第10話 アレウスの無様な姿

 カイツがパーティーを去り、アレウス、リナーテ、メリナのパーティーは険悪な雰囲気となっていた。アレウスと彼女たちの間に会話は一切なく、アレウスは常に睨まれながら仕事をしていた。


「あ、あのうリナーテ様。偉大で素晴らしきカイツ様はどこにおられるのか分かりましたか?」

「町の外に出たということは知れた。けど、それ以上の情報は得られなかった。本当なら町の外にでて探しに行きたいけど、お金はそんなに多くないから、迂闊に出れないのよねえ。あーあ。どっかの馬鹿が追放しなかったら、楽しい気分で依頼をやれたのになあ。ほんと、気分最悪だわ」


 リナーテの言葉に、彼は萎縮するしかなかった。メリナは何も言いはしないが、彼に冷たい視線を向けており、話しかけても無視されるのは当たり前のことになっていた。


(なんでこんなことに。あいつを追放すれば、女どもは俺に振り向くはずだったのに。実際には振り向くどころか冷たい対応をされる始末。こんなことなら、あいつを追放しなければ良かった。そうすれば、こんなことにならずに済んだのに)


 アレウスは、カイツを追放したことを今頃になって後悔する。しかし、それはあまりにも遅すぎた。カイツはもう、彼らから遠く離れた場所に行ってしまったのだから。




 そして依頼を達成しに行く時も、彼は苦労をしていた。


「あぎゃ!? な、なんでこんな雑魚モンスターにすら勝てないんだよ」


 彼が今戦っているのはブルースライム。世界一の雑魚モンスターとして有名であり、武器を持てば、そこらへんの一般人でも倒せるほどの雑魚モンスターだ。しかし、彼はそんな雑魚モンスターに苦戦していたのだ。

 アレウスの持つ武器は最上級の物である。どんな物質も切り裂く力があると言われており、持つものが持てば世界最強になるのも夢ではないらしい。しかし、どれだけ良い武器があっても、使い手が3流未満では満足に力を発揮できるはずもない。


「くそが! これでもくらいやがれええええ!」


 彼は剣を上に掲げて走り出し、上から振り下ろすも、それは簡単に躱され、カウンターでふっ飛ばされてしまった。


「あが!? い、痛いよお。なんでこんな野郎にやられてんだ」


 彼は半泣きになっており、今にも泣き叫んで逃げ出してしまいそうだ。いくら雑魚モンスターのスライムでも、その隙を見逃すことはなく、自身の体の一部を拳に変え、アレウスに殴りかかる。スライムの攻撃は子供でも躱せるくらいには遅いのだが、彼はその攻撃を避けるどころか防御することも出来ず、ボコボコに殴られていく。


「いぎゃ……や……やめ……ごひゅ」


 彼がボコボコに殴られ、顔の原型も分からなくなるほどに殴られていると、リナーテがスライムを蹴り飛ばした。蹴り飛ばされたスライムはバラバラになり、そのまま息絶えた。


「こんな雑魚相手になにやってんの」

「だ……だってえ。そいつめちゃくちゃ強かったんだもん。ていうか、なんで俺はあんな雑魚にすら勝てないんだ」

「そりゃそうでしょ。あんた、今まで一回も戦ったことがないじゃない」


 彼女の言う通り、彼は1度も戦ったことが無いのだ。やっていたのは材料採取や荷物持ちといった雑役。そんな人間がいきなり戦えるようになるわけがない。しかし、彼はカイツに対する憎しみが強すぎて、その程度のことすら見えていなかったのだ。


「ほんと。なんでカイツを追放したんだか。あいつがいたから、私達はやってこれたっていうのに」


 リナーテはそう言いながら、モンスター退治を再開する。


「なんでだよお。俺は最強の冒険者なんだぞ。あんな雑魚に負けることもありえないし、馬鹿にされることもありえないんだよおおお!」


 彼は現実が見えていなかった。女性に人気で、実力もあるカイツを見て歪んでしまった。自分にもそれだけの力があるはずだと。自分があんな奴に負けるはずはないと。自分は最強の冒険者で、女性の人気も独占できるはずだと。


 そう思ってカイツを追放した末路はこれである。雑魚モンスター1体も満足に倒せず、仲間の足を引っ張る始末。無様な彼は、仲間にすら見捨てられるほどに落ちぶれていた。

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