一章 月と海 第六話 運命の視線
そこに立っているのは克己と
しかしその空気は穏やかではなく、怒気と喧騒に満ちている。
麻美は厳しい家を出たくて、克己の元へ家出している状態だった。
この時点、麻美には家出娘で警察の捜索届けが出ていた。
克己が見つけるより先に、麻美の親が麻美を確保。続いて警察も協力して麻美を確保。
「やめてっ!触らないでっ!」
取り押さえられた麻美が警察を振り払うかのように叫んでいる。
もう間に入れないと感じた克己は踏みとどまり、麻美の親に見えないよう位置取っていく。
警察による騒ぎが起きている最中、渚はコンビニで無糖アイスティーを買ってきた渚は改札口を出ようとする。
何だか今日の駅の雰囲気がいつもと違う気がする。誰かが警察に囲まれるみたい。
視線の向こうで騒ぎ立てている女性を見て、何だろうか?と少し視線をやるも……関係の無い話なので違う所に視線をやる。
そこには克己が立っている。
「えっ!?」
渚は思わず口を押える、そうでもしないと泣きそうだった。
この人……私は絶対知っている!!この人ってもしかして?
「か……克己?」
思わず叫んでしまう渚。
その声が克己には聞こえていないのか、克己は警察に取り押さえられている女性の方を凝視している。
(どうしてその人の方を向いているんだろう??)
(でも……何だろう?)
渚は違和感を感じ取る。
「この人が克己と美和なの?」
「でも克己は感じるけど……あの女の人は違う気がする……」
渚は……先ほど初めて克己を見た時に感じた「直感」を信じたい。あれは克己で間違いないと思う!
渚はもう一度、克己に視線を合わせていく。
すると、克己も渚の視線に気づいたのか渚を見つめる。
二人の視線が交差した瞬間。
互いの瞳の奥に宇宙が見えてきた。
「なんて……キレイな瞳。でも……凄く寂しそう」
「この人は……?俺をまっすぐ見つめるこの人は……?もしかして……?」
二人の視線が合ったのは、実際ほんの数秒。でも、二人の間では数分に感じられるほどゆっくりとした時間を感じていた。
だが二人の間に会話は無く、それぞれの思考が飛び交う。
(もしかして……この人が克己……?)
(もしかして……この人が渚……?)
最初から二人の思考がハモるのだが、互いその事に気付かずにいる。
(この人が克己なの??でも、この感じ。よく覚えている……)
(ほんとにこの人が……?でも、あの感じは間違いなく……あの時に感じたもの)
(でもなんか複雑そうな事情。何があったんだろう)
(しかし……今日は……なんていうタイミング。どうしたらいいんだ……)
ここから渚の克己の立場の違いからくる、ズレが発生してくる。
互い一言も発しない状況を最初に打開したのは、渚だった。
渚は迷うことなく克己の手を取り、警察に囲まれている状況から逃れるようにと反対側を進もうとする。
ふいに手を掴まれて我に返った克己は、渚の行動に驚きつつ。本来の目的である麻美の方を向く。
そこでは麻美も克己に気が付いたのか、手を伸ばして訴えかけている。
「た……助けて!克己!」
その麻美が克己を呼ぶ声に反応した渚は思わず脚を止めて、力を抜いてしまう。
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