第37話 ラストバトル2
「俺もそうだ」
リク先生は画面に集中し、カチカチとキーボードを叩いていた。
「ずっとお前をだましていた。悪いことしたと思っている。特にここ一週間なんか、お前にわざと焚きつけるようなことを言っていた。それなのに俺はお前は避けるようなことも言って……先生としてじゃなくて人間として、ひどいことをしているよな……」
先生のその言葉の意味は。マリアにリク先生のことを話した時に『デートみたい』とか『好きなんだ』とか。そんなことをマリアが言った時のことか。
確かに今思えばあれはリク先生がそう言っていて、自分はそれにドキドキしてしまって。
そしてその影響もあって自分がリク先生に興味を持って近づけば、リク先生はそれを拒否する……なんて矛盾だ。
「先生ひどいよな」
思わずそうつぶやくと「ごめんな」と小さな声が返ってきた。
(……違う、自分が単純すぎたんだ。だから先生のせいじゃない。難しいんだよな、怖いんだよな、先生も)
ゲームの手をゆるめないようにしながら別の疑問を投げかける。何気なく、さり気なく……空気を和ませたかったから。
「あのさ、先生はなんでマリアになってたんだ? そもそもなんであんな女子みたいなアバター作ってたんだよ」
「それは別に意味なんかないんだけど。ただなんとなく、その方が優しい雰囲気が出るかなと思って」
「……はは、なんだよそれ」
リク先生の答えには笑うしかない。確かにマリアなんて名前は優しげだし、常に微笑んでそうだし、慈愛に満ちてそうだし。
マリアとの対話はオンライン上ではあったが実際そんな感じがした。優しさにあふれていた。まさに“マリア”という感じで、自分はそれに救われたのだ。
その裏の人間に会ったら……ちょっとびっくりだけど。でもリク先生だって素敵な、かっこいい先生だ。背は小さいけど、実は笑顔の仮面の裏は悲しみでいっぱいなんだけど。
その裏を出してやって、涙を引っ張り出して、自分に夢中にしてやりたかったな。
……いや、やるんだ、まだチャンスはあるはず。
「さて、ユウジ。いよいよラストステージだけど」
リク先生に促され、ユウジはハッとした。今の中ボスはどっちが倒したんだろう、話に夢中になっていて気づかなかった。
ポイントを見てみるとリク先生の方がわずかに上になっている。ということは今の中ボスはリク先生に持っていかれたということか。
(くそっ、ここまで来たらもうラスボスを先に打ち取るしか……でもとりあえずザコを倒してアイテムやリロードの弾倉を手に入れておかなきゃ)
だがキーボードを押して弾を撃とうとして、あることに気づいてしまった。いくら撃っても弾が出ない。見れば手持ちの弾数がゼロになっていたのだ。
今回は難易度を上げて、弾数に制限をかけているのだから。ゼロ……これではザコすらも倒すことができない。 運良く攻撃してくるエイリアンを避けて、リロードの弾倉が宇宙空間を漂ってきて、それをゲットできるチャンスを待つしかない。
しかし、このままでは勝つのは不可能だ。
(くそっ、くそっ……! 勝たなきゃいけないのに!)
画面をにらみ、拳を握りしめた時だった。何かが機械にセットされたようなガチャンという機械的な効果音がゲームから聞こえた。
画面を見ればさっきまでゼロになっていた弾数が五十にまで増えている。リロード一回分の弾数。
(これは、このやり方は……!)
共にゲームをしているプレイヤーがアイテムを譲ってくれた時のパターンだということは、 チラッと横目で「へへっ」と笑う先生を見てわかった。
「ラストチャンス、だぞ?」
なんだかくやしい、複雑だ。競い合っている相手に助けられるなんて非常にくやしい。これで勝って意味があるのか、ちょっと疑問だが。こうなった以上は、しかたない。
ラストスパートでザコを倒しまくって。弾倉を増やしてラスボスは絶対に打ち取ってやる
、手加減なんてしない、全力だ。
そこからはおしゃべりなしで、無我夢中でゲームを進めていく。
そしてとうとうラスボスが出現した。今回は目がいっぱいあるクラゲのような形をした巨大なエイリアンだ、結構グロテスク。
リク先生は早速全力射撃を行った。先生がリロードとしている時に「弾倉なん個ある?」 と聞いてみると、先生の答えは「内緒」だった。
お互いに射撃とリロードを交互に繰り返していく。室内には弾を発射しているガンガンとか、弾倉を補充した時のガチャンという機械音が何回も響き、せっかく流れているBGMは全然聞こえない。
たくさん弾が当たっているからエイリアンの悲鳴も細切れ状態だ。ちょっとかわいそうだけど容赦したら負ける。
どちらが先に倒すのか、ラスボスの体力はもう残り少ないだろう。最後のリロードの弾倉を装填した。
(これが最後の攻撃だ、リク先生も自分も)
一気に全弾を撃って、撃って撃って撃ち続けた。どんどん弾数を表す数字が減っていく。敵が攻撃してくるのもおかまいなく、ひたすら撃ち続けた。
その間はお互い無言になっていた。自分は歯を食いしばって、心の中ではイケイケと叫んで。リク先生のことを考えて胸が痛くなって。
そして最後の弾がなくなったと思った時だった。画面の巨大エイリアンが盛大に花火のように飛び散って、宇宙空間に霧となって消えていった。BGM がなくなり、徐々に画面がフェードアウトされていく。
画面に映るのは二人のユーザー名と、今までの敵を倒したことによって蓄積されていたポイントだ。そのポイントにラスボスを倒したポイントが加算されていく。
数値が動いているのは、どちらかのみ。
「勝った……」
勝った方が、ぽつりとつぶやいた。
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