一章 月と海 第五話 通過列車

ガッタンガタンガタン……


ガタン……ガタガタガタ……

橋に差し掛かった急行電車の走行音がひと際高くなる。

橋に差し掛かった事でひらけた景色を車窓越しに眺める、青年克己は灰色広がっている灰空に視線をやる。

この時の克己は美和と別れて数年。

これから現在付き合っている彼女に出会うために、電車に揺られている。


「渚……。あの日から数年経ったけど、脳内に響く声が頭から離れない。渚って誰なんだろう……」

「俺には付き合っている人が居るのに、何故こうも渚の声が頭に浮かぶんだ?」

「でも俺には彼女がいる……この晴れない気持ち、どうしたらいいんだ?」

克己は晴れない胸の内の気持ちを映すかのように、灰色に染まった空よりさらに遠くを見つめていく。




ーー  ∞ ーー ∞ ーー


ジリリリリ


小ぢんまりとした駅で、出発の為に電車のドアが閉まる事を知らせる警笛が鳴り響く。

どうにか乗車に間に合った渚は電車内のドアを背に、目を閉じて呼吸を整えていく。


「どうにか、乗車の時間に間に合ったけれど。でも克己……」


「……美和……じゃないのか?」


「俺の名前は……克己」

克己の名前を呼ぶ度に胸が苦しくなる。克己が呼んだ「美和」という人。誰なんだろう?


「克己……どんな人なんだろう?」

いくら心に問いかけても、答えは出てこない。渚は今日も「克己」と呼ばれる男を思い描きながら電車に揺られて、頭から離れない言葉を思い出していく。

やがて渚を載せた電車は、到着を知らせるアナウンスとともに目的の駅に到着する。


電車から降りた渚は、中央の大きな改札出口近くのコンビニへ向かう。

ちょっと喉が渇いたので、無糖アイスティーを手にレジ前に並んだ。


ーー  ∞ ーー ∞ ーー


やがて、渚の次の列車に搭乗する克己が目的の駅に到着する。

克己は切符を投入して、中央改札口をあとにする。


そこには克己と待ち合わせていた彼女の姿があった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る