一章 月と海 第九話 クラブ


克己らしい人に何も出来なかったのが辛くて落ち込んでいた所へ、普段活動しているサークルの仲間からのパーティーへの誘いが届く。


全然行く気持ちになれなかったんだけど……友人たちのプッシュに押されて渋々参加表明した私。

わたしって、押しに弱いのかな?

たぶんだけど……「この範囲なら少し我慢すれば何とかなる」「友達が元気になるのなら」と、自分自身の気持ちを置き去りにしてしまっているのかも?


「でも……あの人には彼女さんいるんだし、いいよね……?」

渚は自分自身にそう言って聞かせて、強がることにした。そうでないと心が折れそう。孤独感のあまり、色んなものに押しつぶされそう。それなら……色んな人を観て、話すれば少しでも発散出来るのかな??


「……今は……克己の事は置いておこうかな」



ーー  ∞ ーー ∞ ーー


友人のパーティー当日。

対面式のテーブルを囲んで、いつものメンバーと気兼ねなくやり取りしたり、おしゃべりしたりして気持ち的にも発散して行けている気がした。


「ねぇ?あの人素敵じゃない?」

「渚さん今付き合ってる人居ないんでしょう?いってみたら?」

と当の本人を差し置いて会話だけが盛り上がっていく。

周囲の人たちを眺めていて、私は気持ちが晴れる気がしなかった。




だって私の寂しさ


心の闇


ずっとずっと深く、真っ暗な空間の奥底にあるんだ……


それに気付ける人なんている訳がない。


居たとしてもきっと、私から立ち去っていく。


だから私は……人を好きになる事はあっても、理解はされないだろう……


いいんだ。私は。


私はずっと独りなのだから。


私のこの気持ち。遥かに広大で真っ暗な宇宙の中を彷徨っている。


そんなの誰にも見つけられない。


だから相手に求めちゃダメなんだ。


片思いで十分。


それなら相手にも迷惑はかからないよ……ね?




……

渚は色んな人に話しかけられるも一人うわの空で、周囲の人たちの声が届いていなかった。


「渚さん!僕と一緒に飲みませんか?」

「……」

「渚さん!」

「えっ!?」

思いもよらない所に声をかけられた渚は、幾度呼びかけられてきょどる。

声をかけてきた相手をよく見ると、克己に似ている気がする。

それなら少しでも克己の事を感じられるのかな?ダメ元とはいうし、話くらい聞いてみようかな?


「渚さん!この後の二次会、近くのクラブに行くのだそうで。一緒に踊りませんか?」

「えっ……?」

急に一緒に踊ろうって申し出られて。自分自身でもなんだかよくわからない状況に。少しでも克己を感じられるのならと。ちょっとだけ踊ってみようかな?と感じてしまった私。

「渚さん。そろそろ移動するみたいだし、僕たちも行きましょうか?」

「……はい……。よろしくお願いします」


克己に似ている人だと感じてしまって、流れに流された渚は「いいえ」とも言えず承諾してしまう。

パーティーのメンバーで二次会のクラブに移動した。

最初の落ち着いた雰囲気と違って、様々な大量の音楽がリズミカルに流れたり色んな会話音が聞こえてきたりと喧騒に包まれている。


「これがクラブ……」

渚は場の雰囲気に飲み込まれて、不安感に包まれる。


(私、場違いじゃないのかしら?)

呆然としている渚の様子を察した目前の男が声をかけていく。


「渚さん。一緒に踊りましょう!」

「……」

渚は暫く動けずにいる。

この様子を見つめる人が急に目前の男と渚の間に割り込んできて、話しかけてくる。


「おいおい、坊主。女ってのはこう口説くんだぜ?彼女借りるよ!」

「ちょっと!この人は僕が踊ろうと!」

「坊主は引っ込んでな! へーい!どうか俺と一緒に熱い踊りを!落ち込んでいないで、君の笑顔を見せてくれないか??」

急に割り込んできた男は渚の手を取り、真っ直ぐに話しかけてきた。


割り込んできた男はどうやらラテンの血が入っていそうな外国人。多少の日本語が出来る様子で、言っている事は理解出来た。

渚は押しのけられた男の方を見つめる。


(たすけて……ちょっとイヤ……)

渚は声にすればいいのに何も言えず、アイコンタクトを送るだけだった。

結局の所は渚の想いは届かず、そのまま外国人と踊る事になってしまった。


(うわ!すっごく密着してくる!嫌だ!……でも……何故かドキドキする……やばい……私ってこんな子だったの??)


「I love you!」 

など……色んな言葉をささやかれたりと。渚はその熱の入った情熱を受けて、ドキドキ感が高まっている。でも、心はこの場に無かった。

ダンスを終えた渚の元に、心配そうに男がやって来たのだが。渚は心非ずで、どうでもよくなっていった。


「渚さん!今から一緒に踊りましょう!」

「……ごめんなさい!私帰ります」


渚は割り込んできた男から守ってくれなかった事、勢いに負けて譲ってしまった事など引っかかって既に気持ちが消え去っていった。

もし外国人の割り込みを本気で防ごうとしていたら、私の気持ちは揺れていたかもしれない。

渚はパーティーの事とかどうでも良くなった。


「やっぱり……克己に逢いたいよ……」























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