第5話 脱出 カイツの真の力
羽が生えた少女は迷うことなく突き進んでいき、ついにカイツの元にたどり着いた。檻の中にいるカイツは笑みを浮かべ、アリアは突然現れた不思議な存在に驚いていた。
「来たか」
「なんですか。あれは」
「カイツ、大丈夫か! 今から助けるぞ!」
少女は鉄格子を両手で二本掴み、いとも容易く引きちぎった。
「なっ! 鉄格子をあんな簡単に!?」
「相変わらずの馬鹿力だな。とてつもないパワーだ」
「カイツ。少しじっとしておれよ」
彼女はカイツを縛っている手錠を、両手で引きちぎった。彼は手錠から解放されると、手をグッパーしながら動かす。
「ふう。ようやく自由になれた。ミカエル、その子の手錠も外してくれないか? 彼女を助けたいんだ」
「了解じゃ」
少女はアリアの元へ近づき、先ほどと同じように、手錠と鉄球の鎖を引きちぎった。
「行くぞアリア。こんなとこさっさと抜け出そう」
「私は……」
「こんなところにいたくないだろ。俺と一緒に行こうぜ」
カイツがそう言って手を差し伸べるも、彼女は少し迷っていた。自分が彼についていくべきかどうかを。彼女の脳裏には、ある光景がよぎっていた。自分の耳が原因で親に捨てられ、ここにいる夫婦たちに虐められていた過去を。そんな彼女の手を、彼は強引に握った。
「俺は、お前と一緒にいたい。お前がこんなところに居続けるのは嫌なんだよ! だから来てくれ!」
「カイツ」
彼の目には強い意志が宿っており、言葉が心から言ったものであるということを、彼女はすぐに理解した。だからこそ、彼女は彼の強い意志に逆らうことが出来なかった。だがそれ以上に、彼を信じたくなった。
(彼なら、私をいじめたり、酷いことをしないかもしれないです)
いつの間にか、アリアはカイツの手を強く握っていた。
「良いですよ。一緒に逃げてやるです」
「オッケー。なら行こうぜ! ミカエル、案内を頼む!」
「任せておくのじゃ!」
ミカエルと呼ばれた少女が先行し、二人はそれについていく。
「ミカエル、俺の荷物がどこにあるか分かるか?」
「もちのろんじゃ! しっかりついてくるが良い!」
様々な経路がある複雑な道だというのに、彼女は迷うことなく進んでいった。
「すごいです、あの子。まるで、場所が分かってるみたいに、すいすい進んでいくです」
「あいつは凄い奴だからな。さすがは俺のヒーローだ」
ようやくカイツの荷物が置かれている倉庫にたどり着いた。しかし、そこには彼の荷物どころか、元々倉庫にあった荷物も全て消えていた。
「これは」
「おい。何にも見当たらないんだが」
「おかしいのお。確かにここにあったはずなんじゃが」
彼女がまさかの事態に混乱していると、倉庫の扉がひとりでに閉まり、3人は閉じ込められてしまった。
「閉じ込められたです!?」
「……ミカエル。これって」
「ふむ。どうやら罠だったみたいじゃな。あっちゃ〜。ばれてないと思ったんじゃがのお」
「生憎、君たちの行動など簡単に読めるのだよ」
突然声がしたかと思うと、上の方に二人の男女がいた。
「あいつら!」
「ふむ。面白い子を連れているね。君の価値はますます上がったよ。そんな面白魔術を持っているのは、かなり珍しい人間だからね」
「ええ! 是が非でもあんたを食べたくなっちゃったわ!」
2人のにじみ出る狂気にアリアは怯え、半歩後ろに下がる。だが、彼女を守るように、カイツが前に立った。
「心配するな。あんな奴ら、すぐに片付けてやるから」
「アハハハハハハ! ずいぶん大口を叩くわね。ここから逃げるつもりでしょうが、甘いわよ!」
「マクネの言う通りだ。今から貴様に面白いものを見せてやる。来い! サイクロプス!」
男がそう言うと、天井に魔法陣が現れ、そこから1つ目の巨人が飛び出してきた。大きさは4メートル近く。全身が青い体毛に覆われており、人に近い姿をしていた。アリアはその姿に怯え、カイツの背中に隠れる。
「これは」
「こいつはサイクロプス! 私の魔術、サモンサークルによって呼び出したモンスターだ! こいつの一撃は、分厚い鉄も簡単に穴をあけ、どんな武器でも傷つけられない最強の耐久性。貴様ら程度など、簡単に殺せるのだよ!」
「ほお。最強の耐久性か。ずいぶんと強く出たな」
カイツは手のひらに小さな光の刃をいくつも生み出し、それを投げつける。しかし、その刃は巨人の皮膚を切り裂けずに弾かれてしまった。
「おっと。弾かれたか」
「ひゃはははははは! その程度の攻撃が効くわけないだろ。やっちまえ! サイクロプス!」
巨人が拳を振り上げた瞬間、カイツはアリアを突き飛ばした。その直後、拳はカイツのいた所を叩き潰した。それだけでなく、何度も拳で殴り、彼のいたところを滅茶苦茶に破壊していく。攻撃をやめた頃にはクレーターが出来ており、彼の姿はどこにもなかった。
「か……カイツ? 嘘ですよね?」
「アハハハハハハ! 俺に逆らおうとするからだ。馬鹿な奴め。自分の力を過信し、ここから逃げ出そうとしたばかりに、こんな間抜けな結末を迎えるとはな。さあ、そこのチビ女。次はお前だ」
サイクロプスはギラギラと目を光らせながら、羽の生えた少女の方をじっと見る。だが、彼女はそんな状況でも恐怖を感じるどころか、クククと笑いを堪えていた。
「クク……クククク」
「なんだ? 何がおかしい」
「お主らは馬鹿よのお。妾の主であるカイツがこの程度で殺られるとでも?」
「その通りだ。勝手に殺されるのは心外だな」
夫婦は倒したはずの男の声に驚き、声のした方を振り返った。そこには、サイクロプスの拳で倒されたはずのカイツが、いつの間にか2人の後ろに立っていたのだ。
「嘘でしょ。こいつ不死身なの!?」
「不死身じゃないよ。あの獣の攻撃が当たる前に回避して、あんたらの後ろに来ただけだ」
「ふざけたことを言うな! そんなことが出来るわけない。あんたは間違いなく潰されたはずだ!」
「だから避けたんだって。どんだけ疑ってるんだよ」
「……良いだろう。ならば、この攻撃も躱してみろ。やれ、サイクロプス!」
夫婦は彼から離れると、巨人がカイツの方に近づき、殴りかかってきた。しかし、カイツはその攻撃を片手で受けとめた。
「馬鹿な! サイクロプスの攻撃を片手で!?」
「俺にはやることがあるんだ。こんなところで時間かけてられないし、さっさと終わらせる!」
「クソが。さっさとそいつを殺せえええええ!」
巨人はもう片方の腕で殴ろうとするも、カイツはその攻撃を躱し、空中に飛び上がる。
「
彼の手には紅い光の剣が現れ、背中から天使のような羽根が1枚生えて来た。六聖天。それは己の身体能力を強化し、破壊をもたらす紅い光を纏う。六聖天には第1開放から第6開放まで存在し、開放の数を増やすほど、自身を強化できる。彼がアレウスのパーティーにいた頃、この魔術はギルド内で最強の魔術と呼ばれていた。それほどの力を、彼は宿していたのだ。
「はああああああ!」
彼は剣を上から振り下ろし、巨人の体を頭から真っ二つに切り裂いた。
「ぎあ……ああ」
巨人の体が2つに分かれ、光の粒子になって生滅した。狐耳の少女以外の全員はその光景に驚くことしか出来なかった。
「嘘だろ。あのサイクロプスを一撃で倒すだと」
「ありえない。ありえないわよ! なんなのよあいつは!」
驚愕する二人の近くに、羽の生えた少女が近づいた。
「哀れじゃのお。相手の実力をも正確に把握できないとはな。顔もブサイクで心も醜く、弱っちい存在とは救いようがない」
「なんだと……くっ。貴様あああああ!」
男が怒りのままに殴り掛かるも、少女はその攻撃を簡単に受け止める。
「妾の名を教えてやろう。妾はミカエル。世界を壊し、作り変える者じゃ」
彼女が両手を前に突きだすと、夫婦の顔の前に紫色の魔法陣が現れた。すると、2人の体が石化し始めていく。
「か……体が石に!? 貴様……貴様は一体、何なんだああああ!」
「言ったじゃろ。世界を壊し、作り変えるものと。それより、我が主が聞きたいことがあるみたいじゃぞ」
カイツは二人に近づき、視線を自分の方に向けさせた。
「質問だ。人身売買をしていると言ってたが、俺たち以外の攫った人達はどこにいる? 後、俺の荷物はどこだ?」
男は黙秘を貫こうと思い、一言も喋らずに行こうとした。しかし、それはミカエルが許さない。
「言っておくが、黙秘を貫くようなら、こうするぞ?」
彼女がそう言うと、石化の速度が上がり、彼らの動きが封じられて行く。
「いやああああああ! ちょっとあんた、これ何とかしてよ!」
「分かってる……ま、待ってください! 答えます! 答えますら、これを止めくださいいいいい!」
男は泣きながら彼女に懇願した。彼女はそれを見て嬉しそうにクツクツと笑い、石化を停止した。
「はぁはぁ……攫った奴らは、バシリスシティの保管庫にいる。赤い屋根の商店が目印だ。」
「そのバシリスシティってのはどこにあるんだ?」
「ここから真っ直ぐ道なりに行けば着くだろう。お前の荷物もそこに置いてある」
「おっけー。教えてくれてありがとう。眠れ」
カイツがそう言うと、石化のスピードは速くなり、2人の体はみるみると石になっていった。
「ひいいい! いや、体を元に戻してよおお!」
「おいお前! 俺は全て話したんだぞ! 助けてくれたって良いじゃないか!」
「そんなことしたら、あんたら絶対に報復しに来るだろ。そういうのめんどいから、ここで終わらせる。それにあんたらみたいな、人を道具のように扱うクズは嫌いだ。俺の理想は弱者が虐げられない世界を作ること。その世界のため、お前らのような外道はここで殺す」
「くっ……この化け物! 悪魔! あんたには人の心が無いの!?」
「そうだ。俺は悪魔だ。人の心を無くした怪物。だから、あんたらを倒すことにも躊躇はない。このまま終われ」
「いやああああああ! 助けてえええええ!」
「嘘だ……こんなところで終わるはずが……頼む! 助けてくれぇぇええええ!」
そんな断末魔を最後に、2人の体は完全に石化した。
「凄いです……あの夫婦を倒してしまうなんて」
「だから言ったろ。心配するなって。さてと。囚われてる奴らの居場所も分かったことだし、バシリスに行くとするか」
「え……まさかとは思うですけど、囚われてる人たちも助けに行くのですか!?」
「当たり前だろ。アリアのような生活を送ってる人たちを、そのままにしておくなんて無理だ。弱者を助けるというのが俺の行動方針だからな。助けに行きたいんだよ」
「……はあ。ほんと、変わった奴です。それに、底抜けにお人好しなようです」
「そうか? 普通のことだと思うけどな。それじゃ、バシリスに向かって出発だ。行こうぜ。アリア!」
「了解。よろしく頼むです!」
(彼となら、楽しい生活を送れるかもしれないです。いや、きっと送れるです。こんなにもお人好しで、面白い存在なのですから)
こうして彼らはバシリスシティへ向かい、出発した。
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