第9話 ヴァルハラ騎士団
変な言葉遣いの女についていきながらあちこち歩いていくと、巨大な岩の前に着いた。まるで塔のような形をしており、とてつもない大きさの岩だ。それに、人の手が施された跡がいくつもある。誰がどういう目的で作ったんだ。
「このばかでかい岩は何なんだ? こんなところに連れて来たかったのか?」
「まあまあ少し待つにゃん。今から面白いものを見せてやるにゃん」
そう言って彼女は、岩に手を触れた。
「扉よ開け。騎士の名のもとに」
そう言うと、岩の一部が扉のように開いた。
「わあ! すごいです」
「びっくらぽんだな。こんな仕掛けがあるとは」
「さあさあ。ついてくるにゃんよ~」
彼女についていくと、大きなホールに出た。奥に2階へと続いてる階段があり、横にはカウンターがあった。階段を上った先は、壁に沿って通路が出来ている。その壁には大量の扉があり、何人もの人が出たり入ったりしている。服装は目の前にいる女や俺を襲ってきたやつと同じ服装だ。
「さあさあ。ついてくるにゃんよ~」
彼女はそのまま奥へと進み、赤い扉の前まで向かう。扉を開けた先には、1つの部屋があった。前には机が1つ。机の上には水晶が1つ、山のように積み重なった紙が2つあった。壁は本棚となっており、大量の本がぎっしりと並んでいる。天井には骸骨の明かりがぶら下がっており、非常に不気味だ。そして、前に立っていたのは、1人の女性だった。黒い髪を腰まで伸ばしており、大人っぽい顔をしている。綺麗というよりは妖艶な見た目であり、沢山の男を引き寄せそうだ。
「初めまして。君たちは確か、人身売買の被害者だったよね。ダレスが勘違いして襲ったようだけど、その件に関しては申し訳なかった」
「やっぱり、あの金髪の女はあんたらの仲間だったのか」
「いやほんとすまなかった。まさかダレスが君たちに襲い掛かるとは思いもしなかった。ほんと申し訳ない」
「気にしてない。あいつは俺たちを殺す気はなかったからな」
「そう言ってくれると助かるよ。さてと、私は君たちに何があったのか、人身売買の主犯たるレーガン夫婦がどうなったかも既に把握している」
どうやってそれだけの情報を。尾行でもされていたのか。いや、今はそんなことはどうでも良い。
「だとしたらどうする気だ? 俺らになんかするのか?」
「おいおい勘違いしないでくれよ。私は君たちと争うつもりはないんだ。むしろ、君たちをスカウトしたいと考えてる。我ら、ヴァルハラ騎士団にね」
「ヴァルハラ騎士団?」
「ヴァルハラ騎士団は、王国直属の騎士団であり、人々を守るために戦う組織だ」
人々を守るために戦う組織。そんな組織があるとは。
「私たちの仕事は人助け。王国の民を脅かす悪い奴を倒したり、探し物をしたり、モンスターを討伐したりと様々だ。どうだ? 面白い仕事だと思わないかい?」
「ギルドってのと似たような仕事なんだな」
ギルドは悪い奴を倒したり、探し物をしたりはなかったけど、モンスター討伐という点では、騎士団と同じだ。
「ギルド……ああ。騎士団もどきか。元々はヴァルハラ騎士団がモンスター討伐するときの補佐役といった感じだったが、いつの間にか独立して、ギルドという1つの組織になってしまったんだよねえ。魔物の被害や
「反魔?」
「反社会的魔術師の略だよ。君が会ったレーガン夫婦のように、魔術で犯罪を犯す人たちのことをそう言うんだ」
なるほど。それにしても、ギルドが騎士団と関係があるとは思わなかった。確かに人助けという点では、ギルドと騎士団は似ている気がする。
人々を守るために戦う騎士団か。
「その騎士団ってのは、誰でも入ることができるのか? 例えば、何もかもめちゃくちゃにぶっ壊したような悪魔でも」
「勿論。君が心から人を守りたいと思っているのなら、我々は大歓迎だ。我ら騎士団に必要なのは、人々を守りたいと思う心。過去のことや実力なんて2の次なのさ! さあ、こんな素晴らしい騎士団。入って見る気はないかい?」
胡散臭い商人のような言い方だな。騎士団に入るかどうか。
「アリア。お前はどうしたい?」
「私はカイツのやることに従うです。あなたについていくと決めたわけですしね」
なら決まりだな。
「騎士団に入る」
「ほお。それは嬉しいね。理由はなんだい?」
「夢を叶えるためだ。俺は弱者が踏みにじられないような世界を作るという夢がある。そのためにも、ここに入って仕事したい」
そう言うと、彼女はパチパチと拍手しながら嬉しそうな顔をした。
「うむ! 君が騎士団に入ってくれることを嬉しく思うよ。ぶっとんだ夢もあって面白くなりそうだ!」
「支部長。大丈夫なのかにゃ? そこの白髪君。男にゃんけど」
「問題ないだろ。あんなルールは既に無くなったも同然だ。それに、彼を他の支部に行かせるのは、少しめんどくさそうだからね」
何の話をしているんだ。それに、俺を別のところに行かせると面倒ってどういうことだろうか。俺が疑問に思ったことが分かったのか、彼女が話す。
「君が気にする必要はないよ。こっちの話だ。あ、これは返しておくね~」
そう言って、彼女は俺の荷物と刀を投げて来た。人の物を投げないでくれ。しかも刀を投げるとか危なすぎるんだが。
「それで? そこの変てこ耳の女はどうするんだ?」
「私も騎士団に加入するです。カイツについていくと決めてるのですから」
「そうか。騎士団に入ってくれることを嬉しく思うよ」
明らかに反応が違うな。本命は俺ということか。何が狙いなんだ。
「実力検査と魔力検査は明日にやるとして。ミルナ。そいつらを案内してやってくれ」
「はいはーい。了解にゃーん」
そう言って、彼女は俺たちを連れて行く。実力検査と魔力検査とやらが気になるが、俺達の力を試す試験のようなものだろうか。
「君には期待しているよ。カイツ君」
部屋を出る前、最後にあの人がそう言ってきた。
「ここが談話室で~。ここでは沢山の人が暇をつぶしてるのにゃん。と言っても今は仕事中で、みんな出払ってるけどにゃん」
談話室は机がいくつもあり、それぞれの机をソファーが囲っている。その他にもビリヤード台や本棚もあった。人は全くいなかった。
「すごい。こんなに綺麗な場所。見たことないです」
アリアは目をキラキラとさせながら部屋を見渡している。碌な生活送れて無さそうだし、こういうのは初めて見るのだろう。
「にゃははは。お目めキラキラにゃんね。せっかくだし遊んでいくにゃん?」
「え! 良いのですか?」
「好きに遊ぶと良いにゃん。あんたも今日から、騎士団の一員だからにゃん」
「遊びに行くです!」
彼女はすっ飛ぶように空いている台に遊びに行き、俺もそれについていく。
「カイツ! カイツ! これ、どうやって遊ぶです? なんか、数字の書いてある玉が沢山ありますけど」
「えっと……確かビリヤードはこうして」
俺はキューを手に取り、不格好になりながらも数字のない白い玉に狙いを定め、そこからどうぶつけていくかをシミュレーションする。勢いよくキューを突き出して白い玉を飛ばす。飛ばされた白い玉は1の玉にぶつかり、そこから連鎖するように2、3、4、5、6、7、8、9の玉にぶつかり、9の玉が端にある穴に向かって転がっていき、穴の中に入っていった。
「……凄いです! あんなかっこいいことが出来るのですなんて、カイツはかっこよすぎるのです!」
「ま、ガキの頃に飽きるほどやったからな。こういうのは得意なんだ」
キューをアリアに渡すと、後ろからパチパチと拍手の音がした。変な語尾の女が拍手してるのかと思って振り返ると、意外な人物だった。
「素晴らしい腕前ね。教えてほしいものだわ」
「……あんたは」
アリアは怯えるように俺の後ろに隠れた。拍手をしたのは、赤いメッシュが所々に入った黒髪の女だった。
「そんなに警戒しないでよ。ダレスじゃないんだし、あなたと戦ったりしないから。新しく騎士団に入ってきた人がいるというから気になっただけよ」
彼女は、まるで品定めでもするかのように、俺のことをジロジロ見てくる。正直、気味が悪いのでやめてほしい。
「なんだ?」
「いんやー。やっぱり良いものと思ってね。貴方なら、確実に成功するかもしれないわ」
何の話をしているんだ。顔が赤くなってるようにも見えるけど、気のせいだろうか。
「と、そろそろ任務に行かないとね。それじゃあね。また話しましょう」
そう言って、彼女はどこかに行ってしまった。急に現れて急に去っていった。何をしに来たのだろうか。
「カイツ。あれはなんだったのです?」
「さあな。よく分からん」
「にゃははははは。どうやら、ロックオンされたみたいにゃんね」
変な言葉遣いの女が、笑いながら近づいてきた。ロックオンされたとはどういうことだろうか。
「どういう意味だ?」
「いやにゃー。あいつは少し惚れっぽい所があってにゃん。目についた男は片っ端から品定めして、良いと思った奴には、結婚を申し込むことがあるのにゃん」
「それはまた……すごい人だな」
「ま、それで痛い目みるまでがセットなのだけどにゃーん。んじゃま、引き続き案内するにゃんよ〜」
その後も食堂や資料室、他の部屋を案内されていき、最後に自分たちの住む部屋を案内された。俺とアリアは同じ部屋で暮らすこととなった。服の方は明日の試験が終わった後に渡してくれるらしい。部屋の中は2人くらい寝れそうな大きなベッド、ソファー、1人用の椅子と机があるなど、充実している部屋だった。アリアはベッドが初めてのようで、飛んだり跳ねたりしている。
「カイツ! これすごいですよ! すっごくふわふわしていて、とっても楽しいです!」
彼女は笑顔であり、とても楽しそうにしている。ある程度飛び跳ねると、彼女は俺に近づいて来た。
「カイツ! 私をあそこから連れ出してくれてありがとうです! こんなに楽しいことが出来るとは思わなかったです」
「楽しんでくれてるなら良かったよ。ただ、明日は試験とやらがあるみたいだし、気を引き締めないとな」
「試験……私、戦ったことなんかないですけど、大丈夫ですかね? とっても不安です」
不安そうにする彼女に、俺は頭を撫でる。
「心配すんな。戦闘力は二の次って言ってたし、試験で入団がとりやめになるわけでもなさそうだからな。きっと何とかなるさ」
「そういうものですか?」
「そういうもんだ。ほら。早く寝た方が良いぞ。明日は早いんだから」
「私は、どこで寝れば良いです?」
「ベッドで寝ればいいだろ。俺はソファーのうえで寝るから」
「そんなのダメです! カイツも一緒にベッドの上で寝るです! あのベッド、2人くらいなら余裕そうですし」
「え。お前は嫌じゃないのか? 男と一緒に寝るの」
「カイツとなら平気です! だって、あなたは命の恩人なのですから」
大げさな奴だな。命の恩人と呼ばれるほどのことはしてないと思うんだが。その後も何度か断ったが、彼女は勢いで押し切り、一緒に寝ることになった。俺の背中に彼女が抱きついており、気持ち良さそうにしている。
「……たく。距離感がおかしいと思うのは俺だけなのかな」
「おかしくないです。これくらいの距離感は普通です」
「そう……なのか?」
異性との距離感と言うのは、よく分からない。
「カイツ。赤い扉の部屋で言ってた、何もかもめちゃくちゃにぶっ壊したような悪魔って、どういうことなのですか? 昔何があったのです?」
「……色々あった。姉と大喧嘩したり、それがきっかけで全部ぶち壊したり」
昨日のように覚えているあの光景。すべてが真っ赤に染まった地獄のような景色。
「……ま、過去にあれこれやんちゃしたせいで、悪魔みたいな人間になったというだけだ。悪いがこれ以上聞かないでくれ。あまり話したい内容ではないからな」
俺がそう言って話を終わらせると、彼女は強く俺を抱きしめた。
「カイツの過去に何があったかは知らないです。でも、私はカイツを悪魔だとは思わないです。カイツは、私の恩人なのですから。悪魔というより、天使みたいな人です」
「そう言ってくれると助かるよ」
「ふふふ。助かったなら良かったです。おやすみなさい」
そう言うと、彼女はすぐに眠ってしまった。
「……天使か」
そんなことを言われたのは久しぶりだ。ま、悪魔と言われるよりはマシか。
「さてと。明日は試験があるみたいだし、頑張らないとな」
人々を守るために戦う組織、ヴァルハラ騎士団。俺がどれだけのことをやれるか分からないけど、出来る限りはやってみよう。人々を守るために戦うっていうのは、俺のやりたかったことでもあるからな。それにここにいれば、奴らを叩き潰すための手がかりが見つかるかもしれない。
にしても、追放されてから1人旅をしてたら、騎士団に入ることになるとはな。自分で言うのもなんだが、波乱万丈な人生だ。
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