第12章:黎明に勝利の咆哮を
【第1話】
「【展開】
「【展開】
ユーバシリーズ8号機、ユーバ・アハトが起動させた重機関砲が火を噴く。
その行動を予測していたのか、ユーバ・アインスが即座に純白の盾を構えてエルドの前に躍り出る。どんな攻撃をも受け止める絶対の防御が雨霰のように襲いかかる銃弾を防いだ。
純白の盾が展開されている間は傷つけられないと理解しているのか、ユーバ・アハトはそこで重機関砲の兵装を解除する。次に何かが飛んでくるかと思えば、その子供はやれやれと言わんばかりに肩を竦めただけだった。
「【遺憾】やっぱり防御力が高いユーバシリーズ初号機には敵わないや」
「【展開】
ユーバ・アインスは純白の盾を解除すると、巨大な砲塔を室内にて展開する。
夜の闇に浮かび上がる白い砲塔。人間さえすっぽりと飲み込めそうなほど大きい砲口をユーバ・アハトに突きつけると、迷わず引き金を引いた。
闇を引き裂くように虚空を駆け抜ける光線はユーバ・アハトを狙うのだが、ユーバ・アハトが右手を薙ぐと白い光線の軌道が歪む。ユーバ・アハトを避けた光線の行方は空中回廊の天井をぶち抜き、夜空へと消えていった。
「【疑問】いきなり何するの?」
「【回答】貴殿はこの場で撃破する必要がある」
超電磁砲の兵装を構えたユーバ・アインスは、
「【回答】ユーバシリーズ初号機として、貴殿の存在は認めない」
「【遺憾】酷いな、当機はユーバシリーズとしてリーヴェ帝国に開発されたのに。【疑問】お兄ちゃんは当機のことを弟機として認めてくれないんだ?」
「【肯定】もちろんだ」
ユーバ・アインスの受け答えは淡々としていた。その淡々とした受け答えこそ、彼自身の意思があった。
見た目にそぐわず、ユーバ・アハトは初号機であるユーバ・アインスに「ユーバシリーズとして認めない」と発言されても落ち着いていた。むしろその言葉を事実として捉えている節がある。
ユーバシリーズと最強のレガリアと名高いシリーズ名を冠するのだから、ユーバ・アインスと同じ開発者によって戦場に送り込まれた訳ではないのか。そもそもユーバシリーズ開発者はすでにユーバ・アインスが屠った。それよりあとに開発されたのか?
「【疑問】当機もユーバシリーズなのに?」
「【回答】父は貴殿のような機体を作らない」
「【疑問】その自信はどこから生まれてくるの? 何を根拠にそんなことを言うの?」
「【回答】当機は常に父の側で控えていた。リーヴェ帝国の防衛任務に当たっている時も、レガリア研究に励む父の背中を見ていた。当機の記憶回路にも父の研究内容は保管されている」
超電磁砲をなおもユーバ・アハトに突きつけるユーバ・アインスは、
「【補足】そこに貴殿の研究データはない。ユーバシリーズ全機の戦闘データを学習させた上で兵装を改悪するなど、父のような開発者は取らない手法だ」
「…………【納得】なるほどね、言うじゃないか」
ユーバ・アハトは「【肯定】そうだよ、当機はユーバシリーズじゃないよ」と言う。つい先程まではユーバシリーズであることを主張していたが、その考えはあっさり手放された。
「【回答】当機はユーバシリーズの最終型番としてリーヴェ帝国全体によって開発されたんだ。アンタの父親は、7号機までしかユーバシリーズを開発しないって言っていたからね」
「そんなことあり得るのかよ」
今まで話を聞いていたエルドは、思わず口を挟んでしまった。
ユーバシリーズはユーバ・アインスから7号機であるユーバ・ズィーベンまでを開発した『父親』の存在が重要だ。今でも最強と語り継がれるユーバシリーズを生み出した天才的なレガリア開発者の技術は誰でも真似をしたくなる。
でも、だからってそんな簡単に真似できるものなのか。ユーバシリーズ全機の戦闘データを取り込んで、兵装の情報も叩き込んで、それで果たしてユーバシリーズと言えるのか。そんなものは紛い物ではないか。
ユーバ・アハトは面倒臭そうな視線をエルドに向けると、
「【不服】すぐに死んじゃう人間は邪魔しないでもらえる?」
「【回答】エルドを狙うのは許さない」
ユーバ・アインスは再び超電磁砲を放つ。
網膜を焼かんばかりの眩い閃光がユーバ・アハトを狙うが、彼に閃光が触れる直前で空間が歪むとあらぬ方向に閃光が飛んでいく。今度は空中回廊の壁を突き抜けていき、近くにあった背の高い建物の一部分を吹き飛ばした。
天井と壁に開けられた2つの穴から吹き付ける風が冷たく、エルドのくすんだ金色の髪を容赦なく乱す。それまで静かだった空中回廊に外の世界の喧騒が落ちる。
「【要求】エルド、先に行ってくれ」
「…………撃破できるんだろうな」
「【肯定】当然だ。当機はその為にこの場にいる」
ユーバ・アインスは即答で応じる。
彼はその為にリーヴェ帝国まで戻ってきた。理不尽に機能停止へ追い込まれた2号機、ユーバ・ツヴァイの敵討ちである。紛い物に負けないというユーバシリーズ初号機としての矜持もいくらか持ち合わせるのだろう。
相棒として、その意思を尊重しない訳にはいかない。
「すぐに追いつけよ、じゃなきゃ俺が死ぬぞ」
「【了解】その命令を受諾する」
超電磁砲の兵装を解除して純白の盾に持ち替えると同時に、ユーバ・アインスは駆け出す。
真っ直ぐに伸びた空中回廊を突き進み、純白の盾をユーバ・アハトめがけて振り上げる。ユーバ・アハトは黒色の瞳を瞬かせて振り下ろされる純白の盾を余裕の動きで回避した。表情も笑みから崩れていない。まるで兄と遊ぶ弟のようだ。
狭い空中回廊で激戦を繰り広げるユーバ・アインスとユーバ・アハトの横を、エルドは急いで通り過ぎる。ユーバ・アインスがユーバ・アハトの注意を逸らしているうちに通過しなければ、すぐにこちらの存在に気づいてしまう。
ユーバ・アハトの視線が真横を通過するエルドを捉えた。注意が逸れたようだ。
「ッ、【制止】その向こうに行くな!!」
ユーバ・アハトは重機関砲を展開するが、
「【展開】
純白の盾を構えたユーバ・アインスが、エルドを守るように立ち塞がる。
どんな攻撃さえ防ぐと銘打たれた純白の盾に、重機関砲の銃弾が強襲する。ズガガガガガガガガガカガガガ!! という純白の盾を破らん勢いで銃弾が叩きつけられるも、ユーバ・アインスはよろけもしなかった。
背後で感じられる衝撃に、エルドは振り向かなかった。振り向けば、ユーバ・アインスがこの場に残ってユーバ・アハトの相手をする意味を無駄にするような気がした。
右腕の戦闘用外装で拳を作り、エルドは目の前を塞ぐ鋼鉄の扉を渾身の力で殴りつける。
「ゥオラ!!」
扉は呆気なく破られる。
破られた扉の穴から腕を突っ込み、無理やり穴を広げてエルドはついに制御塔に足を踏み入れた。
☆
「【絶叫】邪魔だ!!」
「【疑問】先程までの余裕はどうした?」
相棒のエルドを制御塔に送り出したユーバ・アインスは純白の盾を構える。
彼も強い、だから制御装置まで辿り着けるはずだ。方向音痴という懸念事項はあるものの、制御装置までの道のりは単純だから辿り着けると予想する。
まず優先すべき事項は、目の前のユーバシリーズの名前を冠する紛い物を撃破することだ。こんな醜悪極まる紛い物が、ユーバ・アインスと同列に見られると困る。
ユーバ・アインスは静かに瞳を閉じると、
――通常兵装、起動準備完了。
――非戦闘用兵装を休眠状態に移行。戦闘終了まで、この兵装を使うことは出来ません。
――残存魔力88.96%です。適宜、空気中の魔素を取り込み回復いたします。
――彼〈リーヴェ帝国所属、自立型魔導兵器レガリア『ユーバシリーズ』8号機〉我〈自立型魔導兵器レガリア『ユーバシリーズ』初号機〉戦闘予測を開始します。
――戦闘準備完了。
さあ、この戦争に終焉を。
「【状況開始】戦闘を開始する」
ユーバ・アインスは純白の盾を構え、任務の開始を告げる。
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