第2話

 食堂で朝食を食べ終えた俺と沙羅は、教室に向かって歩いている。何を使って作られているのか分からない料理を食べるのは、少しばかりの勇気がいった。


 だが、見た目は普通の料理だったし、夢なのだからと思い食べると、やはり美味しく感じた。まあ、沙羅が中々食べようとしない俺を急かしたのもあったが……。


「……なあ、なんか見られてないか?」


 俺は歩きながら、沙羅にそう問いかける。先程からチラチラと、すれ違う人に見られている気がするのだ。


「いつもの事でしょ。無視して行くわよ」


 沙羅にそう言われたので、俺はその視線を気にしながらも黙って足を進める。すると、沙羅がある教室の中に入っていったので、俺も沙羅に続いていく。


 だが、俺は教室に入った瞬間、その場で立ち止まってしまった。教室の人間から一斉に視線を向けられたこともあったが、それよりももっと深刻な問題が出たのだ。


「せ、席は、どこだ……?」


 そう。自分の席が分からなかったのだ。この教室の席はいつも俺が通っている学校の席とは異なり、長机に椅子が二つあるようなタイプだった。


 そんな俺の呟きを聞いていた沙羅は首を傾げた。それから、前の方の席を指差して俺に話しかけてくる。


「今日は遅かったから、もう後ろの方の席は埋まっているわよ。前の方に行くしかないわ」


「そ、そうか。そうだよな」


 沙羅の言葉に取り合えず頷いた俺は、沙羅に続いて前の方に行く。すると、沙羅が一番前の席に座ったので、俺もその隣に腰かけた。


 俺が座ってからも、周りからの視線は消えることがない。特に男子からは、悪意のこもった視線で見られていた。


 これは嫉妬、だろうな。夢の中でも嫉妬されるのかよ。まあ、嫉妬されるのは慣れているし、そこまで気にしなくてもいいだろう。


 視線を気にしないことにした俺は、教室をぐるりと見渡してみる。この教室の窓からは青い空が見え、後ろには大きな本棚があった。


「おはようございます。皆さん。席についてください」


 俺が興味深く教室を見渡していると、教室に誰かが入ってきた。このタイミングとセリフからして、恐らく教師だろう。


 俺が前に向き直ると、そこにはよく知っている顔があった。俺が学校に行く日には必ず見ている顔だ。


時計ときえ、先生……?」


 入ってきた教師の顔は、俺のクラスの担任で部活の顧問でもある、時計ときえ芽衣めい先生そのものだった。俺は思わず、席を立ちあがってそう呟いてしまう。


「え?だ、誰のこと……?」


「ど、どうしたのミドル君?急に立ち上がって……」


「え、あ……。す、すいません……」


 俺は先生に謝ってから、もう一度席に着く。ミドル君とは誰の事か一瞬分からなかったが、立ち上がったのは俺だけだったので俺の事だろうと判断した。


「ちょ、ちょっとリヒト……。本当に大丈夫なの……?」


「あ、ああ……。ごめん。寝不足が効いてるみたいだ……」


 沙羅が小声で俺にそう聞いてきたので、俺は寝不足ということで無理やり誤魔化した。まあ夢だし、何とかなるだろう。


 しかしまさか、先生まで出てくるとは……。もし起きてこの夢を覚えてたら、学校で顔を合わせづらいな……。


「……で、では、授業に入ろうと思います」


 少し沈黙の間を挟んだ後、先生は教壇で喋り始めた。この数秒間の沈黙は間違いなく俺のせいなので、本当に申し訳なく思う。……思うと同時に、恥ずい。


「今日の一限の授業は、歴史ね。さあ、始めましょうか」


 先生はそう言うと、杖を取り出して本棚にその先を向ける。すると、本棚に入っていた一つの本が独りでに出てきて、そのまま浮遊した。


 浮遊した本はそのまま先生の元まで行き、先生の手に収まった。俺はそんな光景を見て、目を輝かせる。


 それはまさに、魔法の世界ならではの光景だったからだ。流石は俺の夢だと褒めてやりたい。


 そしてこれから、歴史の授業が始まる。例え歴史の授業であろうとも、魔法の話は間違いなく出てくるはずだ。


 そんな期待に胸を躍らせながら、俺は真剣に授業を聞く為に姿勢を正した。この授業の内容を覚えて、夢の外に持ち帰ろう。そしてこの設定を使って、小説かなにかを書いてやる。

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