第12話 アリアの魔術

 side カイツ


 戦いが終わってしばらくすると、俺と奴の体が光り出した。何事かと思うと、奴についてた傷が次々に消えていった。光が収まる頃には、俺たちの体は完全に治癒し、戦う前と同じ状態になっていた。


「ははははは! ここまで強いとは思わなかったよ。あんたは我がライバル、いや、ベストカップルに相応しい男だ!」

「はあ。それは……どうも?」


 なんだかよく分からない奴だな。やたらロックがどうとか言ってるし。そう思ってると、奴は俺に近づき、背中をバンバン叩く。


「いやー、あの連続攻撃。ほんとにすごかったよ! あんたは最高の逸材だね!」

「はあ」


 どういうテンションなんだ。この人のことがよく分からない。


「やけに元気だね。そこまで元気な君は久しぶりに見たかもしれない」


 声がした方を見ると、いつのまにか観客席を離れたアリアたちが、俺たちのいるところへとやってきた。


「そりゃ、ここまで強いやつを見かけたからね! 元気になるってもんだよ。私は強い奴が大好きだからね」

「ま、気持ちは分からなくも無いがな。カイツ君。君は本当に素晴らしい。君のような人間が我が騎士団に入ってくれたこと。とても嬉しく思う」

「それは……ありがとうございます」


 やけに褒めてくるけど、ここまで褒められると、少し嘘くさく感じてしまう。そもそも、なんでこの人は俺をここまで気にかけるんだ。どうにも真意が掴めなくて気味が悪い。


「ダレス。カイツ君の結果を書類にまとめて、上層部に報告しといてくれ。私はまだやることがあるのでね」

「了解! パパッと仕上げてくるよー」


 そう言って、彼はここを去っていった。なんというか、嵐のようなひとだったな。


「さてアリアちゃん。次は君の番だ。君は確か、回復系の魔術を使うのだったね」

「はいです」

「なら、その力がどれほどのものなのか、見せてもらうとしよう」


 そう言って、女はナイフを取り出した。何をするのかと思うと、女は、自分の腕をナイフで切り裂いた。腕から血が流れ、地面に滴る。


「ひっ!? 血、血が」

「! 一体何を!」


 突然のことに俺は困惑し、アリアは怯えながら俺の背中に隠れた。血を見るのが相当嫌なようだな。


「問題ない。この場所にいる限りは、どれだけダメージを負っても死ぬことはないからな。さてアリアちゃん。君の試験は簡単だ。今から、私の傷ついた腕を治してくれたまえ。君がどれほど出来る人間なのかを知りたいからね。最も、そうやってガクガクと怯えても構わないけどな」


 アリアは今も怯えており、俺がいなかったら即座に逃げ出しそうだ。このままだと可哀想だな。


「別の方法は無いのか? このままだと試験にならなさそうだが」

「おいおいカイツ君。君はその猫耳女に甘すぎないか? 試験になるかどうかは、そいつの頑張り次第だろ。それに、回復魔術の試験をするのに、これ以上適切な試験があるか? 怪我をどれぐらい速く治癒させれるかを見て判断する。それが一番効率の良いやりかたじゃないか」


 確かに効率が良いかもしれないが、このままだと試験にならない。何とかしないと。


「……だ、大丈夫です。やるです」


 アリアはそう言って前に出ようとするが、震えが尋常じゃない。


「無理するなアリア。そんな状態じゃ」

「私は……カイツについていくために、騎士団に入ると決めたのです。なら、自分の力は最大限活かせるように頑張らないといけないです」


 そう言うと、彼女は女に向かって両腕を突き出す。


「癒やすです。治癒妖精ライフ・フェアリー!」


 そう言うと、彼女の手から緑色の小さい人のようなものが現れた。背中から羽根が2対4枚生えている。それは女の腕にくっつくと、傷ついた腕が緑色の光に包まれる。すると、傷や流れていた血が一瞬で消えた。


「ほお。軽い傷とはいえ、一瞬で治癒させるとは。それに、妖精を扱うタイプとは面白い」


 さっきのあれは妖精と言うのか。面白い魔術だな。


「この妖精は、私以外のあらゆる生命を治すことが出来るです。人間だけでなく、動物や植物も治せるです」

「ハハハハハハ! 中々面白い魔術じゃないか。気に入ったよ。こんな面白い人間だとは思わなかった。いまのでどのくらいのレベルかも把握したし、これで試験は終わりだ。お疲れさま」

「……ふう。なんとかなったです」


 試験が終わって安心したのか、アリアがふらついたので、駆け寄って支えた。


「お疲れ。よく頑張ったな」

「はい。今日は頑張ったです」

「いやはや。今年は豊作だね。素晴らしい団員が何人も入ってきてくれる。とても嬉しい日だ」


 女はそう言いながら、嬉しそうに拍手している。


「カイツ・ケラウノス。アリア・ケットシー。改めて、君たちの入団を歓迎する。私はヴァルハラ騎士団ノース支部支部長、ロキ・エターナルだ。これからよろしく頼む」


 この人、支部長ってことはめちゃくちゃ偉い人じゃねえか。


「支部長だったんですか。タメ口使ってすいません」

「気にするな。君にタメ口を使われるのは嫌いではないからね。君たちの活躍、期待してるよ」






 試験が終わった後、俺たちは自分の部屋に戻った。


「ほへーー。今日は疲れたです」


 アリアはベッドに寝転がりながらそう言った。


「何とかクリアできて良かった。にしても、今日の試験は疲れたな。あのダレスとか言う奴。中々強かった」

「お疲れさまじゃ。とってもかっこよかったぞお」


 そう言いながら、ミカエルが実体化して現れた。


「褒美に頭を撫でてやろう。よしよしよし」


 彼女がニコニコとしながら頭を撫でてくる。嬉しいけど、むず痒くなるからやめてほしいんだが。


「むう。なんだか心がチクチクして苛つくです」


 なぜかアリアから冷たい視線を向けられてるし。どうすればいいんだ。


「むふふふ。モテる男は大変じゃのお。刺されんように気をつけろよ」

「誰が誰に刺されるんだよ」

「さあ。誰のことじゃろうな。それより、せっかく実体化出来る時間なんじゃし、あれを食わせておくれ」

「はいはい」


 俺はカバンの中から紫色の石を取りだすと、ミカエルに差し出す。


「はい。あーん」

「あーん。んう~。誠に美味じゃのお。やはりお前さんからもらって食べるのは最高じゃわい」

「その石みたいなの、なんなのです?」

「俺もよく分からないが、ミカエルの力を維持するのに必要なものらしい」

「外はサクっと。中はふわふわで美味じゃぞ。お主も食べてみるか?」

「……遠慮しておくのです」

「そうか。せっかく美味じゃというのに。カイツ、もう1個食べさせておくれ」

「はいよ」


 俺はミカエルにもう1個石を食べさせながら、これからのことを考えていた。成り行きで入ることになったヴァルハラ騎士団だけど、人助けをする組織のようだし、そこに入れたのは嬉しい。あいつとの約束も果たせそうだしな。


「カーイツ。何を考えておるのじゃ?」


 ミカエルが俺の頭にしがみつきながら、そう聞いて来た。心なしか、少し睨んでるように見える。


「……昔の女のこと」

「昔の女!? それってどういうことです!」


 アリアがとんでもない声を出しながら、こっちに詰め寄ってきた。


「なんでそんなに反応してんだよ」

「どういうことなのです! 昔の女ってどういうことです!」

「……ちょっとした腐れ縁ってだけだよ。それ以上でもそれ以下でもない」

「今は! 今はどういう関係なのです!」

「……今は連絡すら取ってない絶縁状態だよ」

「そうなのですか。それは良かったです」


 露骨にホッとした表情だけど、そんなに俺の交友関係が気になるのかね。


「俺がどういう関係築いてるのか、そんなに気になるのか?」

「いや……別に……気になるというわけでは……あの」


 彼女は顔を真っ赤にしながら言いよどむ。


「えっと……お風呂入ってくるです!」


 彼女は逃げるようにして風呂場へ行った。


「何だったんだ。一体」


 ミカエルはやけに笑いを堪えるようにしてるし、わけが分からない。


「むふふふふ。お主は本当に罪作りな男じゃのお」

「さいですか」


 俺が何の罪を作ったというのやら。

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