第17話 賭け、再び
早速、この前もやったシューティングゲーム、『シューティングスター』をプレイすることにした。
リク先生のやり方は型が決まっているらしい。最初からの全力射撃を限界まで繰り返して、あとは運次第と細かい射撃。ヘッドセットを互いにつけ、コントローラーである銃を握りながらユウジはたずねた。
「リク先生、そのいつも初っ端から全力射撃のやり方で負けたことないのかよ?」
「負けることもあるぞ」
「だよな、やり方変えたりしないの?」
「そういう時は運が悪かったんだなーって思うようにしてるからな。次こそは大丈夫って信じて、またやるんだ、全力でな」
薄暗く画面が光るゲーム機内でリク先生は銃の引き金をリズム良く響かせる。自分も負けじと引き金を引き、頭の中では色々なことを考えていた。
せっかくリク先生と過ごす休日だ、何を聞いてみようかな、何を聞いたらまずいかな。でも結局は全部聞きたいんだから、あまり深い考えはなしで口にしてみようかな……あれやこれや考えているが。
とりあえず一つ思いついたことがある。それを中ボスのエイリアンを倒してキリがいいところで、ユウジは発言してみた。
「先生、今から俺と勝負しない?」
「お、なんだ。先生と勝負するのか?」
それは前回リク先生から持ちかけられた賭けというやつだ。それを今度は自分から言い出してみた。
リク先生は途中で運良く出てきたリロードの銃弾を取得しながら「で、内容は?」と乗り気だった。
「じゃあ先生、今日はこのゲームと、あと二種類ゲームやって俺と勝負する。先に二勝したら言うこと聞くっていうのはどうだ?」
ユウジの提案に先生は「もちろんだ」と合意した。そうと決まればこの戦いも負けるわけにはいかない。
ユウジはちょっと汗ばんだコントローラーを握る手に力を込めた。
もうちょっと進めばラスボスが出てくる。仕留めて、まずは一勝を取らなければならない。
隣からは先ほどよりもスピードアップした引き金の音が響き、エイリアンたちを撃破していく。リク先生……本気だ、この先生は例えゲームだろうといつでも全力だから。
そして間もなく、ラスボスに到達した。前回と姿形が違う巨大なイカみたいなラスボスだ。初めてだから相手の出方や攻撃方法がわからない。前と同じだったらやりやすかったのに、とネガティブに考えてしまったが。
そんなことは気にしていられない、とユウジは引き金を引き続ける。
同時にリク先生の銃からもガンガン銃弾が放たれ、イカ型のラスボスに当たっていく。どちらが多く銃弾を打ち込めるかが勝負の決め手だ。手を休めないように注意しながら、ユウジはリク先生に声をかけた。
「なぁ、先生に聞きたいことがあるんだけど!」
「えっ、なんだ、今聞くのか⁉」
「だって時間もったいないからな。あのさ、なんで俺をゲーセンに誘ったんだよ?」
ラスボスが「ウゴォォ」と雄叫びを上げる中、リク先生は「そんなことか!」と声を上げた。
「お前と同じ境遇の大人としてだな、お前に教えたいことがあったからだよ!」
「同じ境遇?」
先生もユウジも攻撃の手を休めない。
「ユウジも卒業が近いからな! お前のこれからのこと、これから先にどういう希望があるかということを伝えたいと思ったんだ!」
珍しくリク先生が真面目だ、いや授業中はいつもわりと真面目なんだけどさ。こんな状況で真面目な回答されるのも変な感じだな。
「そういえばユウジ、昨日大学受かったって通知がきたんだろ⁉ おめでとう!」
「え、よく知ってんな」
「そういう情報は流れてくるんだ、先生だからな!」
先生の言うとおり、昨日学校から帰ってみると受験の合否の結果が郵送で送られてきていた。その手紙の封を切り、中身を見ると、目立つ文字がすぐに目に入った。
『合格』
そのことは早々にマリアにも伝えてある。マリアは笑った絵文字と共に『おめでとう』とメッセージをくれた。
『ユーちゃんの人生はまだまだこれからだね』とも。
でも大学には行けるが、自分はまだ何も将来のことは考えていないから。やりたいこと、何ができるのか、これから考えていかなきゃならない。見つかるのかな、と不安もある。
「なんてことはないさ。自分がやりたいことなんて時がくればいくらでも見つかる。ゆっくり探せばいいんだ。なっ、ユウジ!」
今考えていることを何も言ってはいないのに。リク先生はわかっているかのように、そのことについて助言をしてくれた。
「お前の人生はまだまだこれからだ! いいことも辛いことも楽しいこともたくさんある。でも全力でいけばいいんだ、なんでもさ」
よく言われるありきたりな言葉だ。でもリク先生に言われると、それが先生からの真っ直ぐな応援だと感じられる……ん、なんかマリアにも同じことを言われたよな、奇妙なシンクロだな。
そんなことを思っていた時だった、一瞬だけ気が抜けてしまい、引き金を引きそびれた。
すると、とんでもない結果が訪れてしまった。
「――あぁっ!」
ユウジは声を上げた。やってしまった、油断したら……画面上にいるラスボスが『ギャァァ』と悲鳴を上げ、画面から消えていってしまった、つまり倒されてしまったのだ。
誰に……そんなのは決まっている。
「よっしゃ! 先生の一勝だな!」
ヘッドセットを外すと、リク先生はしてやったりと嬉しそうに笑っていた。
「なっ! なんだよっ、真面目な会話してたのはわざとだったのかよっ!」
「失礼だな、そんなことはないぞ! 気を取られたユウジが悪いんだからなー」
む、むかつく……と、くやしくて頭をかいていると。先生は笑いながら「はいはい、次次! ふてくされるなっ」と、この時間を心底楽しんでいます、という表情で言った。
「……くっそぉ、調子狂うな、全く」
その表情を見ていると……負けたけれど、こちらも嬉しくなってしまう。
そして頭の中では以前、マリアに言われた言葉がふと思い出される。
『ラブラブじゃないの。 デートだよ』
ユウジはリク先生に聞こえないように「う……」とうなる。
これがもしそういうことになるんだと言うなら。それを楽しんでいる俺は先生に対して……。
今までとは違う、胸がキュッとなって痛んで。楽しくも苦しくもなる。
けれどそれがたまらなく、耐え難く……嬉しくて熱い――そんな気持ちを抱えているということに、なるんじゃないのか。
何、考えてるんだ、俺。
俺はそんな気持ちを抱えているのか?
リク先生に……。
「ユウジ、行くぞー?」
リク先生に声をかけられ、ハッとして。ユウジは慌ててヘッドセットを元の場所に戻してから次のゲームへ向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます