第11話 陰謀のダウン

 今回、プレミアム購買バトルになぜ教師二人が参加しているのか。

 それはあの二人も購買が大好きだからだ。二人だけじゃない、他の購買好きな教師も参加している。ルールとしては、それぞれのチームに一人は教師も参加することができる。


 だがどの先生をゲットできるかは運次第だ。リク先生は小柄だが、あぁ見えてスポーツ万能。一方の恩田も漢らしい体格に見合った筋力体力を備えているから、ドッジボールにはうってつけ。この二人がチームに加わることでの戦力アップは非常に有利といえる。

 特にこれまでの戦歴では、リク先生の参加チームは必ず優勝という栄光とおいしい購買が買える権利がついてきている。まさに必勝の存在だ。

 

「あっちはリク先生か。くっそ、勝ち目がないじゃねーか」


 タカヤがめんどくさそうにつぶやく。自分もリク先生には勝てる気がしないが参加した以上、逃げるのはプライドが許さない。 所詮ゲームだ、運次第では勝てる……かもしれない。リク先生に勝つには相当な運が必要だけど。


 それぞれ八つのチームが四組に分かれ、試合がスタートした。優勝するには四回戦勝てばいいだけなのだ。


(くぅ、頑張るぞぉっ!)


 一試合目は難なく勝てた。 二試合目もなんとか勝つことができ、チームの健闘にユウジはテンションを上げた。偶然にも今組んでいるのが運動部在籍のメンバーが多いようだ。


「すげーじゃん、タカヤ。俺ら、あと二回勝てばいいんだ」


「待て待て、その二チームには恩田とリク先生がいるんだ。喜べねぇよ」


 タカヤはそう言うが、チャンスかもしれないとユウジは思った。良いメンバーが揃っていれば勝てる奇跡は起こるかもしれない。あきらめるにはまだ早い。


 残る二試合の前に、他のチームがまだ戦っていた。見てみると、そこには戦い真っ最中のリク先生の姿。

 先生は楽しそうに笑っている。投げられたボールを避けるのではなく、見事に両手でキャッチし、すかさず勢いをつけてそれを投げ返す。しっかり筋肉のついた腕が力を込めた時に筋が浮く。何気なくそれを見ていると、なんとも言えない気分の高揚に体がムズムズした。


 小柄な体格のせいか足さばきがとても細やかだ。グラウンドなのにバスケ選手が体育館を走るように足元のグリップが効いていて、ボールを追う時は短距離走の選手みたいな速さだ。


 ボールを投げ返そうとするその視線、コントロールは狙った相手を絶対に逃さないという正確さ。そして自身は絶対にボールに当たらないという自信のこもった笑みを浮かべている。

 さすがスポーツ万能……先生って怖いものとかないんだろうな。


 そんなリク先生に見とれている間に次の試合の準備は整っていた。次のチームはゴリマチョラー恩田が加わるチームだ。

 そしてさらに先ほど自分に対して不穏な言葉を言い放った清宮と、その下っ端的な立場にある二人の男子生徒がいる。


(何かやらかしたりしねえだろうな……)


 清宮とその手下の何かを企んでいそうな細い目つきが気になるが、試合開始のホイッスルが鳴る。

 先行は相手チーム、恩田のボール。恩田はたくましい腕を振り上げ、ポールを投げる。その目標は誤ることなく狙った生徒に当たり、早速一人がアウトになってしまった。


 こぼれ球を拾い、タカヤが投げ返す。放ったボールはキャッチされてしまい、また相手の攻撃となる。

 そんな攻防を繰り返しているうちに気づけば自分のチームは半分以下になり、相手のチームはまだ十人以上が残っているヤバいことになっていた。


 攻防の要となっている恩田がいるチームは、やはり手強い。こんなのに勝てるのはリク先生のチームしかない気がする。


 そういえばリク先生と恩田の二人は――プレミアム購買対決もそうだが、体育祭などでも何かと競い合うことが多かった。戦っていつも勝っているのはリク先生だ。そのたびに恩田はいつも悔しそうに表情をくもらせていて……って、この状況でそんなことを思い出してる場合じゃないな。


 でも今回もこのあとの試合では二人が対決し、リク先生が勝つんだろうか。勝ってとびっきりの笑顔で大喜びするんだろうか。


 リク先生の笑顔は涙とは無縁だ。周りがどんなに暗くても、その笑顔で導いて明るい場所に連れて行ってくれるようで。

 気分が落ち込んでいても学校でリク先生に挨拶され、背中を叩かれ「大丈夫だ!」と大きな声で言ってくれ、安心できたことが今まで何度あったんだろう。

 ……リク先生――。


「ユウジ、危ねぇ!」


 タカヤの叫び声に、ハッと顔を上げた時だった。顔面にものすごい衝撃を受け、ユウジは勢いよく後ろに吹っ飛んだ。盛大に尻もちをつき、振動が腰まで響いて痛み、地面についた手の平が砂利でこすれて痛かった。

 それ以上に顔面が痛い。熱くてピリピリする。顔を手で押さえたら鼻からスーッと液体が流れる、鼻血だ。顔面にボールが思いきり当たったんだと理解した。


 周りからタカヤの「大丈夫か」という声と恩田の声、その他色々な人の声がした。

 そんな中で気のせいかなと思うくらいの、低い声も聞こえた。


「だから忠告してやってんのに」


 誰だ、そんなことを言うヤツは……って、あいつしかいないな。あいつ……何が狙いだ? 俺に恨みでも?

 鼻血のせいで話すこともできず、ユウジはタカヤに体を支えてもらいながら保健室へと向かった。

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