過去 (前編)
高校時代の桧山優はとにかく活発的だった。
部活はバスケ部に所属し、持ち前の運動神経で毎年全国大会へ出場。優勝はなかったものの、かなり強豪校だった。
勉学の方も上の下。科目別ではたまにトップテンに入る実力の持ち主。それなりの進学校で好成績を残し続け、受験期にはいち早く推薦で有名私立大に行ける切符を手に入れた。
クラスのカーストも決して悪くなかった。文化祭や体育祭などの学校行事は率先的に参加。学級委員長としてクラスを率いたこともしばしば。どんなことでも本気で打ち込む好青年。親からすれば、自慢の息子だっただろう。
当然、可愛くて美人な彼女もいた。名前は雪峰星羅(ゆきみねせら)。俺と同級生。一見、ぶっきらぼうで冷酷そうに見える彼女。でも、実はとても温厚で優しい女の子。根が真面目で学業も部活も常にトップクラス。加えて、料理も上手い。まさに高嶺の花だ。
「おはよう、星羅ちゃん」
「——おは、よ」
登下校はいつも一緒。緊張で表情が強張る姿はなんとも愛らしい。庇護欲がそそる。凛々しい見た目に反して、気弱な性格。ギャップ萌えだ。
デートも頻繫にした。お互い行きたい場所に寄り、全力で楽しんだ。ちなみに彼女は無類の洋画好きらしく、2日に1回は映画館に訪れた。おかげで万年金欠だった。
「——いつもゴメンね」
「何が?」
「私って面白くないでしょ?」
彼女の唯一の欠点は少し卑屈なところ。時折、ネガティ思考が発動するのが厄介。その度に、彼女を褒め称えて勇気づける。
彼女を好きになったキッカケは単純に一目惚れだ。高校一年生。体育の時間に行われた100メートル走にて。長い黒髪を風に靡かせて走る姿に魅了された。走り終えたあと。男勝りの精悍な顔つきで、汗を拭う姿はまさに圧巻だった。
勿論、告白したのは俺から。場所は定番の屋上。古典的に手紙で呼び出した。玉砕覚悟で告白したものの、案外と二つ返事でオーケー。なんと、告白したその日からお付き合いがスタートした。
「桧山君。アーン♡」
「ア、 アーン……」
昼休みは必ず一緒に食べる。お口あーんも公衆の面前で平然とする。校内では瞬く間にバカップルと認定された。
「——桧山君」
「なに?」
「今日で付き合い始めて3年目だね」
「あ、もう3年目か……」
倦怠期を迎えず、ラブラブのまま3年目に突入。俺たちの関係はカップルを超えて夫婦のよう。年齢さえクリアすれば、いつでも役所に婚姻届を提出できる体制だった。
「これからもずっと桧山君の隣でいたいな」
夜のクリスマスデート。星が明滅する夜空の下。年に一度しか見せない、弾ける笑顔でそう言ってくれた。俺は嬉しさのあまり、頬に涙が伝う。あれが俺にとって一番、幸せな瞬間だった。
「——桧山、桧山‼」
聖夜から、一週間後。幸せ過ぎて有頂天になっていた俺の元に“悲報”が届く。
「コイツ、お前と付き合ってる星羅ちゃんだよな——?」
友達がスマホの画面を見せてきた。そこには俺の彼女と隣のクラスのイケメン男子が嬉しそうに唇を合わせる一枚の写真が映っていた——。
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