第21話 とんだ事態
「全くお前にはかなわないよ、若さかなぁ?
それとも先生も反射神経が鈍ったか……でもお前とは五つぐらいしか違わないよな、はぁ」
対戦を終え、ゲーム機から立ち上がったリク先生は頭をかきながら苦笑いを浮かべていた。
「まあ、でも勝ったのはお前だ。今回はお前の勝ちだ、ユウジ!」
切り替えの早い先生はそう言って今度は満面の笑みを浮かべた。こんなゲームの勝負でも勝ったことを喜んでくれているとわかる表情。見ていると、こちらが嬉しくなる。
「でもお前、なんで先生の家なんて来たいんだ。独身男の家なんて、な〜んも華やかじゃないぞ」
「えー、先生んとこ、ゲームもいっぱいありそうだし、楽しそうじゃん」
「まぁ、確かにゲームはあるけどな。あぁ、でも今日掃除してないんだよなぁ…… 汚いぞ部屋。幻滅するなよ」
先生はそう言うが先生の家は前に見た。あの時であんなにきれいだったのだから、きっといつだってきれいだと思う。
「じゃあ昼飯食べたら先生の家に行くかぁ。言っておくけど他のヤツには絶対に内緒だぞ。タカヤにもダメ。お前だけえこひいきしてるって言われても、お前も困っちゃうからな」
先生に「わかってるよ」と答えながら、ユウジは胸の中でポッと温かくなったものを感じて微笑を浮かべる。
えこひいきなんて別に考えてもいない。でも先生が自分のことを他の生徒よりも特別かも、と少しでも考えてくれたら。それは嬉しいことだ。
白熱したゲームを終え、時計を見たら昼時になっていた。約二時間もゲームしてたのか、すげぇなぁなんて思った。
お昼は先生おすすめの繁華街にあるラーメン屋に入って昼食を済ませ、そのあとは先生の家に行くことになった。
先生の家……それを考えると緊張する。いや、いつぞやかはキエナ先生に拉致られて送り込まれたんだけど。今度は先生と一緒に堂々と行くことができるんだ。
先生と、先生の家で二人だけ。なんか、嬉しくないか、それって。
「ユウジ。先生、そこのコンビニで飲み物とかおやつとか買っていくから。お前もあれだったら家族に電話しとけよ。帰ってこないって心配かけたら悪いからな」
「先生、俺ガキじゃないんだから……まぁ、わかったよ、電話しとく」
そう言ってユウジはコンビニの外に、先生はコンビニの中に入っていった。
もしかして先生んちに泊まるっていう可能性も? ……いやいや、それはないか。いくら明日休みでも、っていうか生徒だしな、俺。
でももしそうなっても結構ドキドキだけど、俺は嬉しいかも。先生と一晩一緒……うん、絶対緊張するけど楽しい……いやいや、ダメだよな、先生が許さないよな、それは。
頭の中で変なことをぐるぐると考えながらもユウジは叔母に連絡を入れた。
『友達の家に遊びに行ってくるから遅くなるかも。もしかしたら夕飯も食べてくるかも』
叔母は『わかったわ、気をつけてね』と、いつもの優しい口調で言った。
可能性は低いが、ユウジはもう一言だけ。電話を切る前につけ足す。
『……もしかしたら、そのまま調子に乗って友達の家に泊まるかもしれないけど。そしたら、
朝に必ず連絡するから心配しないでな』
そう言って電話を切った途端、顔が熱くなった。自分、何を期待してんだろうと思ったが、やっぱり期待はしてしまう、したくなってしまう。
(ふぅ……さて、戻るか)
携帯をズボンの尻ポケットにしまい、顔を上げた時だった。
自分の目の前で立ち止まっている二人組がそこにいた、見知った顔だ。
「なんだ、お前ら」
自分のことを、目を細めた表情でガン飛ばしている二人組を見てユウジは顔をしかめる。二人は清宮と一緒にいる取り巻きだ。名前は覚えてないけど。この前のプレミアム購買対決の時も清宮の側には、こいつらがいた。
「こえぇ顔すんなよ、お前にちょっと話があんだよ。こっち来てくれるか」
一人がそう言うと、もう一人が来いよと言わんばかりに、あごをクイッと動かして向こうを示した。
「そんな暇ねぇよ、俺は人を――」
そう言おうとしたところで、ユウジは言葉を飲み込む。先生が買い物をしている最中に、ここを離れるわけにはいかない。 急にいなくなったら先生に心配をかけてしまう。
けれどここにいたら、こいつらに先生と会っていることがバレてしまう。別にやましいことしてるわけじゃないけど休日に生徒と先生が街中で遊んでいるなんて知れたら。先生の立場がまずくなってしまうかもしれない。
くそ、と小さくつぶやき。ほんの少し悩んだ後で、ユウジは「わかった」とうなずいた。先生に『ちょっと待ってて』と伝えたかったが自分は先生の番号は知らない。メールもできない。
でも先生ならわかってくれるかも。自分がちょっとだけ寄り道してんだ、くらいに思ってくれることを期待するしかない……先生、勝手に帰ったりとかしないでくれよ……。
ユウジは清宮の取り巻きに従い、その場を離れた。
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