第10話 購買バトルだぁ!
「ほぉ〜それで……リク先生と大笑いしながらゲームして賭けには負けて帰ってきたというわけか。ゴリマチョラーがうろつく中、面白いことしてんなぁ」
学校の廊下の壁際にたたずみ、淡々と報告した結果を再通知するタカヤの言葉を受け止めながら、ユウジは自分の不甲斐なさにため息しかない……何やってたんだか、俺。
「ま、当初の目的とは違ったけどよ、リク先生がお前を気にかけてくれて、結果的にまたゲームする約束もしたからよかったんじゃん? 急に仲良くなれたんだし」
タカヤはそう言って慰めようとしてくれていた……多分。
昨日のシューティングゲームではラスボスを討ち取ったのはリク先生だ。先生から賭けの代償として持ち出された内容は『先生とまた今度ゲームをしよう』というものだった。
そんなんでいいのか? 勉強を真面目にやれ、とかじゃないのかと、ついつい聞いてしまったのだが。
リク先生は笑って首を横に振っていた。
そんな内容なら『賭けで言うこと一つ』なんて言わなくても喜んで受けてやるのに。でも先生が自分とゲームしたいと思ってくれている、そう思うと、実はちょっと嬉しかった。
「でもなぁ、一緒に楽しんでたら先生を泣かすには、ほど遠いよな、どうすんだよ?」
慰めから一転、タカヤが意地の悪いことを口にする。
ユウジはムッとしながら「リク先生と仲良くなって先生を感動的に泣かしてやれば結果オーライだろ」と言い返した。
タカヤはククッと不敵な笑みを浮かべる。
「お前の短絡的な計画……うまくいく気がするような、しないような。ま、卒業まで頑張れよ。少しは協力してやるから」
優しいんだかそうでないんだか。自分の必死な状況を楽しむ親友の笑みが恨めしい。
そんなやり取りをしていた時、廊下の向こうから自分たちの方へ向かってくる長身の生徒がいた。白いワイシャツを着崩した、茶髪のツーブロックヘア。ズボンのポケットに手を入れ、いかにもちょっとだけ悪い感じ出してます、という男子だ。
そいつはユウジの前で止まるとツバでも飛ばすように言い捨てた。
「お前、なんで恩田に捕まんなかったんだよ」
突然の言葉にユウジは「はぁっ?」と声を上げた。誰だよこいつ、と思っていると、タカヤがコソッと相手の正体を告げる、昨日の話に出ていた「清宮だ」と。
なるほど、清宮か……この三年間、話したこともない相手だけど。いきなりそんなことを言われたら怯むわけにはいかない。
ユウジは清宮の前に向き直り、自分より背の高い清宮に向かってガン飛ばした。
「なんでそんなこと、お前が知ってんだよ」
「ゲーセン、行っただろ。お前が恩田に捕まるようにって仕向けたのに」
清宮の言葉で全て理解できた。
「じゃあ、あの手紙はお前のだったのかよ」
なぜそんなことを、そもそも自分と清宮には全く接点がない。この三年間クラスも一緒ではなかったし、大勢いる生徒の中でこの男が今の今まで清宮だとすら知らなかったのに。
清宮は茶髪をかき上げながら笑みを浮かべた。
「お前を落とし入れたいと思っているヤツがいるんだよ。気をつけるんだな、周りの連中に……先公も含めてよ」
悪い意味で、意味深な言葉に唖然とした。
その時、廊下中にある生徒の声が響き渡った。
「みんなーっ! 今日プレミアム購買やるってよーっ! 参加したいヤツ、昼休みにグラウンドに集合! 優勝賞品は高級ビーフカツサンドだってよーっ!」
その言葉に廊下や教室にいた生徒が戦いに赴くために歓喜の声と雄叫びを上げ、校舎全体をビリビリと揺るがした。
プレミアム購買とは月に一回購買部が行なう特別メニュー販売のことだ。事前の告知はなく、ある日突然行われるので気付いた生徒がその宣伝役を担い、全校生徒に知らせることでプレミアム目当ての生徒は昼休みにグラウンドに集結する。
もちろんユウジとタカヤも、清宮のことはさておき、そこに参加していた。
今日は晴天、絶好の戦い日和だ。グラウンドには一年から三年のプレミアム目当ての生徒、およそ百人が集結していた。
昼休みが終わる前に、この集まった生徒の中からたった数名が勝者となる。どんな形で勝者を決めるのか。
それは毎回ドッジボールだ。十五人前後の人数で八つのチーム、そこからは相手チームをつぶして上を目指すトーナメント形式。チームになるのは近くにいた連中でまとめられるのでチームの実力は運次第。体力筋力に自信のあるヤツもいれば、そうでもないヤツもいる。
自分は体力は普通レベルだと思う。そして大体タカヤがいつもそばにいるから、タカヤとは同チームになる。タカヤも運動は平均レベルだ。
「今日は勝てっかな。コンディションどうよ、タカヤは」
「至って普通。でもビーフカツサンドは食いたよな。多分これが最後の戦いになるかもしれないしな」
「だな、もう卒業だし」
ユウジも力強くうなずく。自分が前回プレミアムにありつけたのは一年くらい前だ。おいしいビーフシチューを寒い冬に味わった時のことは学校生活の良い思い出となっている。
もう一回ぐらい、その幸せをなんとか勝ち取りたい、うまいものに舌鼓を打ちたい。
そう思っていた時、ユウジは離れた敵チームにいる、ある人物に目がいった。ちょっと前まではいても気にしなかったのに。今の自分には視界に入りやすい、小さいくせに存在感やインパクトは大。
「……リク先生、マジかよ」
生徒たちに混じるのが全然違和感ない。白いワイシャツを腕まくりし、気合いを入れているリク先生が別チームに入っていた。
しかももう一つの別チームには、こちらは生徒の中に混じっていると違和感ありありの存在。筋肉ゴリマチョラー生活指導教師、恩田の姿があった。
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