第7話 謎の呼び出し

「ユウジ 」


 朝と同じように下駄箱で隣に寄ってきたタカヤは「どうすんだよ」と声をひそめた。

 どうする、と聞いてきたのは例の計画の件だ。


「そう言われてもな……というか、俺的には逆にチャンスなんじゃないかって思ってんだけど」


 タカヤは「チャンス?」と疑問の声を上げる。


「だって先生達がちょっとピリピリしてる中だろ。だったらますます目をつけられるにはちょうどいいじゃん? ここまで来たら現場に飛び込んでみない手はないって」


「そうだろうけどさぁ……お前、リク先生を困らせるのが目的じゃないだろ」


「ちげーよ。でも困らせてから盛り返す方が気持ち的には――んん?」


 タカヤと問答しながら下駄箱にある自分の靴に手を伸ばした時だった。外履きの上に半分に折られた薄い手紙のようなものが見えた。


「なんだこれ?」


 なぜ靴の上に。疑問に思いつつ、それを開いてみると中はシンプルな白い便箋になっていた。


『今日の五時に駅前のゲームセンターで』


 読みやすい、きれいな字でそう書いてある。ユウジとタカヤは二人でそれを凝視して、しばしポカンとした。

 ……なんなんだ、これは。


 紙をひっくり返し、裏も見たが名前らしきものはない。書いてあるのは先ほどの文章だけ。見た感じではちょっとドキドキする。もしかしてかわいい子から告白されるんじゃないか? と変な妄想をしてしまう。

 だが内容を考えると悩ましいことだ。


「ゲームセンターって、今一番問題になりそうな時間と場所だな。なんでまたこんな時にそんな場所を指定するんだよ。タカヤ、これってお前か?」


「なんで俺なんだよ」


「だってこんなタイムリーな手紙だし」


「俺がお前を呼び出してどうするんだよ」


「まあ、そうだな」


 互いに苦笑いしてから、ユウジは便箋をカバンにしまうと「さて」と気合いを入れた。誰だかわかんないけど、こんな呼び出しされたんじゃ行ってみるしかない。


「タカヤ、最近街中で騒いでるヤツって誰なんだろうな」


「どうせ清宮とその下っ端連中じゃないの? もしかしたら下級生かもしんないけど下のヤツらのことは知らねぇ」


 タカヤの的確な返答に納得がいく。

 清宮……自分と同じ三年だが他クラスの男子なので絡んだこともないヤツだ。

 だが、しょっちゅう遊び歩いていると有名で他校生徒ともたまにモメているらしい。

 それでも犯罪らしい犯罪をしているわけではないので、そこまで咎められているわけではないが。学校での態度はそれなりに悪いし、授業もサボることが多いらしい。


「でも卒業が近くなってからは大人しくなったって聞いてた気もするんだけどな」


 ユウジは「ふーん」と相づちを打ちながら靴を履き替えた。


「でもそいつらの悪行を俺が被るわけにもいかないからな。今回はこっそりゲーセン行ってみて、この手紙の主を確認して、静かに家に帰ることにするわ」


「え、結局は行くのかよ。恩田に見つかったらマジでめんどくせーぞ」


「見つかる前に逃げるって、ダッシュでさ」






 栄高校の生徒が行くゲーセンというのは大体、繁華街のゲームセンターのことだ。クレーン、メダル、アーケード。多くの実機を揃える店内はいつもにぎやかで他校の生徒やデート中のカップルなどがワイワイと集まっている。


 時刻は四時半、あと三十分すれば手紙に記された時間となるのだが。今のところ知り合いもいないし、同じ制服のヤツも見当たらない。みんなちゃんと恩田の言いつけを守っているようだ、偉いなぁ。


 手持ち無沙汰だったから空いていたメダルゲームに手を出しながら時間をつぶすことにした。本当なら当初の目的はここで遊び呆けて、リク先生に怒られる理由を作りたかっただけなんだけど、今日はそれもできないし。手紙の主を確認したら退散するとしよう。


 手持ちのメダルが増えては減り、また増えては減りを繰り返す。

 時間は刻々と過ぎ、気づけば五時の一分前。店内の客の様子は――栄の生徒は見当たらないし、あいかわらず知り合いもいなさそうだ。


 そして五時となり、メダルの手を止めて再び店内に目を向ける。行き交う人々の顔を眺めてみるが誰も目が合う人はいなくて、声をかけてくる人もいない。


 ただのイタズラだったか。ふざけたヤツが手紙を入れただけなのかもしれない。なんだ、もっと面白いことが起こるかもって思ったのに。


 時刻が五時から十分過ぎた時のことだった。

 ボーッとしていたユウジは、すぐ隣に誰かが来ていることに気づかなかった。


 気づいたら横にいた人が、自分の腕を力強く引っ張っていた。驚いて引っ張り返してみるが、よほど力の強い人なのか腕はビクともせず。なすすべなく、どこかへと連れて行かれる。


 なんだよ、と声を出そうと思ったが、とっさのことで声が引っ込んでしまっていた。とりあえず前を歩き、腕を引っ張る人の後ろ姿を見る。

 知らない格好だ。つば付きの帽子をかぶっていて緑色のマウンテンパーカー。下は七分丈のベージュ色のカジュアルパンツ。


 なんだ、このいかにもゲーセンで遊んでいました的な軽い格好のヤツは。わりと小柄なくせに力が異常に強い。


 誰だ、こいつ。

 こいつが手紙で呼び出したヤツなのか。

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