【第9話】
少し時間を置いてから、
――ポーン。
到着を知らせる音が、狭い個室内に響き渡った。
昇降機の扉がゆっくりと開いていく。鋼鉄の扉の向こう側に警備型レガリアの存在があるかと警戒してエルドは右拳を握るのだが、扉の向こうには誰もいなかった。自立型魔導兵器『レガリア』の研究者すら皆無だった。
あるのは真っ白い廊下だけである。煌々と明かりを落とす照明が真っ白い床と反射して眩く照らしている。この場に立っているだけで目が眩みそうだ。
ユーバ・アインスが昇降機から上半身だけ出して、周囲を確認する。
「【回答】問題ない」
「おう、じゃあ行くぞ」
「【了解】その命令を受諾する」
ユーバ・アインスは念の為に純白の盾を構えたまま、真っ白な床に足を踏み出す。エルドも彼に続いて無機質な床を踏みつけた。
最上階に足を踏み入れた途端、どこからか銃火器が伸びてきて蜂の巣にされるのではないかと警戒したものだ。リーヴェ帝国はどこから武器を出現させるか分かったものではない。
ここはもう敵陣の真ん中なのだから、油断していては身体のどこかに穴が開く。それだけは回避したいところだ。
「お」
エルドは思わず声を上げる。
白い廊下を超えた先に、目的の場所を発見した。
空中回廊である。制御塔に向かって伸びるそれは、奥側の明かりが消えていた。営業を終了しているからだろうか。
周辺に敵兵の姿は存在しない。制御塔に潜入できる絶好の機会である。
「よし、あそこから」
「【要求】待て、エルド」
「あ? 何だよ、アインス」
空中回廊から制御塔に侵入するだけなのに、どうして引き止めてくるのか。
疑問に満ちた瞳をユーバ・アインスに投げかければ、彼は空中回廊の奥に蟠る闇を睨みつけていた。人形のような無表情が常識であるユーバ・アインスの表情がどこか険しさを感じさせる。
ユーバ・アインスは空中回廊の闇を見据え、
「【展開】
「え」
それはユーバ・アインスが有する光学迷彩を強制的に解除する兵装だ。
パリンと硝子が割れるような音が空中回廊の奥から聞こえてくる。
なるほど、誰もいないかと思ったら光学迷彩を使って姿を隠していたのか。完全に気配が遮断されていたので、高度な光学迷彩を利用していたのだろう。
コツンと足音が響く。
「【驚愕】驚いたなぁ、まさか当機の光学迷彩を見破るなんて」
「【回答】敵性反応は確認できていた。姿が見えないのは光学迷彩を使っているからだ、という情報は状況ですぐに判断できた」
「【遺憾】やっぱり侮れないね、オリジナルのユーバシリーズは」
コツコツと響き渡る足音。
蟠る闇の中から姿を見せたのは、金持ちの息子と言ってもいいほど身なりの整った子供である。仕立てのよさそうな衣類に身を包み、艶やかな黒髪を揺らす。エルドとユーバ・アインスを真っ直ぐに見据える瞳の色は、空を切り取ったかのように色鮮やかな青色だ。
幼さを残すあどけない顔立ちをしているものの、纏う雰囲気は歴戦の戦士のようだ。手には何も持っていないが、その小さな身体にはユーバシリーズの戦闘データを搭載したことによって凶悪な力が宿っている。
「【歓迎】ようこそ、初号機。ここがアンタの墓場だよ」
まるで客人を出迎えるように子供――ユーバシリーズ8号機、ユーバ・アハトは引き裂くように笑って見せた。
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