第5話 いじめられっ子
「一人称ってキモくない?」
この一言で僕の人生は大きく変わった。
最初は「あっち行け」とか「話しかけてくるな」とか言ってきた。
それがだんだんエスカレートしていって、僕が話しかけてもみんな無視してきた。
それをまとめるリーダー的存在の河野アリサ。
僕はこいつが憎かった。
憎くて、憎くてたまらなかった。
4年生までは普通に生きていけたのに・・・どうして。
僕にはどうして”僕”がダメなのか理解できなかった。
また違う日には机がなくなっていた。
僕はこの人生に嫌気がさして、学校に行きたくない以前に
死にたいと思った。
学校や親にも相談できなかった。
それは僕がズル休みをした時。
家まで押しかけてきた。
さらにひどくなるんじゃないか
このことしか頭にない。
親にも迷惑を掛けたくない。
だから、相談できなかった。
学校の帰りに家に帰るのが嫌になって、道端で泣いていた時があった。
でも、そんな僕に手を差し伸べてくれた人がいた。
それが瞬君だ。
「一緒に遊ぼうぜ」
なぜか瞬君は遊ぼうと言ってきたのだ。
普通は「どうしたの?」とか「大丈夫?」などの声を掛けるのが普通だと思う。
なのに瞬君は「遊ぼう」と、誘ってきた。
「ごめん」
僕は謝った。
「どうして遊びに誘ってくれたの?」
僕は気になって仕方ない。
この理由を聞くまでは気がおさまらない。
「だって、遊びたいって顔してたじゃん」
僕はさらに涙が流れた。
普通の人からすれば、遊ぶ約束なんて普通のことかもしれないけど、僕には特別に感じた。
最初、一歩が大きく見えた。
みんなはたった1歩かもしれないけど、僕からしたらそれが10歩、100歩、1000歩と大きく感じた。
けど、今、この瞬間、僕が大きく見えていた1歩の距離を感じなかった。
普通の人になれた気がする。
僕は遊びを断った。
流石に学校終わりに遊んで帰ってきたら怒られる気がした。
「ごめん、僕の家厳しいからまた誘ってよ」
あ、今、”僕”って言っちゃった。
「わかった。なら、次の土曜、1時からここで待ってる。雨の日でも、台風が来ても、俺は待ち続ける。来なかったらまた来週、再来週って待ち続ける」
あれ?今、僕って言ったのにキモがられなかった。
僕のこの経験はまたしても人生を大きく変えることになった。
また会いたいそんな風に思った。
時は流れ、快晴の土曜日 12時半ごろ。
「ちょっと出かけてくる」
「行ってらしゃい」
僕は行く前に自分の最大のおしゃれをした。
僕は彼を見つけた。
「お~い!」
振り返ると、人違いだった。
約束の時間から10分が過ぎようとしている。
来ない。
瞬は来なかった。
あれだけカッコつけといて・・・
約束の時間から30分が過ぎた。
まだ、彼の姿はない。
やっぱり、キモがられてたんだ。
僕はそう思うほかない。
裏切られた。
いや、裏切られたんじゃない。
裏切られる前に自分が思い上がってただけなのかもしれない。
なんだか楽しみにして、おしゃれしてきた自分が馬鹿らしく思えてきた。
でも、僕は待った。
途中、雨が降ってきた。
でも待ち続けた。
涙を流しながらも、歯を食いしばって待ち続けた。
足音だ。
また涙がこぼれる。
「顔、上げろよ」
顔を上げた・・・
「バカ!」
僕は雨が降っている中で響くような声で言った。
「言うこと・・・あるでしょ?」
「ごめん」
「違う」
「え?」
「待った?でしょ」
「ごめん」
僕はこいつのごめんが信じられない。
「瞬君のごめんは軽すぎるよ」
相手に聞こえるか聞こえないかぐらいの声で言った。
「俺の家にご飯食べに来る?」
「いいの?」
「うん、待たせちゃったからね」
「うんん、今来たとこ」
夢があっても恋はしたい~天才小説家までの道筋~ おくら @okuranosato
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