第11話 試験

 騎士団に入団した翌日、俺はアリアと食堂に来ていた。


「わあ。沢山の人が来てるのです」

「というか、女性が多すぎないか?」


 食堂にいるのは女性の団員ばかり。男が1人もいない。何かの都合でいないのかもしれないが、それにしてもいなさすぎる。まあ、男の数が少ないんだろ。にしても。


「ううう。なんだか見られてる気がするです」


 周りの女性たちは、俺よりもアリアの頭に生えてる耳を見ている。中にはひそひそと話している人たちもいた。何を言ってるかは分からないが、睨み付けるように見てるし、良い話ではなさそうだ。


「気にすんな。陰口を言う奴らなんて気にしなくて大丈夫だ。もしなんか言ってくるような奴がいたら、俺が守ってやるよ」

「カイツ。ありがとうです」

「とりあえず飯を食おうぜ。腹が減って仕方ない」


 俺たちはカウンターに行き、朝食Aセットというのを頼んで食事を受け取り、席に着いた。


「カイツ! この銀色の魚、とっても美味しいのです! それに、このピンク色のお肉も!」

「それは良かった。口に合って良かったよ」

「はい。んんうう。このスープも美味しいです。カイツと一緒になってから、ずっと幸運ばかり起きてる気がするのです! あの時助けだしてくれた時から、私はずっと幸せ気分なのです」

「そうか。それなら良かった。色々大変なことがあったから、アリアに嫌な思いをさせてないか不安だったんだ」

「確かに大変なことばかりでしたが、カイツが助けてくれたし、全然嫌じゃなかったのです!」


 そう言って、彼女は嬉しそうに笑う。屈託のない笑顔は美しく、太陽のように見えた。


「良かった。そう言ってくれると嬉しいよ」


 そう言って、俺は彼女の頭を撫でる。彼女は嬉しそうに受け入れ、耳をぴょこぴょこと動かす。


「ほえ〜。とっても気持ちいいのです。体がポカポカ〜なのです〜」


 妙な歌を歌いながら、彼女は嬉しそうに体を揺らす。こうして、2人で楽しく朝食を食べていた。


 朝食を食べた後、俺たちはまた骸骨の明かりがぶら下がった部屋の中にいた。目の前には昨日の黒髪の女性が座っており、机の上には青い水晶が置いてある。今日は変な言葉遣いの女は来ていなかった。


「さーてと。ではこれから試験の説明をしようか。まずは魔力値を測定してもらう」

「魔力値? なんだそれは」

「おや。魔力値を知らないのか。随分と珍しい奴だ。魔力値というのは、魔術を扱うための魔力の量を数値化したものだ。ここにある水晶に手をかざせば、魔力値がどのくらいあるのかを測定することが出来る。まずはアリアがやってみてくれ」


 魔力。そんなものがあるとはな。俺の魔力値というのはどのくらいあるんだろうか。


「カイツ。手を握ってても良いですか?」

「良いぞ」


 俺が了承すると、アリアが俺の手を握りながら水晶に近づく。心なしか、女と距離をとってるように見えるな。この人見知りは何とかしないといけないな。これだと日常生活を送るのも難しそうだし。そう思ってると、アリアは水晶に手をかざした。水晶が光り輝き、上に数字が表れた。その数字は4500。これがアリアの魔力値何だろうか。


「ほお。4500か。中々良い数値だな」

「これ。良い数値なんですか?」

「ああ。騎士団の魔力値の平均は大体3000前後だからな。魔力値だけで言えば、君は中々の有望株だ。さて。次は君だな」


 有望株とは凄いな。女性は俺をキラキラとした目で見ている。俺の魔力値が騎士団の平均より下だったら失望されそうだし、測るのが怖くなってくるな。だが試験を受ける以上、やるしかないか。不安に襲われながら、水晶に手をかざした。すると、さっきよりも水晶が強く輝いた。そして表れた数値は。


「……68000」

「はは……はははははは! こいつは凄いな! 私の期待以上だよ。まさか7万近くを出す人間が現れるとはな。はははははは! こいつは本当にすごい! 前代未聞だよ。どれだけ魔力値が高いやつでも、1万を超えるのが限界だったというのに。くふふふ。本当に面白い」


 自分でもびっくりするレベルだ。騎士団の平均は3000前後らしいのに、俺の魔力値は68000。こんなに魔力あったんだな。全然気づかなかった。アリアも驚きのあまりに言葉を失っているようだし、女性の方は笑い転げている。


「ハハハハハハハ! 本当にすごい。ここまで素晴らしい人が入ってくれて嬉しいよ。それじゃ、次は魔術試験と行こう」

「その試験では何をするんだ?」

「君たちがどれだけ魔術を使いこなせるのか、どれだけ戦えるというのかを測る試験だ。戦闘に特化した魔術でなかった場合も安心。それに合わせた試験をする。さて。カイツ君の魔術は戦闘特化というのは知ってるけど、アリアはどうなんだい?」

「私のスキルは他者を回復させる魔術です。回復させる対象は、自分以外なら何でもいけるです」


 回復させる力か。メリナと同じような力だな。多分、彼女のあの力も魔術と呼ばれるものなんだろう。


「なるほど。ではカイツ君は私について来てくれ。アリアは専門の試験官を用意するから、ここで待っていてくれ」


 そう言って女が俺を連れて行こうとすると、アリアが俺の服の裾を掴んだ。


「待ってください。私もついていくです」


 どうやら、俺と離れるのは相当いやらしい。けど、この人がそれを許してくれるだろうか。


「……まあ良いだろ。なら、君もついて来たまえ」


 案外簡単に許しが出たな。絶対に断られると思ってたのに。アリアは嬉しそうに俺に抱き着き、女や俺と一緒に部屋を出た。そこから下に続いてる階段を降りる。


「! これは」

「……すごいです」

「ふふふふ。驚いたかな? すごいものだろ」


 床はガラス張りとなっており、下には巨大な円形の部屋がいくつもあった。そこでは騎士団の人間が戦っている。


「我らヴァルハラ騎士団は、殺し合いをしながら訓練している。実戦での戦いというのが、強くなるのに最も近道だからな」

「殺し合いって。そんなことしたら、団員が減っていくだけだろ」

「心配いらない。下にある部屋の中では、どんな怪我を負っても即座に回復させることが出来るとんでもスポットなんだよ。故に、どれだけ殺し合いをしても問題ない」


 とんでもない場所だな。どんな技術が使われているのやら。そう思いながら女についていき、奥にある階段で下に降りて行くと、巨大な扉の前に着いた。鬼のような顔をした扉であり、とてつもなく不気味だ。アリアもこれが怖いようで、俺の背中にしがみついている。


「さて。ここからはカイツ君が一人で行ってくれ」

「え? わ、私は一緒に行けないですか?」

「君がいたら試験の邪魔になるだろう。私と一緒に応援席に行くぞ」

「そんな」


 彼女はしょんぼりとした顔をしている。俺と離れるのがとてもいやらしい。だからって、こいつを連れてくわけにも行かないし……そうだ。


「アリア。これを渡しておく」


 そう言って俺は上着を脱ぎ、彼女に渡した。


「俺の代わりと言っては何だが、そいつを貸してやるよ」

「……ありがとうです」


 彼女は大事そうに上着を抱えながら、女に連れられていった。


「ふう。試験と言われたけど、一体なにが待ち構えているのやら」

「問題ない。妾とカイツの力があれば、どんな奴らも敵なしじゃ。妾たちは最強チームだからの」

「本当に敵なしだと良いんだが……行くか」


 扉を開けると、大きな円型のスタジアムが、俺の目に入った。端にある観客席にはアリアと女が座っている。そして、俺の目の前に立っていたのは。


「来たか。待っていたよ」

「お前は」


 あの時俺に襲い掛かってきた三白眼の女。腰に4本の剣をぶらさげている。試験ってのは、こいつを倒せば良いのか?


「なんとなく分かってるだろうが、一応説明するよ。試験内容は、この私を倒す。それだけだ」

「なるほど。あんたとの戦いで、俺の実力を示すというわけか」


 なら、絶対に勝たないとな。過去と決着をつけるためにも、こんなところで負けるわけにはいかない。この前のパーティーのときのように、足手まといと言われ、みんなに迷惑をかけないようにするためにも。そして、奴らを叩き潰すための手がかりを得るためにも。


「ふふふふ。お前とまた戦える日を楽しみにしていた。始める前に聞いても良いかい?」

「なんだ?」

「君は何のために戦う? 成り行きとはいえ、自分の意思で騎士団に入ることを決めたみたいだけど、その理由は何なんだい?」


俺の戦う理由。そんなの既に決まってる。


「弱者が虐げられない世界を作る。その夢のためだ」

「へえ。弱者が虐げられない世界か。まるで夢物語のような世界だね」

「この世には、弱者を食い物にするような外道が大量にいる。そんな外道に捕らわれた弱者はただ搾取されるばかりで、最後はゴミのように捨てられる。俺はそんな外道たちを皆殺しにし、世界を変える。そのために、俺は騎士団に入ったんだ。たとえ夢物語と言われようが、俺は絶対に諦めない」

「……ふふ。ふふふふふ。これはまた凄い奴が来たなあ。面白い。面白いよ君! 久しぶりに愉快な奴に出会えた。ここなら加減をする必要はない。全力で行くからついてきてよ!」


 そう言うと、奴はいきなり斬りかかってきた。


「六聖天・第1解放」


 それを言うと、背中から天使のような羽が1枚生えた。言うと同時に刀を抜き、奴の攻撃を受けとめた。その直後も何度も攻撃を仕掛けてくる。あの時戦った時よりもはるかにスピードとパワーが高いが、受けとめられるし、目で追うのは難しくない。


「ふふふ。私の攻撃を受けとめて、しかもまだ余裕があるとはね。なら!」


 奴が後ろに下がると、横腹から2本の腕が生えてきた。そして、全ての腕で剣を抜き、構える。


「なるほど。4本も剣を持っていたのはそういうためか」

「これが私の魔術。増殖腕インクリース・アームだ。さあ。行くよ!」


 奴は一気に距離を詰め、俺に襲い掛かって来る。さっきよりもはるかに攻撃速度が増しており、徐々に傷を付けられていった。腕が増えたからではない。そもそも腕1本1本の攻撃力や速度が、さっきよりも上がっている。


「おらおらおらあああああ! どうしたの白髪男! その程度の実力かな?」

「くっ。さすがにきついな」


 ここまで手数の差があるとこっちが押し返すのは不可能だ。俺は一旦後ろに下がり、態勢を立て直そうとする。


「逃がさないよ!」


 奴はしつこく追いかけ、俺に斬りかかろうとする。それより速く、俺は赤い光を放つ球体を手に出現させ、俺と奴の間に飛ばした。


「なっ!」

「剣舞・龍炎弾!」


 赤い球体を爆発させ、奴との距離を強引に離した。爆発による衝撃や炎が俺に襲いかかるが、距離を離すことは出来た。


「ぬうううう! なんて奴だ。あんな方法で私との距離を離すとはね」

「ああでもしないと、削られて負けそうだったからな」


 さてと。第1解放だときついし、別の手を使わないとな。


「ならどうする? また第2解放を使うのか?」


 ミカエルが玉の状態で、俺に聞いてくる。


「いや。あれは体の負担が大きいから、あまり使いたくはない。それに、せっかく刀を取り戻したんだし、あの技を使いたい」


 俺は刀と腕に力を集中させていく。すると、俺の背中にある翼が強く輝き、刀が赤い光を纏う。


「剣舞・双龍剣そうりゅうけん!」


 刀を纏う光はもう片方の手に伸び、2本目の刀を生み出した。


「へえ。それがお前の本気というわけか。良いね。かっこいいよお」

「これで、あんたを倒す」

「ふふふふ。ギンギンしてくるね。行くよ!」


 奴と俺は同時に駆け出し、互いの武器をぶつける。4本の剣で襲いかかってくるが、そのすべての攻撃を、俺は2本の刀で捌いていた。


「やるねえ! でもこの程度じゃ、私には勝てないよ!」


 奴はさらに攻撃速度と力を強めるが、俺は全て問題なく捌き、攻撃を届かせなかった。


「なんて奴だ。4本の剣と2本の剣。こっちのほうが有利なのに、押されてるのはこっちじゃないか! これはどういう差なんだ?」

「技量の差だ」


 俺は奴の剣を2本弾き、後ろに突き飛ばした。


「はははは! めちゃくちゃ強いじゃないか。けど、まだ終わらないよ!」


 奴が横腹に生えていた剣を引っ込めると、両肩から新しい腕が生え、剣の柄を握った。あの感じだと、手数を減らす代わりに、パワーを上げた感じだろうか。


「さあ。行くよ」


 奴は一気に距離を詰めると、上から剣を振り下ろし、それを受けとめた。そのパワーはさっきとは比べ物にならないほど大きく、地面がすこしばかりめり込んだ。


「くっ。さすがにとんでもないパワーだな。受けとめるだけで精一杯だ」

「パワーに特化させたタイプだからね。このまま終わらせてやるよ!」


 奴が何度も斬りかかるも、俺はその攻撃を受けとめていく。


「おいおい。この攻撃まで受けとめられるとは思わなかったよ」


 奴は嬉しそうに笑いながら、次々と攻撃を仕掛けていく。最初はきつかったが、だんだん慣れて来た。そろそろ終わらせる。奴が両斜めから斬りかかると、俺は刀を振り抜き、奴の剣を弾き飛ばした。


「なっ!? このパワー特化を弾き飛ばした!?」

「剣舞・爆龍十字ばくりゅうじゅうじ!」


 俺は2本の剣で、奴の体をバツ形のように切り裂いた。


「がっ!?」

「ついでだ。受け取れ」


 切り裂いた部分が爆発を起こし、後ろに大きく吹きとばした。だが、それで倒れることはなく、なんとか持ちこたえた。


「やるね。だけどー!?」


 奴が体勢を持ち直したとほぼ同時に、俺は奴に向けて剣を向け、赤い球体をいくつも出現させていた。


「剣舞・五月雨さみだれ龍炎弾りゅうえんだん!」


 いくつもの赤い球体が奴に襲いかかり、次々に爆発していく。何度も爆発を繰り返し、奴のいたところは煙で覆われた。しばらくして煙が晴れると、奴は立ったまま気絶しており、白目を向いていた。


「何とか倒したけど。これはどれくらいの評価になるのかね」







 観客席。アリアはキラキラとした目でカイツを見ており、女は笑いを堪えるように肩を震わせていた。


「すごいです。やっぱり、カイツはとんでもなく強いのです!」

「くふふふふ。強いだろうとは思っていたが、想像以上だな。やはりあいつは素晴らしい。まだ力を使いこなせてない部分もあるようだが、あれはかなりの有望株だな。これからの騎士団の仕事は、とても楽しくなりそうだよ。くははははははは!」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る