第39話 親友二人と

 一ヶ月間、何をして過ごしたのか。ひたすらゲームしたり、タカヤと遊んだり。大学の準備をしたり。あとは叔母夫婦の家を出て一人暮らしを始めたから、なんだかんだとその荷解きをしたりで時間は流れていった。


 そして四月。初めての大学生活は緊張と興奮で始まり、すぐに気のいい仲間もできて好スタートという感じだ。


 今日は午前のオリエンテーションだけで終わり、別の大学に通うタカヤと合流。さらに別の大学に通う清宮も呼び出し、三人で喫茶店でのんびりテーブルを囲み、コーヒーを飲んで近況報告会をしていた。


「タカヤの大学はサークル活動が盛んなんだよな。何か考えてたりすんのか?」


「俺はとりあえず体力作りしたいかなと思ってんだけど。キエナ先生がさ、あぁ見えて結構体力あって、俺の方がちょっと体力が持たなくってさ」


「……それってなんの話なわけ」


 ユウジのツッコミに、タカヤはハッとして顔を赤くすると、コーヒーのカップを口に当ててごまかした。

 その横で以前とはまるで印象が変わってびっくりするぐらいの、髪を真っ黒に染めた清宮が 「ただのノロケだろ」とツッコミを入れる。


「なんだよ、タカヤ、ノロケかよ」


 そう言うと清宮も「恋人がいない俺らにな」と言ったので「だなー」と返す。タカヤはますます赤くなって、コーヒーをズズズと飲んでいた。タカヤは恋人ができてから、すっかり丸くなったというか、トボけたような印象を受ける。恋人にやり込められているのかもしれない。


「清宮は新しい大学で恋人できんじゃないの。そんなお真面目くんなら、真面目な恋人できるぞ」


「さぁな、俺、真面目すぎんのも、あんまり興味ねぇんだけど」


 そういう清宮の大学は完全なる学力主義で、勤勉で真面目な生徒が多いと有名なところだ。勉強に力を入れているから、それに合わせた結果、清宮は見た目は真面目な感じに変わってしまったのだが。中身は、まぁ以前と同じ感じだ。少し肩の荷がなくなって明るくなったとも言える。


「タカヤもだけど。清宮もちょっと前と変わりすぎて気持ち悪いんだよなぁ」


 清宮は「うるせーバカユウジ」と頭がいい割に低レベルな言葉を返してきた。

 それには自分も「お前がうるせーバーカ」とやはり低レベルな返しをしてしまい、二人で顔を見合わせる。そしてもう一度二人で「バカだなぁ」と言って笑ってしまった。


 今まで高校生の時は関わらなかったから知らなかったが。実は清宮とは同じレベルでやり合うような、すごく気が合う者同士だったらしい。早く仲良くなっておけばよかったなぁと思うこともあるが、今からでも十分時間はあるだろう。


「タカヤも清宮も、二人はなんだかんだで楽しそうだな」


 二人の話を聞いてホッとしたので、ユウジはコーヒーを口に含んだ。苦味をゆっくりと味わっている時だ。やっとコーヒーカップから口を離したタカヤが、こちらを気使うような感じで「お前はどうなんだ」と言った。


 その言葉にコーヒーカップからタカヤへと視線を向ける。

 タカヤにリク先生との一件は今のところ特に進展がないと伝えてあるだけだ。今日これから会いに行くとも言ってはいない。何が起こるか自分でもわからないからだ。変なことを言って心配をかけても悪いと思って。


「……相手が強くて俺のレベルがまだ足りなくて勝てないから。今はレベルアップ中なんだよ」


 そう言うとタカヤは「そうか」と返しただけだった。気にしてはいるんだろうけど深くは聞いてこない。そんなタカヤのさっぱりとした性格は、いつもありがたいと思う。


「……あいつ、本当昔から頑固なところがあるから。お前も大変だな」


 清宮もテーブルに置いたスマホをいじりながら遠慮がちに労いの言葉をかけてくれる。


「けど兄貴が言っていたことがある。あいつはたくましくて弱いところもあるけど、ただ優しいだけなんだって。優しすぎるから、相手を傷つけることもあるんだ、と。だから俺がもしあいつと別れる時がきたら、あいつに一つの魔法をかけてやるんだ。その魔法が解けた時、あいつはきっと幸せを手に入れる。ずっと手放すことがない、幸せを……てさ。なんか今考えるとすっげぇ恥ずかしい兄貴だな。ヤベ、鳥肌立った」


「はは、確かに、すげぇメルヘンだなぁ」


 鳥肌に両腕をさする清宮を見ながら、ユウジは笑う。でも自分にそんな魔法を解くことができたなら、リク先生は永遠に幸せになれるのかな。うわぁ、すげぇメルヘン……って、ちょっとどころじゃなく恥ずかしいし、大学生の考えることじゃないよな。


 自分の考えを察したのか、ふとタカヤの方を見てみると。タカヤはニヒルな笑みを浮かべていた。


「俺達はお前の幸せを祈っててやる。だから頑張れよ。キエナ先生も言ってたぞ、あいつが欲しけりゃ、めげずにやれって」


「めげずにねぇ……うん、そうだな」


 ユウジはテーブルの下に置いた拳をテーブルの下で握りしめた。

 めげずにやれ、全力でやれ。そうだな、それしかないよな。

 このあとに何が待っていようとも。

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