第43話 探し求め
あれから六年が経つ。
正確には大学生活を送ってきた四年間と、教師の免許を取り、新人教師となって別の高校で教師として勉強を積んだ二年間。
そして現在は栄高校の教師としての人生が始まったばかりだ。
六年という時の流れは過ぎてしまえば、あっという間で。でもこれからもどれくらいの年月を追いかけていけばいいのかなぁと。不安になることもある。
けれどその中で自分は生きていくしかない。ただ静かに目的のお宝を探し続ける冒険を、ずっとするしかないから。
まだ六年しか経っていないこともあって栄高校周囲の街並みはそう大きくは変わっていなかった。住宅街もあるし、公園もあるし。学校の放課後によく遊んだ繁華街もある。
栄高校の教師になって初めての日曜日。
ユウジは懐かしの繁華街に繰り出していた。相変わらずの人の多さだ、多くの人々が買い物をしたり会話をしたり、楽しい時間を過ごしている。
一応自分も教師だから繁華街で遊んでいることが表沙汰になってはアレかなと思って。頭にクラウチングをかぶって、ちょっとだけ身元は隠してみた。まぁ、まだ赴任してきたばかりだから知られてはいないだろう。この格好はなかなかサマになっていると思う。ナンパされたりしないかな、なんてな。
繁華街を適当に歩き回っていたユウジは『新台入荷!』の文字の旗が数本たなびいている懐かしい施設に目を見張った。かつてもよく訪れて白熱したバトルをしたゲームセンターだ。
「まだあるんだなぁ」
外観は前と全く同じで、思わず気持ちがウキウキして一人でニヤけた。
そしてもしかしたら、という期待も心の中でひっそりと湧き上がってくる。
今日だったら、もしかしたら、いるかもしれない。
でもそんな期待を六年間も背負って生きてきたから心の反面では、いるわけないでしょ、と暗い考えをする自分がいる。
それでも根っからのゲーム好きな自分がゲームを楽しみたいっていうのもある。
ユウジはゲームセンターの中に入り、定番のクレーンゲームやメダルゲームを見ながら、あれも楽しそうこれも楽しそう、と自らテンションを上げた。
奥の方には昔と同じように大型の筐体が並ぶエリアがある。相変わらず、このゲームセンターはアーケードゲームや対戦ゲームなど多くの種類を取り揃えているから店内にも多く客がいる。もしかしたら休み明けに自分の受け持つクラスの生徒もいるのかもしれない。
(ゲーム好きだったら嬉しいな。自分がかつてお世話になった、あの先生のように)
対戦ゲーム機のエリアを歩き回り、とあるゲームを見つけて「おっ」と声を上げた。それは自分が何度もやってきたシューティングゲームの筐体だった。ちょっとモデルチェンジしているのか、入ると薄暗い箱型のタイプではなくなり、VRのヘッドセットを備えていて箱に入らずにプレイできるようになっている。プレイヤーは周囲から丸見えだから以前のように隠れることには使えなくなっている。
(……シューティングスター、懐かしい。最近は全然やってないな)
思い出ともいえる、このゲーム。見てるだけでソワソワして胸が痛くなる。
シューティングスターは人気があるのか、ゲーム機が三台も並んでいる。そのうちの一台だけが空いていたので、久々にコインを入れてチャレンジすることにした。
ヘッドセットを装着すると以前よりも美麗になった宇宙空間が広がり、自分が本当にその中を漂っている印象を受ける。機体に設置された銃型のコントローラーを握り、一発だけ弾を放つと、遙か遠くに吸い込まれていくように弾は白い筋を描いていった。
空に旅立っていくようなリズムのいいBGMが流れ始める。宇宙空間にはコウモリのような形をしたエイリアンがわらわらと飛んできた。
それに向かって銃を向け、放つ。いつやってもこのゲームには心が躍ってしまう。
時間を忘れて一面ニ面とクリアしていた時、ふとズボンのポケットに入れていた携帯が振動したので、そこでゲームを停止した。
ヘッドセットを外して携帯を確認すると、なんとまぁ、タカヤからメールが送られてきていた。国際メールって料金、大丈夫だったかな、なんて小さいことを考えてしまう。
『ユウジ、久しぶり。今はイタリアに旅行中だ。なんだかよくわかんないけど、キエナがお前に頑張れって、今メールしとけって言うから、メールしてみた。よくわかんないけど頑張れよ。日本に帰ったら土産、渡すからな』
そしてキエナ先生と二人で撮った写メが送られていて思わず苦笑いしてしまった。
(幸せそうで何より……バカップルだなぁ)
携帯をポケットに戻し、顔を上げた時だった。
ほんの少し離れた位置から、自分がやっているシューティングスターのゲームを興味深そうに見ている一人の小柄な男性が視界に入った。大きめのキャスケットをかぶっていて、少し色のついたメガネをかけていて口元は固く結ばれている。着ている上着はゆったりめのグレーのパーカー。
他の台を見てみれば、他二つはまだ空いてはいない。もしかしてこのゲームがやりたいのかもしれない、そう思って、
「よかったらツープレイしませんか? 俺まだこれ途中なんで」
そう声をかけてみた。
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