第8話 バリアスシティで
side カイツ
よく分からない奴らの襲撃を退け、俺たちはバリアスシティに向かって歩いていく。にしても、いつのまにかもう朝になっているな。太陽が眩しい。
本当なら走っていきたいところだが、アリアはずっと捕まってたから疲れてるだろうし、無理させるわけにはいかない。かといって、ゆったりと休ませてる暇も与えるのは難しい。あの男女組以外にも、共犯者がいる可能性があるからな。担いでいくのも駄目だ。さっきみたいに襲われたら、彼女を守るのが難しくなる。
「そう言えば、さっき戦った時、ミカエルは玉になってたですよね。人に見られるのが嫌なんですか?」
「ああ。どういうわけか、ミカエルは俺以外の奴に見られるのをかなり嫌がっていてな。他の人の前で姿を現すことは、滅多にないんだ」
『当たり前じゃ。妾は高貴なる存在。そんじょそこらの雑魚に姿を見せるわけには行かんのじゃよ。お主の場合は状況が状況じゃったから姿を見せたがの』
ミカエルは玉の状態でそう答えた。どうでも良いけど、ポケットに入った状態で何か話されるのは、変な気分だな。
「なるほど。恥ずかしがりやってことですね」
『違うわ! そんなくだらんもんではない! 妾の高貴な力を見せないようにするために、姿を見せないようにしておるのじゃ!』
ポケットの中で大声出さないでくれ。体に響いてきてすごく気持ち悪い。そう思いながら歩いてると、大きな町が見えて来た。高い塔のような建物がいくつもあり、存在感を放っている。それだけでなく。
「あれか。バリアスシティっていうのは」
「凄い。あんな大きい町、初めて見たです」
彼女の言うとおり、大きな町だ。あちこちに高い建物が建っており、眩しくライトアップされているから、夜なのにとても明るい。
「ここから赤い屋根の建物を探すというのは、骨が折れそうだ」
だが、文句は言ってられない。一刻も早く、誘拐された人たちを助けないといけないからな。
「行くぞ」
「了解です!」
「ミカエルは空から建物を探してくれ」
「了解じゃ!」
俺たちは町に入り、あちこちを見渡しながら探す。ミカエルは実体化して空を飛び、上空から建物を探し始める。しかし、赤い屋根の建物は中々見つからない。
「うーーん。どこにあるんです? 赤い屋根の建物は」
「くそ。もう少し詳細な手がかりを聞いておくんだった。赤い屋根の建物。赤い屋根の建物」
あちこちを見渡しながら探しても、俺たちが探したい建物はどこにも見つからない。おまけに、この町がかなりの大きさだから、どこを歩いてるのか分からなくなってくる。実際、同じ道を歩いたことが何度かあった。
「カイツ。あいつらの言ったこと。実は嘘だったんじゃないですか? でたらめを言って助かろうとしてたとか、あり得ると思うです」
「考えたくはないが、ここまで見つからないとなると、その可能性も出てきたな」
そうなると、いよいよどうすればいいか分からなくなるけどな。手がかり0の状態でこの町のどこかから見つけるというのは、ほぼ不可能だぞ。
「とにかく。もう少し探してみよう。俺たちには、赤い屋根の建物しか手がかりがないんだから」
「了解です!」
再びあちこちを走り回っていると、上空からミカエルが戻ってきた。
「おおーーい。おぬしらー」
「ミカエル。赤い屋根の建物を見つけたのか?」
「見つけたのは見つけたんじゃが、少し変なことになってるのじゃ。口で説明するより見てもらったほうが早い。来てくれ」
ミカエルが向かう方向についていくと、赤い屋根の建物が、驚くほど簡単に見つかった。しかしそこは。
「カイツ! あれは」
「……どういうことだ?」
建物の前には何人もの人がいて、泣いている子供を慰めている人、調査のようなことをしている人、話をしている人と、様々な人がいた。しかも、そいつら全員が、俺たちを襲ってきた奴と同じ服を着ている。
「なんだかよく分からぬが、奴らの目的も、攫われた人達を助けることのようじゃ」
そういえば、俺を襲ってきたあいつも、俺のことを犯罪者だのなんだの言ってたな。あいつらの目的は、人攫いの犯罪者を倒して、攫われた人達を助けることだったということなのか? まあなんにしても、攫われてる人達が助かって良かった。だが、新しい問題が出てきてしまった。
「あそこにあるっていう俺の荷物を回収したいけど」
「難しいじゃろうな。わしら、なぜか人攫いの容疑者だと思われてるようじゃし、下手にあそこに突っ込めば、捕まる可能性もある」
そう。俺の荷物を回収しようにも、あの人たちがあそこにいては回収することができないのだ。強行突破するのは論外だし、出来るだけ戦うことなく行きたいが。
「さてと。どうやってあそこにー!? アリア! 避けろ!」
「えーうわっ!?」
俺はアリアを抱きかかえ、咄嗟に横へ飛んだ。その直後、巨大な斧が俺たちのいたところに突き刺さった。
「! あ、危なかったです。カイツがいなかったら、確実に死んでたです」
「たく。随分と危ないことするじゃねえか。何者だ」
俺たちに斧で斬りかかってきたのは、雑にひげを生やしたおっさんであり、身なりも汚いので、老けて見える。
「ちっ。こいつを躱すとはな。さっきので殺したかったけどなあ! ああムカつくムカつくムカつくムカつく!」
奴はそう言いながら、首元を激しく掻く。というかこいつ。どっかで見かけたような。
「アリア。あいつに見覚えあるか?」
「……あいつは」
アリアが尋常じゃないほどに震えており、俺にしがみついている。あのイカれ夫婦の仲間ってことは分かるけど、あんなのはいなかったと思うが。
「おいおいおいなんだよ! てめえら揃いも揃ってバカなのかあ? 馬車で一度会ってるだろうがよ!」
馬車の中だと。こんな変な奴と会った覚えは…………。
「ああ! お前御者を務めてた奴か。やっと思い出した」
「そうだ! ついでに、あの夫婦は俺の資金源だったんだよ。子供をいたぶれて、夫婦に金をもらえる良い仕事だったのによ〜。それにアリア! なんでてめえも逃げ出してんだ! 殺すぞ!」
アリアは怯えるように俺の背中にしがみつく。手の力が異常なくらいに強いし、あいつにはトラウマのようなものがあるんだろう。俺は彼女の手を優しく握る。
「心配するな。あいつは俺が叩き潰す。お前に怖い思いはさせないさ」
「カイツ」
「おうおう。イチャついてくれてんねえ。マジに死ねやあああああああ!」
奴は斧を振り上げ、こっちに襲いかかってきた。
「ミカエル!」
「了解じゃ!」
俺の呼びかけに応じ、ミカエルが玉になって俺のポケットに入る。紅い光の剣を生み出し、斧の攻撃を受け止めた。
「ぬおおおおお!」
「おうおう。とんでもないパワーだな。だが!」
俺は奴の斧を上に弾き、腹を蹴り飛ばす。
「ぬがっ!?」
もろに攻撃を食らい、奴は大きくふっ飛ばされた。力はあるようだが、攻撃は単純だ。受け止めるのはそこまで難しくない。あの変な奴らにまた襲われるのも嫌だし、さっさと終わらせないと。あいつが斧で馬鹿でかい音を鳴らしてるし、いつ来てもおかしくない。
「六聖天・第1解放!」
剣の光が強さを増し、天使のような羽が1枚生えて来た。そして、剣の先端に、紅い球体を出現させる。
「剣舞・龍炎弾!」
紅い光の球体は一直線に飛び、奴に襲い掛かる。
「無駄だぁ!」
奴は斧を振り回し、球体を破壊した。
「力技で無効にするのか。とんでもない奴だな」
「はん! てめえの攻撃はこの程度か? 今度はこっちから行くぞ!」
奴は一気に間合いを詰め、斧を振りかざす。俺がその攻撃を受け止めると、奴は様々な角度から斧で攻撃してきた。
「おらおらおらあああ! てめえの力はその程度か?」
「くそっ。なんつうパワーだよ」
一発一発が重い一撃。少しでも油断したら一気にやられるな。俺はすべての攻撃を受け止めながら、後ろに下がり、距離を離す。この状態でも勝てなくはないが、時間がかかる。あの変な奴らからもさっさと離れたいし、少し力を開放しよう。
「ミカエル。第2開放を使う」
『使うのは構わんが、あれは1分ほどしか持たんぞ。分かっておるのか?』
「1分もてば十分だ。やるぞ。六聖天・第2開放!」
背中の翼は2枚に増え、光の剣は、さらに強い輝きを放つ。それだけでなく、両手にヒビのような模様が入り、手首まで広がった。
「ほお。面白い姿になったな。だがどんな姿になろうと、この俺に勝つことはー!?」
奴がべらべらと喋ってる間に接近した。
「剣舞・龍刃百華」
横一閃に剣を振り抜く。その直後、無数の斬撃が奴を切り裂いた。
「いちいちうるさい。少し黙ってろ」
「……馬鹿な。この俺が……気づけない速度で」
奴はそれだけ言った後、倒れてしまった。第2解放を解除すると、強烈な疲労感が襲ってきた。ほんの一瞬しか使っていないのにこの疲れ。1分も使ってたら、ぶっ倒れてたな。
「すごいです。一瞬であの男を倒すなんて。ていうか、殺したのですか?」
「いや。みねうちで気絶させた。殺したら面倒になりそうだからな。それより、早くここから離れよう。あの変な奴らに見つかると厄介だ」
「変な奴らってのは、にゃーたちのことかにゃ?」
後ろからの声に振り返ると、いつの間にか一人の女性が立っていた。 短い茶髪に青い瞳の綺麗な女性だった。俺は再び光の剣を出現させて構える。
「落ち着くにゃん。別にあんたと戦うつもりはないにゃんよ。ただ、妙な魔力を感じたもんで、ここに来てみたのにゃ」
魔力? 一体何の話をしているんだ。良く分からないけど、こいつが戦う気が無いというのは本当のようだ。だが狙いが分からない。こいつは何がしたいんだ。
「とりあえず、殺気は解いて、にゃーについて来てほしいのにゃ。あんたに会わせたい人がいるのにゃ」
「……おまえについてきて、俺に得があるのか?」
「もちろん。にゃーについてきたら、これを返してあげるにゃん」
そう言って奴が取り出したのは、俺の刀と荷物だった。
「! お前」
「これらに染みついたかすかな匂い。なんであんなとこにあるかは分からにゃいけど、これはあんたの荷物にゃんね? 無いと困ると思うにゃんけど」
確かにあれがないと困る。力づくで奪うのは得策じゃないな。敵対する気はなさそうだし、ここは従った方が良さそうだ。
「良いだろう。お前についていってやる」
「カイツ! この怪しそうな奴についていって大丈夫なのですか? 何かの罠という可能性も」
「こいつから敵意は感じない。それに、荷物を返してもらわないと困るからな。ここは従っておく」
「にゃはははは。賢明な判断。感謝するにゃん。それじゃ、行くにゃんよ~」
そう言って、奴はスキップしながら歩き、俺たちもそれについていく。なんか面倒なことになった気がするな。どうしてこうなったのやら。
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