【第3話】
「【狂乱】ちょ、おまッ、ゔえええッ!? 正気でござるかお前ッ!? おまッ、お前ええッ!?」
頭を抱える量産型レガリアから、流暢な言葉が次々と飛び出してくる。
驚きを通り越して、もはや錯乱状態だ。頭を抱え、手足をバタバタとさせ、何度も何度もエルドを指差して「お前ッ!?」と叫んでくる。あの量産型レガリアは本当に大丈夫なのだろうか。
右腕に嵌めた戦闘用外装を構えるエルドを片手で制したユーバ・アインスは、
「【展開】
「あ」
白い砲塔を一瞬にして展開すると、問答無用で量産型レガリアを撃ち殺した。
閃光に飲まれて消し炭にされる量産型レガリア。地面に転がった鉄屑は溶け出しており、内部構造が剥き出しとなっていた。手も足も溶けてしまっているのでまともに動かすことが出来ず、また発声機関も溶解してしまっている影響で「ぴー、ががが」という異音しか聞こえてこなかった。
あの反応は間違いなく外部から動かしている何某の存在があるのだろうが、ユーバ・アインスは情け容赦なく屠った。相手はおそらくユーバ・アインスの弟機で間違いない。
「アインス?」
「…………」
銀灰色の双眸で溶け出した量産型レガリアを見下ろすユーバ・アインスは、エルドの呼びかけに応じることなく周囲に視線を巡らせて言う。
「【警告】存在するのは分かっている。出てこなければ貴殿を撃破する」
「【挑発】おお、怖い怖い。我が兄ながら容赦がないですな」
足並みを揃えて更新してくる量産型レガリアが、エルドとユーバ・アインスを取り囲んで停止する。頭部でチカチカと瞬く赤い光がじっと見据えており、不気味な印象が先に来る。
数多く存在する量産型レガリアの1機が前に進み出てくると、戯けた調子で手足を動かす。「【嘆息】兄者は意外と短気ですからなぁ」などと宣い、ユーバ・アインスの表情が険しいものとなる。ユーバ・フュンフと相対した時のような表情だ。
流暢な言葉を発する量産型レガリアは、エルドを指差して叫んだ。
「【絶叫】貴様、他人の兄者に何をしでかしてくれちゃったりしてやがるんでござるか!? 【挑発】本当に馬鹿なの阿呆なの死ぬの? ここ戦場よ、そんな乳繰り合ってる場合じゃないでござるよ脳味噌大丈夫そ?」
「ふんッ」
「【驚愕】殴ってきたよこの人ぉ!?」
エルドはベラベラと喧しい量産型レガリアをぶん殴って破壊した。右腕で殴られたことで量産型レガリアの頭部が胴体から千切れ飛び、遠くの方へ飛んでいった。残された胴体はゆっくりと膝をつき、もう動かなくなってしまう。
撃破できたかと思えば、また流暢な言葉を話す量産型レガリアが出現して「【批判】何するでござるか、脳筋はこれだから!!」と叫び出す。やはり『侵食』の能力を使って量産型レガリアを操り、破壊された端から動かす量産型レガリアの対象を変えているのか。
量産型レガリアはやれやれと肩を竦め、
「【批判】まともに会話すら出来ない猿だとは思わんですわ。こんなのが
「【注意】そうやって煽るから殴られるのだろう。会話をしたければまともに話せと何度言えば分かる。【警告】次に会えば貴殿を撃破する」
「【疑問】おやおやぁ? 兄者も猿の気配に当てられておかしくなりましたんで?」
ユーバ・アインスを挑発するような口振りの量産型レガリアは、
「【補足】ユーバ・フュンフにユーバ・ゼクス、ユーバ・ズィーベンまで撃破していってるじゃないでござるかぁ。【疑問】次は
「…………」
ユーバ・アインスは押し黙る。
彼自身の開発者から請け負った秘匿任務は、リーヴェ帝国を撃滅することだ。付随してリーヴェ帝国の手に堕ちた弟妹機のユーバシリーズも撃破することも秘匿任務に設定されている。
7号機のユーバ・ズィーベン、そして5号機のユーバ・フュンフと6号機ユーバ・ゼクスはすでに撃破された。順当に行けば次に撃破することになるのは4号機のユーバ・フィーアである。
目の前の量産型レガリア――ひいては真っ黒いお人形を操る4号機の弟は自分の運命を理解していたのだ。
「【回答】まあ、簡単に撃破されるような真似はしないつもりでござるがぁ」
変な口調で喋る量産型レガリアは、ユーバ・アインスに向けて手を差し出した。
「【勧誘】ねえ、兄者。また戻ってきません? 指揮官もさぁ、そこまで悪い人じゃないから。兄者が
「【拒否】断る」
ユーバ・アインスは量産型レガリアの差し出す手を払い除け、白い砲塔をその頭部に突きつけた。
「【否定】当機はリーヴェ帝国に戻らない。戻るつもりは毛頭ない。このまま敵として立ちはだかる貴殿を、残りのユーバシリーズを撃破してリーヴェ帝国を打ち負かす」
「【嘆息】はあああー、兄者は本当に愚かになってしまった。兄者ではなく愚者ですな、愚者」
量産型レガリアは腕に括り付けた巨大な重機関砲を、兄弟のやり取りを聞いていたエルドに向けた。
ユーバ・アインスの銀灰色の双眸が僅かに見開かれる。急に標的として狙われることになったエルドは即座に思考回路を切り替えて、右腕の戦闘用外装を構えた。まさか急に相手が動くとは思わなかった。
量産型レガリアは「【警告】最後通達ですぞ、愚かな兄者」と言い、
「【要求】リーヴェ帝国に戻るでござるよ。【警告】戻らないとなおも主張するなら、そこの猿から嬲り殺しにする所存でござる」
「【疑問】ユーバ・フィーア、当機に勝てると思っているのか?」
「【回答】いやいや兄者、この数ですぞ。さすがに勝利には無理があると思うでござるがぁ?」
エルドとユーバ・アインスを取り囲む量産型レガリアの数は、もう数えることが億劫になるほど存在している。全員揃って腕に括り付けられた重機関砲や超電磁砲の装備を突きつけているので、一斉掃射でもされたらエルドの命は確実に潰える。ユーバ・アインスが盾でも召喚しない限りは生き残る術などない。
両手の指では間に合わないほど存在する量産型レガリアを前に、さしものユーバ・アインスも対応は不可能だろう。取り囲まれた状態から量産型レガリアを撃破して命が助かる戦術などあるのか。
ユーバ・アインスは「【肯定】確かにそうだ」と頷き、
「【回答】だが、当機はあらゆる戦場で運用できるように設計されている。特定の状況下で真価を発揮する貴殿とは明確な違いがある」
「【憤懣】はあああ? 兄者のくせに生意気ではござらんかあああ?」
「【疑問】試してみるか?」
ユーバ・アインスは白い砲塔を消し去ると、
「【展開】
エルドとユーバ・アインスを覆い隠すように白い天幕が展開される。同時に兵装を展開したということは、この白い天幕に1発でも弾丸がぶち当たればそのままそっくり跳ね返されることを示していた。
兵装の中身を理解しているのか、己が兵装を突きつけてくる量産型レガリアの集団もおいそれと手を出すことが出来ずにいた。手を出せば確実に破壊される。量産型レガリアを操る4号機――ユーバ・フィーアからすれば、歓迎したくない状況だ。
量産型レガリアは一斉に武器を下ろすと、
「【遺憾】きょ、今日のところは勘弁してやるでござるよ!!」
「【展開】【並行】
「【悲鳴】ぎゃーッ!! 撤退中のレガリアに攻撃は反則でござるよ兄者の馬鹿ッ!!」
撤退を開始し始めた量産型レガリアの集団に爆撃を仕掛けたユーバ・アインスは、本当に情け容赦がなかった。隣でエルドは密かに戦慄を覚えた。
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