第22話 清宮の罠
取り巻き二人について行った先には、わりと広いが人気のない広場があった。休むためのベンチはあるのに休んでいる人は誰もおらず、周囲を建物に囲われているから日光が当たらない薄暗い場所だ。
ユウジは「マジかよ」とうんざりした。こんな人気のないところに呼び出されるなんて嫌な感じだ。しかもその広場には休憩所のような古びた小さな建物が建っていて動かすとガタガタ音が鳴るスライドドアには鍵がかかっていなくて悲しいかな中に入れるようになっている。
(やべぇ、俺こんなところでタコ殴りにされんのかな。もしものためにタカヤに連絡しといた方がいいかな。それよりもあんまり時間をかけると、リク先生に心配をかけてしまう)
「おい、清宮は中にいんのか?」
二人は何も答えないまま、建物の奥へと進む。換気のされていない室内は空気が淀んでいる感じがする。けれど定期的に掃除はされているのか、意外と中は埃まみれではない。中には簡素なテーブルとイスのセットも設置されていることから、普段は高齢者が集まって談話したり、親子連れがのんびり休憩しているのかもしれない。
息を飲んで進んでいくと自分を呼び出した人物はいた。テーブルの上に足を乗せ、背もたれに体重を預け、ふてぶてしく座っている。
取り巻きの二人はスッと移動し、ユウジの背後に回った。それは自分をこの場から逃すまいとしているかのようだ。
「お前は全く警戒心がないんだな、おとなしく家にいれば、こんなことにならなかったのによ」
同情とも呆れとも取れる清宮の言葉に対抗すべく、ユウジは口角を上げた。
「休みなんだからよ、俺がどこでどうしようと勝手だろ。ていうか、なんなんだよ。こんな日にこんな場所に呼び出しやがって。忙しいから早くしてくれねぇ?」
「すぐに済むよ、心配すんな」
清宮は立ち上がり、ユウジの目の前に立つ。なんだと思って見上げると清宮は目を細めた。その表情はどこか、つらそうに見える。
(……なんだよ、なんでお前、そんな顔すんだよ)
前もあった。清宮は突っかかってはくるが、どこか苦しそうなのだ。気をつけろと忠告をしてくれたこともあるし、よくわからない、こいつのことが。
けれど清宮は何かに苦しんでいるんだ。
「悪いな、おとなしくしてろ」
そう言うと、その言葉を合図に後ろの二人がユウジの両腕を片方ずつ押さえた。抵抗したが押さえられた腕はがっちりと離れない。そうしているうちに清宮がスッと自らの腕を動かす。
その手にはオレンジ色の液体が入った瓶が握られている。まさかそれで殴るのか、絶対に硬い、殴られたら絶対に頭が割れる。中身はなんだ、液体はゆらゆらと揺れている。見れば蓋が開いている、中身はたっぷりだ。
清宮はユウジの頭の上で、その瓶を逆さまにした。中から液体がドボドボと音を立て、ユウジの頭にこぼれていく。
思わず目を閉じたが、アルコールのきつい匂いに鼻から息ができない。息を吸う為に開いた口の中に液体が入ってくる。
(まずっ! 舌がピリピリする、苦い、まずい、喉が痛い。なんだこれ、酒――⁉)
酒なんて飲んだことはないが酒臭さというのはなんとなくわかる。嗅ぐと不快だ、顔をしかめたくなるぐらいに。味は……これが酒だというなら、なんてまずい飲み物なんだ。まずくて吐きそうだ。飲めない、こんなの。
口の中のまずさと臭さ、液体の冷たさに耐えていると。ようやく瓶の中身がなくなったらしい。瓶が雑に落とされ、転がる音がした。
「ゲホッゲホッ、き、清宮っ、なんなんだよっ!」
自分と周囲に、ものすごい臭さが漂っている。いつの間にか腕は解放されているが腕で払っても服で顔を拭っても、いつまでもスッキリはしない。
口に入った微量な酒はなんとか飲み下したが、舌にこびりついてしまったのか、舌のピリピリ感と苦みは取れない。おまけに臭いのせいか頭がクラクラとしてくる。
ユウジは顔をこすりながら清宮に液体の正体を聞いた。
「何って酒だよ。俺もまだ飲んだことないけどな。お前をハメるにはこれぐらいした方がいいかなと思って」
なんだそれ、清宮は何をしようとしているんだ。
気づけば取り巻きの一人がいなくなっている。もう一人は自分を逃がさないというふうに建物の入口付近に立っている。
「今な、警察呼びに行ってるから」
清宮の物騒な言葉にユウジは目を見開く。
「捕まるんだよ、お前は。公共の場を汚したっていうことと、未成年の分際で飲酒していたってことで」
「はっ? そんなの信じるわけねぇだろ!」
「でも俺らが証言すれば真実味はあんだろ。なんてったって三対一だし。実際、お前は酒まみれ。お前が警察沙汰になったら、あいつはどんな顔するんだろうな」
清宮が言葉で指した“あいつ”とは。誰のことであるのか、すぐにわかった。
リク先生……!
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