錆を纏ったお客様

それは少し変わったお客様でした。


ほっそりと平べったい頭には包帯が巻かれ、ところどころ茶色いシミがいくつもありました。

ロングコートはボロボロで、彼が長いこと旅をしてきたのを物語っています。

荷物は小さなトランクがひとつ。

靴だけは他のものよりキレイで、もしかしたら何度も手入れをしたのかもしれません。


「いらっしゃいませ」

いつものように店主があいさつをします。

「‥‥少しの間休んでいってもいいだろうか」

「ええどうぞ」

「‥‥すまない」


お客様はカウンターのすみの席にゆっくりと腰掛けました。

ほんのりと、錆の匂いがします。頭の包帯のシミは、どうやら錆汚れのようです。


しばらくの間、静かな時間が流れていきました。

いくつかの異型頭が来店し、また去っていきました。


夕日が窓を叩く頃、包帯を巻いたお客様は、ようやく立ち上がりました。

店主に礼を言い、出口へと向かおうとします。その背中に、ガスランプ頭の紳士が声をかけました。


「もしよろしければ、コートを交換しませんか」

包帯の彼はジッと、ガスランプに施された曲線の飾りを見つめました。

「‥‥コートを?」

「ええ、まだ長いこと旅をなさるのでしょう」

包帯の彼は少し迷ったあと、コートを交換しました。紳士にお礼を言うと、今度こそお店を去りました。





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