はウル・ルーミナス。ウルって呼んでくれると嬉しいわ……やっぱり良いわ~。あの時からずっとかっこいい。試験の時もかっこよくて強かったし最高ね。結婚したい」


 後半なんて言ったんだろうか。声が小さいせいか、上手く聞き取れなかった。例の結婚云々のことも気になるし、警戒しておいた方が良いかもしれない。


「俺はカイツ・ケラウノスだ。よろしく」

「アリア・ケットシーです。よろしくです」

「さてと。自己紹介も済んだところで、今回の仕事内容を説明しよう」


 そう言うと、ロキ支部長が1枚の紙を渡した。そこには、ゴブリンの巣討伐任務と書かれており、緑色の角が生えた化け物の絵が描かれており、その絵に赤いバツ模様が描かれている。


「君たちにやってほしいのは、レストフォレストに住むゴブリンの討伐だ。そこにいるゴブリン共が悪さをしていてね。森に来た女を襲ったり、町にいる女を攫って自分のものにしたりね。このままでは町にいる女性も危険だし、森が少しでも安全に通れるようにするため、君たちに討伐してきてほしいのだよ」

「あの。ゴブリンってどんな生物なんですか? 良く分からないんですが」

「ゴブリンというのは、緑色の体に小さな角を生やした化け物だ。メスの生き物が大好きで、特に人間の女に目が無いらしい。個体にもよるが、そこまで強くないから安心してくれ」

「ゴブリンか。私あいつら苦手なのよね。見た目が気持ち悪いし」

「文句は言っても良いが、仕事はちゃんとしてくれよ。部下がきちんとしてないと、私が怒られちゃうからね」

「分かってるわよ。仕事はちゃんとやるわ。結婚のためにもね」


 ゴブリン討伐か。せっかくの初仕事だし、失敗しないようにしないと。





 支部長室での話を終えた後、俺たちは馬車に乗り、レストフォレストに向かっていた。御者はウルが務めており、俺とアリアは荷台の上に乗っている。


「そういえば、アリアは戦ったりできるのかしら?」

「いえ。私は全然戦えないです。出来るのは回復だけです」

「となると、貴方を守りながらの戦いとなるわけね……ちょうど良いかもしれないわね。かっこいい所もみせれそうだし。早期結婚出来そうだわ」

「? 何か言ったか?」

「いえ。なんでもないわ。それより、カイツには趣味とかないの?」

「趣味? えっと……本を読むとかかな」

「良いわね~。本を読むか。それなら大丈夫ね。好きな料理とか嫌いなものとかあるの?」

「これと言って好きなものはないかな? でも、嫌いなものもない」

「なるほど。ますます良いわね。私の結婚相手にぴったりだわ。もしかしたら、これで最後の結婚に出来るかもしれない」


 さっきからぶつぶつ何を言ってるのだろうか。声が小さいせいで良く聞き取れない。


「あの。さっきから何を言ってるんですか?」

「気にしなくていいわ。それより、森が見えて来たわよ」


 前を見ると、高い木が並んでいる森が見えて来た。外から見る限り、森の中は光があまり通っておらず、夜までとは言わずとも、かなり暗い。


 馬車は森のすぐそばに止まった。


「この森を馬車で移動するのは難しいわね。ここからは徒歩で行くわよ」

「了解。行くぞ。アリア」

「はいです」


 俺はアリアを連れて馬車を降り、ウルと一緒に森の中に入っていく。森の中は暗く、嫌な雰囲気がする。


「嫌な気配がするわね。それに、ねっとりとした視線も感じる」

「確かに、何か変なのに見られてるみたいだな」


 森の中からチクチクするような視線が3つ。監視されてるといった感じだろうか。


「カイツ。なんだか怖いです」

「心配するな。俺が守るから」


 俺はアリアを傍に置きながら、森の中を歩いていく。そうしていると、目の前に緑色の化け物が3体降りて来た。体の大きさは俺たちと同じくらいであり、頭に角が生えている。腰にボロボロの布を巻いており、斧を持っている。


「ぎひひひひひ! 女が2人! しかもスタイルが良い」

「男は殺して女はやろう!」

「俺は変な耳生やしてる奴もらう! ああいう不気味な奴が好きなんだ!」


 あれがゴブリンという奴か。確かにロキの言う通り、気持ち悪い見た目をしている。


「カイツ。援護するから、前をお願いするわ」

「いや。こいつらは俺1人でやる」


 俺は前に出て、刀を引き抜く。


『カイツ。こんな奴らに時間をかけてられんぞ』

「分かってる。速攻で終わらせる。六聖天・第1解放」


六聖天の力を発動し、奴らの前に立つ。


「ぎひひひひひ! 俺たち相手に1人で十分?」

「舐め腐ってるな。目にもの見せてやろうぜ!」

「おうよ! 俺たちの無敵コンビネーションをー!?」


 奴らがべらべらと話してる間に懐まで接近した。


「油断しすぎだ。剣舞・龍刃百華りゅうじんひゃっか!」


 横一閃に剣を振り抜くと、無数の斬撃がゴブリンたちを襲った。


「馬鹿な……俺たちが……察知できないだと」


 その言葉を言い残し、ゴブリンたちは細切れになった。思ったより弱かったな。この程度なら、簡単に片づけられる。


「凄いです! あのゴブリンを瞬殺するとは。流石はカイツです!」

「そうね。新人でこれだけ動けるというのは、中々珍しい方よ」

(さっきの動き。そこら辺の団員とは比べ物にならないわね。1度や2度の戦闘では、あんな動きは身につかない。彼は一体何度戦ったというのかしら。ますます良いものだわ。ドキドキしちゃう。ますます結婚したくなってきたわ)


 アリアはキラキラした目で見つめてるが、ウルの方は妙な感じだな。狙われてるというか、変にむずかゆい。目もキラキラしてるというよりは、ねっとりした感じがするし。


「さてと。さっさとゴブリンの巣窟に行っちゃいましょう。早く任務を終わらせたいし」

「了解」

「了解です」




 森の中をさらに進んでいくと、ウルが立ち止まった。


「? どうしたですか?」

「囲まれてるんだろ。数は5匹ぐらいと言ったところか」


 全員森の中に隠れている。大体の位置は分かるし、面倒だけど1匹ずつ殺すか。そう考えて行こうとすると、ウルが腕を出して俺の動きを止めた。


「ここは私がやるわ……せっかくのアピールポイントだしね」


 後半何を言ったのか分からないが、彼女がやるらしい。彼女は弓を構え、矢を5本取って上空に狙いを向ける。矢を青白い光が包み、バチバチと音を立てている。


「行くわよ。プラズマショット!」


 彼女が矢を撃つと、5本の矢が上空に打ち上げられた後、意思を持ったかのように動き、森の中に突っ込んでいった。


「あぎゃっ!」

「ごべっ!」

「ぎぎっ!」

「ぐげっ!」

「じゃがっ!」


 間抜けに思える呻き声が聞こえた後、5匹のゴブリンが落ちて来た。


「ざっとこんなものね」

「凄いな。全員急所に当たってる」

「そりゃそうよ。プラズマショットは、自在に動かすことが出来るからね。急所を狙うなんてわけないわ」


 何でもないように言ってるが、これはかなり異常だ。ゴブリンたちの姿は木や葉っぱに隠れて見えなかった。それなのに、全員の急所をしっかりと狙えるなんて。


「良く急所を狙えたな。どうやって位置を?」

「奴らが隠れてた所。葉っぱや木が不自然に動いてたもの。位置を割り出すのはそこまで難しくなかったわ」


 なんて奴だ。俺だって大雑把な位置しか把握できてなかったのに、こいつは完璧に把握していた。並大抵のレベルじゃない。矢の扱いもかなり手慣れている。とんでもない奴だな。


「凄いな。こんなことが出来る奴がいるとは思わなかった」

「ふふふ。褒めてくれて嬉しいわ」

(来た来た来た――! 彼の目が憧れや尊敬のまなざしになっている。アピール大成功ね! このままいけば、マジで結婚できるかもしれないわ!)


 ウルの奴。やたら嬉しそうな顔をしてるけど、何かあったのだろうか。






 さらに森の中を進んでいくと、巨大な城が見えて来た。城と言ってもかなりの廃墟であり、あちこちに穴が開いているし、明らかに老朽化している。俺たちは木の陰に隠れ、その城を観察する。


「カイツ」

「ああ。嫌な気配がぷんぷんする。恐らく、あそこがゴブリンの巣窟だろうな」

「あそこが。なら、一刻も早く行くです! とっととぶっ潰すです!」

「落ち着けアリア。気配の感じから、軽く見積もっても、80匹以上のゴブリンがいる。数では完全に負けてる上に、あの城は奴らの住処。地の利はあっちにある」

「? えっと……地の利ってどういうことです?」

「要するに、考え無しで突っ込めば、全滅する可能性が高いということだ。何か作戦を考えないと」


(この子。本当に何度戦ったというの。ゴブリンの気配もかなり読み取れてるし、そこからの分析力も凄い。一体どんな過去を送れば、これほどの人間になるのかしら。ますます気になるわあ。見つめるだけでドキドキしちゃう。結婚したいわ~。彼は間違いなく当たり。今迄の奴らとは違ってイケメンだし性格も良い。ああ~。結婚したい。どうにかしてもっと距離を縮める方法は無いかしら?)


 またウルからの奇妙な視線を感じたが、あえて無視した。今考えるべきなのは、あの城にどうやって突入するべきかだ。彼女のことは後で考える。


「一番簡単なのは、城にいるゴブリンをこっちに呼び寄せて、罠にかける。その後に一網打尽ってところかしらね。でも」

「あいつらが城から出てくるとは思えないし、別の方法で行くべきだろうな」


 こっちが呼び出すために何らかのアクションを起こしても、奴らは警戒して出てこないだろう。城の中にいる状態で、奴らを一網打尽にする方法を考えないと。


「うーん。どうするべきですかね」

「難しいわね。あそこに乗り込み、奴らを一気に倒す方法」

「ふむ。ちなみにウル。お前はどんな魔術が使えるんだ?」

「私の魔術は、雷撃サンダーブレイク。雷を操る魔術よ」


 そう言って、彼女は指先に小さな雷を発生させた。雷を操る魔術か。武器からして弓で戦うタイプなんだろうけど……そうだ。


「ウル。お前の弓で、城の中にいるゴブリンを撃ち抜けるか?」

「もちろん。あそこにいるゴブリンだって余裕で撃ち抜けるわ」


 そう言って彼女が指さした方向を見ると、城のてっぺんにある古びたバルコニーに、監視役と思われるゴブリンが立っており、外を見渡している。


「あそこにいる奴を撃ち抜けるのか?」

「まあね。ただ、あいつを倒せば間違いなく警戒されるでしょうし、こっちにゴブリンが流れ込んでくるでしょうね」

「ちなみに、魔術の力はどれくらいなんだ?」

「時間をかければ、ゴブリンを炭にするくらいの力を出すことは可能よ」


 十分だ。良いことを聞いた。


「ウル。奴らを一網打尽にする方法を思いついた」

「へえ。それは一体どんな作戦かしら?」


 奴らを一網打尽にする方法。それは。


「まずは、俺があの城に突入して、ゴブリンたちと戦う」

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