直文
十日後の朝にここに来た。調べ物をしすぎてしまった。けど、大体のことはわかったから良しとする。茂吉を連れて木々をかき分けながら、村につく。
神社の前に来た。
「ねぇねぇ、直文のお熱の女の子ってどんなの子なの?」
暇そうに茂吉は俺に聞く。お熱ってな。
「俺は彼女を熱くしてないぞ」
燃やしてないし、熱でのぼせてない。
俺の言葉にこいつは呆れた。
「いや、そうじゃなくて夢中ってこと。今までなかったじゃん」
「夢中と言うのじゃないよ。彼女が気になっただけだ」
与えられた任務の情報を見て、気になっただけだ。彼女はこの任務の重要人物。気になるのは当然だろう。
外に出てないのを見ると、神社の中にいるのだろう。戸がガタッと開けた。
「おは」
挨拶をしかけた。彼女の着物が脱げていく場面を見る。
ほどよい体つき。清らかで柔らかそうな。体の奥底が、主に下の部分が熱くなる。勢いよく閉めた。
見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまったっ!!!
階段に座って、頭を押さえる。顔が熱い。戸が開く音がしたけど、彼女の顔は見られない。
「おやー、直文。一体中で何をみたのかな?」
「もっくん。うるさい」
茂吉がからかってくるので、怒って返事をする。彼女に明るく自己紹介をした。
「やぁ、俺は茂吉! 君のことは聞いているよ。俺は直文とは仲のいい同僚さ。よろしく」
「えっと、よろしくお願いします?」
明るく挨拶をする彼に、彼女は呆けて返す。俺は頭を抱えていた。
だって、見てしまったんだよ?
一瞬とはいえ、麗らかな女の子の裸を見てしまった。……
俺は顔をあげて、彼女の両手をつかんで真っ直ぐと言うことにする。
「責任はとる。君がよければ俺の
「はぁーい、ややこしくしなーい」
茂吉に頬を殴られた。軽くとはいえ、痛いものは痛い。茂吉は苦笑をして謝る。
「ごめんね。こいつ真面目だから変に暴走するんだ。ほら、直文。
うん、そういえばそうでした。
「……ごめんなさい」
謝ると、もっくんは良くできましたと撫でる。俺が悪かったんだけどさ。でも、見てしまった責任はとりたい。彼女は恐る恐る声をかけてくる。
「気にしないでください。私も悪かったです」
……なら、よかった。頬の熱さを感じながらほっとする。茂吉は感激していた。
「わぁ、優しい。こんななおくんを許してくれるなんて心広い!」
「……もっくん少しだまって」
茶々いれるなぁ。もっくんは俺が彼女に興味あると知って、からかおうとしているのだ。
「そういえば、君と会ってあれから十日ほどたったけど、何か変化はなかったかい?」
彼女はキョトンとした。
「十日って何故ですか? 昨日会ったばかりではありませんか」
茂吉も彼女の発言には驚かずにはいられない。十日間。彼女は何をしていたのか。恐る恐る聞いてみた。
「……今まで何をしていたんだい?」
「えっ、寝てましたが……」
「今までずっと?」
「……はい」
素直に答えて頷いた。彼女は十日間眠っていたのか。幽霊でも眠ることはできるが、ここまで長く眠ることはない。
彼女の代で巫女の代が途絶えた理由は、前はわからなかったが段々とわかってきた。彼女がどういう存在なのか。だが、真相を話すのは早い。誤魔化して話を進めることにした。
「恐らく、君は俺達が来るまでずっと眠っていたんだ。俺はこの村について色々と調べ直した後に来た」
「……嘘ですよね」
「本当だよ。ここには十日後に来た。もしかすると、君が成仏できないのに理由があるのかもしれない」
不安げな彼女の目線を合わせる。
「大丈夫。俺が君を助ける。絶対に三途へ導くから」
不安にさせたくない。笑っていてほしい。
「だから、俺が君の裸をみた分の責任を含めて、定期的にここに来るよ」
「ありがと」
彼女の言葉が途切れ、顔が段々と赤くなる。
「……わ、私の裸見たのですかっ!?」
あっ。俺、今なんて。……あっ。
発言に気付いて、俺は激しい
そうだ。
懐から短刀を出して、地面に正座をした。もっくんに
ホント、俺って最低。
短刀を鞘から抜いて目をつぶる。
「おなごはだ めにうつりては 思いだし 己の馬鹿さ 身に染みていく」
「死なないで、死なないで死なないでぇぇーー!」
彼女の悲痛な声が届いて、俺の切腹を必死で止めた。
俺は土下座をし続ける。……
「ところで、君は寝ていたと言うけど寝ている間、何かなかったの?」
茂吉が彼女に声をかけたようだ。
寝ている間、彼女はわからなかっただろう。しかし、眠っている間、なにか夢のようなものを見ている可能性はある。期待通りに彼女は答えてくれた。
「えっと、夢と言うか。多分、過去の記憶のようなものはみました。見たのは、私のお母さんと私が巫女になるために習い事をしている記憶です」
「おおっ、結構思い出してるね」
茂吉は感嘆するけど。
「まだです。私の名前と死んだ記憶が思い出せないのです」
…………無理をしているな。彼女。
「名前と死んだ記憶か」
土下座をやめて、彼女に聞く。
「名前はともかく、君は死んだ記憶も思い出したいかい?」
言われて黙る。死んだ記憶を思い出すのは、あまりいいものではないだろう。彼女の精神面を考えると、推奨をしたくない。
「はやく、早く思い出せれば、早く成仏できるのですよね?」
俺の為を思って言っているのかもしれない。利他的なのは、巫女としてはよい素質なのかもしれない。だが、そこまで無理しなくていい。
「……無理しなくていいよ」
頭を優しく撫でる。
「怖いものはすぐに思い出せなくていい。嫌な記憶は忘れていてもいい。君が無理する必要はないよ」
感情が顔にでない分、行動でも示したかった。無理している君の心に、せめて安らぎを与えたい。彼女は目を潤ませて、顔を俯かせる。
「ありがとう、ございます」
「いいよ、君には君の出来ることをして」
生暖かい目線を感じて、彼女と俺は顔を向ける。茂吉が微笑ましそうに見ていた。
「あっ、もういいの? なおくん」
「ふざけない」
「ごめんごめん」
こいつは本当にからかい好きだな。笑って茂吉は俺達二人を見る。
「さて、この子に何をするか全部話そう。今回の件は、成仏といっても簡単じゃないんだからさ」
全部話す。それは、彼女の傷をえぐるようなものだ。彼女は自身の名が元々つけられてないと思い出すかもしれない。彼女の気持ちからして、真相を話すのはまだ早いのだ。
なのに、この狸は。
腹の奥から暑くて燃えるものが出てきた。胸に宿る。顔が動く感覚があるが気のせいだろう。俺は茂吉を見る。
「……茂吉。お前はもう少し考えろ」
茂吉は驚いていた。彼女も驚いているが、わかりやすく怒っているのだ。こいつに注意をする。
「俺から話す。時期を見て話させてもらうからな」
「……わかった」
茂吉を黙らせておいて、彼女に真実以外を教える。
「……まず、俺が話さなくちゃならないのはこの村についてだな。君はこの村について、何か思い出したか?」
「この村で巫女をしていたことしか、わかりませんでした」
「上々だ。この村の
きょとんとした反応から覚えてはないとわかった。
彼女をじっと見つめて、話を続ける。
「おい、直文……やっぱりさ」
首を横に振り、黙れと視線で送った。
「俺はこの村に毎日通うよ。君と色々話してみたいんだ」
「嬉しいです。是非、お願いします!」
彼女は嬉しそうに笑い、なんだか俺の心は暖かくなった。
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