第6話 ギルド没落

 カイツが抜けたギルド内。アレウスはそこで朝食を頼んでいた。彼の機嫌は最悪だった。他の冒険者達からは冷たい目で見られ、自分が狙っていた受付嬢はゴミを見るような目で見てくる。リナーテやメリナは口を聞かどころか、見ることもせず、時にはストレスを発散するかのように暴力を振るうこともある。


「くそ。なんでこんなことになったんだよ!」


 彼が怒りのままにテーブルを叩くと、また冒険者達は冷たい目を向け、ヒソヒソと陰口を言う。彼はとにかくそれが嫌であり、睨みつけて黙らせようとするも、睨んだら更に陰口が増えていくという悪循環だった。


「くそ。なんでこんなことになったんだ。あいつを追放したから、俺はウハウハな人生を過ごすことが出来るはずなのに。なんでこんな目に」


 愚痴を吐いていると、ウェイトレスが冷めた表情で料理を運んできた。


「どうぞ。エリーフ豚のステーキセットです」


 そう言われて料理を出されたが、彼はそれを見ると、ウェイトレスに文句を言う。


「おい! これはどういうことだ!」

「? 何か不満でも?」

「ステーキセットの肉が小さくなってるじゃねえか! これはどういう真似だ!」


 そう言って彼が胸ぐらを掴むと、彼女は呆れたようにため息をついた。


「うちのギルドに出資してくれる人や食料を出してくれる人が減りましたからね。料理のボリュームも減らすしかないんですよ」

「あん? なんでそんなことになったんだ! 貴族の中でもエリートなこの俺様がいるギルドだぞ! 金や食料もたんまり入ってくるはずだろうが!」


 そう言うと、彼女は彼の腕を掴み、そのまま投げ飛ばした。でかい音が鳴り、冒険者達が投げられた彼を見つめる。彼は何が起こったのか理解できておらず、アホ面でキョトンとしていた。


「あなたがカイツさんを追放したことが原因なんですよ! ギルド最強だった彼が急に追い出されたせいで、ギルドの信頼がガタ落ちになったんです! 何もかもあなたのせいなんですよ!」

「ざ、ざけんな。あんな奴より俺のほうが強いだろ。そもそも、ギルドから一人出ていった程度で、そんなすぐに影響がでるわけが」

「ギルド最強の人間が、貴族の横暴で追い出されてしまったんですよ。影響出るに決まってるじゃないですか。ギルドの管理責任も問われるでしょうし、信頼も落ちるんですよ。おまけに、退職手続きしてる人も少しずつ増えてきてますからね」

「はあ!? なんで辞める人が増えてるんだよ。おかしいだろ」

「あなたが貴族の権力を乱用したからですよ。ここで働いてる人の大半が平民です。あなたのような横暴な貴族と一緒に仕事するのが怖くなって退職してるんですよ。

 もうやることがありすぎててんやわんやなんですよ。今はあなたみたいな馬鹿に付き合ってる暇もないんです!」

「誰が馬鹿だ! ウェイトレス風情が調子に乗ってんじゃねえぞ! 俺の権力を使えば、てめえみたいな雌豚なんざ」


 言葉を続ける前に、彼はウェイトレスに顔を殴られてしまった。その一撃で彼は鼻血を出しており、涙や鼻水も流している。


「くそ。覚えてろよおおお! この雌豚ぎゃろうが。いつかぶくじゅうじでやるゔゔゔ!」


 彼は子供のように泣き叫びながらギルドを後にした。それを見ていた冒険者や受付嬢達は失笑することすらせず、ただ冷めた目で見届けるだけだった。


「はあ。時間が無駄になりました。今日も冒険者の退職手続きとか依頼書の手続きとか会議とか色々しないといけないのに」


 彼女は愚痴を言いながらそこを離れていった。彼の浅はかな思考によるカイツの追放。その影響は仲間内という狭い範囲でなく、ギルドの運営という巨大なレベルで出てきていた。


 一番の敵は無能な味方という言葉があるが、いまほどこの言葉が似合う状況もないだろう。アレウスという無能な味方のせいで、ギルドは大変なことになっていた。

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