第7話 突然の襲撃
カイツ、ミカエル、アリアの3人はバシリスシティに向かって歩いていた。歩いている道は左側は森になっており、右は川が流れていた。道中、アリアが質問する。
「そう言えば、さっきいた羽の生えた少女は何なのです? あなたが使っていたのは、そいつの力ですか?」
「そうだな。六聖天はミカエルの力の一部だ」
「その六聖天というのは、どういう魔術なんです? かなり強力な魔術みたいですけど」
「さあ? 俺も良く知らん。そもそも魔術が何なのかも知らなかったし」
まさかの返答にアリアはずっこけそうになるのを何とか堪えた。
「え? 自分の魔術のことを知らないのですか!?」
「いや。なんか気づいたら手に入れてたし、どういうものなのかはよく知らないんだよな。元々はミカエルの力らしいけど、それ以外は何もわからない」
「それどうなんですか。ていうか、ミカエルは何なのです? なんか不思議な姿をしてますけど」
「妾は精霊と呼ばれる存在じゃ。崇高にして華麗にして世界を作り変える存在。それが精霊じゃ。お主も覚えておけ」
ミカエルが胸を張りながらそう言うも、アリアは困惑するしかなかった。
「えっと……カイツ、精霊っていうのは、そんなにすごい存在なんですか?」
「いや、俺も詳しいことは知らない。精霊っていうのもよく分からないし」
「……カイツ。今までよく生きてこれたですね。自分の魔術のことをこんなに知らないやつは初めてです」
「カイツの魔術は、最強にして崇高なる妾が誰よりも把握しておるからの。カイツがよく知らなくても問題ないのじゃ。カーカッカッカッカ」
ミカエルは高らかに笑っていたが、突然笑うのをやめて、遠くの方を睨みつけた。それと同時にカイツも歩くことをやめた。
「? 2人とも、どうしたんです?」
「……ミカエル。この感じ」
「ああ。来るぞ!」
彼女がそう言って玉になり、カイツのポケットに入った。その直後、森の中から剣を持った金髪の女性が現れた。襟や袖口が金で装飾された黒のコートを着ており、鎖の着いた黒のズボンを履いていて、腰に4本の剣をぶらさげている。眼は三白眼で凶悪そうな顔をしており、髪はオールバックにしていた。その者はカイツとアリアを交互に見た後、カイツに斬りかかってきた。
「なっ……おいおいおい!」
彼はその攻撃を何とか躱すも、攻撃は止むことなく、連続で斬り掛かる。上から振り下ろしてきた攻撃を、彼は白刃取りで受け止めた。
「へえ。良い反応だね」
「くっ……いきなり何すんだよ。あんた!」
「お前に話す気はないよ!」
その者は剣を引き離し、一旦距離を取った後、再び斬り掛かってきた。
「くそ。六聖天・第1解放!」
彼の手に紅い光の剣が出現し、天使のような羽が1枚生えてくる。光の剣で攻撃を受け止めた。
「やはり魔術持ちか。さて。君はどんな人間なのかな」
「知りたいならじっくりと教えてやるよ!」
カイツが攻撃を防ぎ、再び攻撃され、2人は何度も剣をぶつけ合う。
「へえ。中々やるじゃん」
「あんた、一体何が目的だ! いきなり襲い掛かってきて!」
「話す気はないと言った!」
彼女はまともに話すこともせず、カイツに攻撃を仕掛けていく。剣をぶつけ合う音が激しさを増し、二人は鍔迫り合いをする。
「カイツ……何も出来ないです。あの中には……入れない」
アリアは、この状況で助太刀することは出来なかった。2人が戦ってる所に入れば、足手まといになるどころか、即座に殺されてしまうことが分かり切っているからだ。
「そらそらそらあ! あんたはこの程度の実力なのかな? 犯罪者君!」
「ち……誰が犯罪者だ!」
カイツは鍔迫り合いの状態から女を突き飛ばし、剣を向ける。すると、剣の先端に紅色の光を放つ、小さな球体が現れた。
「剣舞・
紅い光の球体は一直線に飛び、女に襲い掛かる。
「ちっ! こざかしい!」
女はその攻撃を避け、カイツに近づいて来た。その瞬間
「曲がれ!」
彼がそう言うと、飛んで行った光の球は向きをぐるんと変え、後ろから女に直撃して爆発を起こす。
「ぐああ!?」
光の球は、カイツが威力を最小に抑えていたため、女へのダメージはほとんどないが、爆発ですこし怯んでしまった。その隙を突き、カイツは剣を首元に突きつけた。
「これで終わりだ。さてと、なんで俺を襲ったのか聞かせてくれよ。犯罪者とか言ってたけど、どういう意味だ?」
「ふん。話す必要は無いと言ったよね。にしても、人身売買する外道にしては、詰めが甘いね!」
女は光の剣を蹴とばし、そのままカイツの顔を蹴り飛ばした。
「がっ!」
彼は大きく吹っ飛び、地面をゴロゴロと転がっていく。そして、それは大きな隙となってしまった。
「これで終わり。楽しかったよ。あんたとの戦いは!」
女が上から剣を振り下ろすと、カイツはその攻撃を間一髪で躱した。
(人身売買……まさか、俺を人身売買する奴と勘違いしてるのか? なら、その誤解を何とかして解かないと。けどどうすれば。全然話を聞いてくれそうにないし。てか、なんで人身売買する奴と思われてんだよ)
「いいねえ! さすがは犯罪を犯した魔術師。その調子で頑張れ」
女の攻撃はさらに激しさを増し、カイツは避けるのが精一杯だった。
「くっ!」
「どうしたの! あんたの実力その程度なの?」
女は横薙ぎに剣を振るうが、カイツはそれを跳んで躱した。
「舐めるな!」
そのまま顔めがけて蹴りを放つ。腕で防がれてしまったが、後ろにふっ飛ばした。女は喜びながら、蹴られた部分をさする。
「やるねえ。ここまで強い蹴りを食らったのは久々だよ」
「あんた。一体誰だ。さっきからふざけたことばかりして」
「何度も言わせないでよ。人身売買してる犯罪者に話すことはないよ!」
女は剣を構え、再びカイツに近づく。そして、彼も再び光の剣を出現させ、近づこうとした瞬間
「行きなさい。ウルフ!」
青白い光の狼が、2人の間を横切った。
「何だ!?」
「チッ。余計な真似を」
2人が狼の出た方向を見ると、1人の女性が立っていた。赤いメッシュが所々に入った黒髪を腰まで伸ばしており、桜色の目をしている。カイツが戦っていた女と同じような服装に身を包んでおり、ズボンの代わりにスカートを履いていた。胸の膨らみはアリアよりも大きい。
「そこまでよ、ダレス。勝手なことをするのはやめてくれないかしら? そいつはまだ、人身売買に加担してるかは分からないのよ」
「……マジ? うわー。やらかしたなあ。これって始末書もの?」
「当たり前でしょ。ほんと最悪。まさかいきなり戦おうとするなんて。なんでこうなったのやら」
そう言うと、女性はカイツの方をじっと見つめる。その目はまるで、彼を観察しているかのようだった。カイツはそんな彼女を怪しみ、少し距離をとった。やがて、彼女が小さく呟く。
「へえ。良いものね。彼ならもしかしたら」
「? なにか言ったか?」
「いえ。それよりごめんなさいね。うちの仲間が馬鹿やらかして、あなたに迷惑をかけてしまったわ」
「いや。それは大丈夫だけど」
「さてと。帰るわよ。ダレス。説教はあっちでたっぷり聞かせてあげる」
「ちっ。めんどくせえな」
そう言って2人は森の中に消え、どこかに行ってしまった。カイツが六芒星の力を解除すると、アリアが駈け寄ってきた。
「カイツ、大丈夫です? 怪我はないですか?」
「大丈夫。どこもやられてないよ」
「あいつらはなんなのですか。いきなりカイツを殺そうとして来るなんて。最悪な連中です!」
「いや。あやつは殺す気などなかったぞ」
ミカエルがそう言うと、それに賛同するようにカイツもうなずく。
「そうだな。あの女。理由は分からないけど、何かを試すように戦っていた。殺気はまるでなかったし、殺す気は無かったと思う。だからこそ、こっちも傷つけないように戦ってたんだけど」
「いや~。カイツはお見事じゃ。相手を傷つけず、それでいて降参させるように戦っておったからのお。その戦闘技術は流石としか言えんわい」
「思いっきり失敗してるけどな。これで褒められるのは、なんか嫌だ」
アリアはそれを聞いて困惑した。
「えっと……どういうことです? 殺す気が無いのだとしたら、奴が襲い掛かってきた理由はなんなんです?」
「さあ。そもそもあいつらは何者なんだろうな。見た感じ、どこかの組織に所属してるって感じではあったけど」
「う~む。どこかであの服装を見たことがある気がするのじゃが、どこじゃったかのお? う~む」
森の中。先程カイツと戦った三白眼の女と黒髪の女性が話をしていた。
「それで? あの男と戦った理由は何なのかしら? せっかく穏便に話をしようと思ってたのに、それがダメになったじゃないの!」
黒髪の女性が説教するように語気を荒らげると、三白眼の女は肩をすくめた。
「悪かったよ。けど、あの男の実力を確かめたいと思ってね」
「実力を?」
「ああ。あの夫婦を倒せる奴がどんな奴なのかを知りたいから戦った。殺す気でやるとまずいからセーブしたけど、中々に楽しい戦いだったよ。出来れば今度は、全力で戦いたいものだ」
彼女はうっとりとしながらそう答え、黒髪の女性はため息をついた。
「相変わらずの戦闘狂ね。振り回されるこっちの身にもなってほしいわ」
「失敬な。私は戦闘狂などではない。強い奴と戦うのが大好きな普通の人だ」
「それを戦闘狂と言うのよ。とりあえず、バリアスシティに急ぐわよ。あのルートだとバリアスシティに行くのは間違いないし、あいつらが何をするつもりなのか調べないと」
「了解。では行くとしようか」
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