第9話 俺が勝ったら
リク先生は外の様子を伺いながら「恩田先生まだいるなぁ」と、執念深い恩田先生の行動に呆れと感心をしているようだ。
一体どんな形相で、あのゴリマチョラーはゲーセン内を捜索しているのだろう。見たいけど見れないのが残念だ。
しばらく何もしないだけの時間が過ぎていく。液晶画面ではさっきから『コインを〜』という文字がチカチカと点滅している。
文字を見ながら(これなんのゲームだったかな)とユウジは考える。
タイトルは……シューティングスター。
(あっ、あのゲームじゃんか。落ちてくる隕石やエイリアンを銃型のコントローラーで撃ち落とすガンシューティングゲーム。前にパソコンでオンライン版をやったことがあるよな、アーケード版は、そう言えばやったことねぇ……ん、そうか、これ新しいゲーム筐体じゃん)
「……先生」
「どうした?」
今、こんなことを言ったら怒られるかもしれない。でも新しいゲームが目の前にあり、今は暇である……ウズウズしかないっ。
「あのさ、恩田がまだいなくなんないからさぁ……ちょっとゲームしようよ。俺、これやりたい」
リク先生は「はぁっ?」と呆れたような声を控えめに上げた。そしてゆっくりと画面に視線を移し、顔をしかめた。
「……シューティングスター、なつかし」
画面を見てリク先生もこれがなんのゲームかを瞬時に察した。さすがゲーム大好きリク先生だ。でもさすがにこのタイミングでは「ダメだ」と怒られるかなぁと思った。
「……ユウジ、先生な、まだ職務中なんだぞ」
画面のチカチカ光る文字の反射を受けながらリク先生は言う。その表情はくやしそうに眉根を寄せている。
しかし数秒経ってみると。ふとその瞳にチャレンジ精神のようなものがキランと光ったような気がした。
そして何かを思い立ったかのように笑みを浮かべた。
「あ〜、だけど……先生、今は休憩中だからな。今夜はまた残業コースだし……一回だけなら?」
「先生、やりたいじゃん」
「……うっさい」
リク先生がふてくされた、ヤバい、面白すぎる。
気を取り直し、リク先生は「ここは先生がおごる」と言ってポケットに入れていた財布から百円を取り出し、ゲーム機に投入した。
「まぁ、ここでボーッとしてるより、なんかやってる方がバレないかもだからな! はい、ユウジ、ヘッドセット」
「別に言い訳なんてしなくていいから」
急にウキウキになったリク先生からゲーム機内に備えられたヘッドセットを手渡され、装着。そして台に置かれた銃型のコントローラーを握り、準備万端だ。
ヘッドセットのスクリーンの向こう側には広大な宇宙が広がっていた。果てしなく広がる黒い海の中に点々と星が輝き、時折ゲームタイトル通りの流星が流れていく。
そして目の前には数十体のアメーバみたいなエイリアンが液状の体をプルプルさせながら動いている。それはいわゆるザコキャラだ、アイテム落とすのと特典稼ぐためだけの存在。
ここからスタートというわけだ。軽快なBGMが流れ始め、画面に『レディーゴー!』という文字が表示された。
真っ先にリク先生のコントローラーがカチカチという軽快なリズムで引き金をフルスピードで撃っていた。
「さ、最初に全部弾を撃っちゃうのかよ⁉」
豪快な銃さばきに驚いてしまい、ユウジは叫んだ。このゲームは最初から所持している弾倉の数が三つと決まっている。途中で敵を倒せば補充はできることもあるが、それが手に入るかは運次第だ。手に入らなければ当然撃つことはできなくなり、難易度初心者にして弾数無制限モードでも大した威力のない弾に切り替わってしまう。そうなると勝ち進むのは難しい。
だから弾は大事に使っていくのが賢明だが、リク先生は早速一つ目の弾倉をリロードしていた。
「先生のやり方はな、最初から全力でやる、がモットーなんだ!」
そう言うとリク先生は笑みを浮かべながら、補充したばかりの弾を目前に迫るエイリアン集団に向けて全部ぶっ飛ばしていく。
撃たれたエイリアンはきれいに弾け飛び、また新たなエイリアンが画面内へと登場してくる。
そうなると撃破数は先生の方が稼げているわけだ。スタートダッシュというやつ。
(ヤバい、負けてる!)
ユウジも慌てて銃を握るが、自分は賢明にコツコツと敵を倒していくのが手法だ。RPGでも経験値を積み上げていくという意外と堅実派なのだ。
「先生、もう予備の弾倉ないじゃん!」
「いいんだよ、途中で見つかるだろ」
「見つかんなかったらどうすんだよ」
「そしたらそれだけのことだ! とにかく全力でやるんだ」
あまり大声を出したらゲーセン内をうろついている恩田にバレるかもしれない。
けれどそんなことなどお構いなしに、自分達はゲームに熱中してしまった。
画面は進み、雑魚キャラを撃破していくと今度は中ボス、中ボスの時は大ボスに進み、一つの面をクリア。次の面に進み、次の面も同じようなやり方でクリアしていき、気付けば最終ステージだった。ここまでたどり着けるヤツはなかなかいないだろう。自分もオンラインでマリアとやった時は勝ち進められたが今回はいけるだろうか。
ラストステージは、さすがにラストというだけあってザコが多い。先生は一回だけ全射撃をすると、そのあとはコツコツ戦法に切り替えていた。
「リク先生、ゲーム好きっていうだけあってやっぱりうまいんだな!」
先生の巧みな銃さばきにユウジは感動した。リク先生は結構やり込んでるようだ、多分かなりの時間をゲームに費やしてきたに違いない。
それに自分とのやり方の相性がぴったりな気がする。
先生がリロードしている間に、自分は先生がやられないように敵を警戒し、自分がリロードとしている間には先生が防御を固めてくれている。何も言わなくてもそれができる。初めて一緒にゲームをやった感覚じゃない、阿吽のなんとやらだ、すごいと思った。
そしてとうとうラスボスが現れた。巨大な手足、尖った頭、いかつい身体。いかにもという形のエイリアンだ。口の中に小さい口も存在している。
「ユウジ」
リク先生が突然呼んだ。
「ラスボスを先に倒したら、先生の言うこと一つ聞くっていうのはどうだ?」
「は、なんだよそれ」
いきなり変なことを言われ、ユウジはラスボスではなく、リク先生に目を向けた。
ヘッドセットを着けながら、リク先生は笑っていた。
「そんな賭けみたいなのがあっても面白いだろ?」
「あ、あぁ、そうだな。まぁ、いいけど」
先生がそんな取引を持ちかけていいんだろうか。リク先生だったら、そんなことは関係ないのかもしれない。一緒にゲーセンでゲームやっちゃってるし。
「じゃあリク先生、俺が先にボス倒したら俺の言うこと聞いてくれるの?」
リク先生は「もちろんだ」と即答した。
「だけど先生、強いからな! 負けないぞ!」
そう言い、リク先生は高らかに笑った。とても楽しそうな笑顔、純粋に物事を楽しんでいる子供みたいな、あどけない表情。
それを見ていたら自分も心が沸き立つように楽しくなってしまった。
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