【第2話】
「ゥオラ!!」
裂帛の気合と共に突き出した拳で、量産型レガリアをぶん殴る。
真っ黒な機体がひしゃげ、凹み、簡単に吹き飛ばされて破壊される。頭部で輝いていた2つの赤い光はチカチカと明滅してから何も言わずに消え去る。
動かなくなった量産型レガリアの骸を蹴飛ばしたエルドは、ぐるりと周囲を見渡す。
「まだ結構いるな……」
「【警告】エルド、油断するな」
「ッとお!?」
背後から量産型レガリアに突進されそうになり、エルドは振り向き様に右腕の戦闘用外装を振り回す。
規格外な改造を施された右腕に量産型レガリアの頭部が衝突し、ぶちりと量産型レガリアの頭部が胴体から千切れ飛んでいく。真っ黒なボールみたいにポンと遠くに飛ばされていき、首を失った胴体はゆっくりと膝から崩れ落ちた。
ガシャン、と地面に全身を叩きつけて耳障りな音が奏でられる。動かなくなったところを確認する為に踏みつけてみるが、やはり動き出すことはなかった。
純白の盾で量産型レガリアをぶっ叩くユーバ・アインスは、
「【警告】油断は禁物だ、エルド」
「分かってるっての」
右腕の戦闘用外装をガシャンと鳴らし、ユーバ・アインスの警告を素直に受け入れるエルド。
それにしても数が多すぎる。
ハルフゥンは小さな町であるにも関わらず、量産型レガリアが大量に犇めいている。建物の数に見合わないほど配置された量産型レガリアに、エルドは何か思惑があるのではないかと考えざるを得なかった。
特に、ユーバ・アインスが言うにはこれらの量産型レガリアを統括しているのが、ユーバシリーズ4号機であるユーバ・フィーアかもしれないということなのだ。天下最強のユーバシリーズが起因しているのであれば、何があってもおかしくない。
「アインス、ユーバ・フィーアの反応はねえのか?」
「【否定】今は感知できない」
殴りかかってきた量産型レガリアの攻撃を盾で受け流すユーバ・アインスは、
「【補足】ユーバ・フィーアは自ら戦う術を持たない機体だ。彼が得意としているのは『侵食』と呼ばれている」
「洗脳みたいなものか?」
「【肯定】改造人間の基準で回答するならば、確かにそのような言葉が当てはまる」
エルドも戦場で4号機のユーバ・フィーアの話はいくつか聞き覚えがある。だが、その姿を見ることは誰もなかった。
自ら戦う術を持たないのであれば納得だ。量産型レガリアなど他の機体を洗脳して自分の配下にし、それを操って戦う様はまるで王様のようである。何とも恐ろしい機体だ。
――いいや、待てよ。
「おい、その理屈だとテメェが1番危ないんじゃねえのか?」
「【疑問】何がだ?」
「ユーバ・フィーアってのがレガリアを洗脳する能力を持ってるってことは、テメェが乗っ取られたら勝ち目ねえぞ」
他のレガリアを洗脳して自分の配下に加えるユーバ・フィーアなら、敵に寝返ったユーバ・アインスを洗脳することだって吝かではない。むしろその戦術を取られたら傭兵団『黎明の咆哮』は一瞬で壊滅する。
ユーバ・アインスはユーバシリーズの中でも指折りの戦闘技術と多数の兵装を有し、あらゆる戦場に対応することが出来る万能型のレガリアだ。リーヴェ帝国側からすれば意地でも手放したくなかった機体だろうし、ユーバ・フィーアも自分の兄の性能を理解した上で洗脳に取り掛かるだろう。本気で挑まれたら終わる。
ユーバ・アインスは首を傾げると、
「【回答】当機の防衛機構は万全だ。ユーバ・フィーアとて突破できることはない」
「本当かよ、それで洗脳されたら俺は絶対に死ぬぞ」
「【回答】エルドを死なせることはない」
「意識を失ったら終わりだろうがよ」
もし洗脳されようものならエルドも終わる。「エルドを死なせない」と宣言するユーバ・アインスに殺される危険性も出てきた。
とりあえずユーバ・アインスはユーバ・フィーアに検知されない場所に避難させるべきだろうか。エルドは改造人間なので洗脳されるようなことはあり得ないが、ユーバ・アインスは自立型魔導兵器『レガリア』なので十分にあり得る話である。
団長のレジーナに指示を仰いだ方がいいかと考えた矢先のことだ。
「【感知】む」
「あ?」
殴りかかってきた量産型レガリアの攻撃を防ぐ為に純白の盾を突き出したユーバ・アインスだが、その寸前で彼の手から純白の盾が消失したのだ。
自らの意思で兵装を解除したという訳ではなく、何らかの不具合が起きた模様である。その証拠に、ユーバ・アインスの銀灰色の双眸が見開かれている。
盾という最大の壁を失って硬直するユーバ・アインスに、隙が出来たと言わんばかりに嬉々として襲いかかってくる量産型レガリア。押し寄せてくる真っ黒なお人形どもが、一斉にユーバ・アインスの破壊を目論む。
「アシュラ!!」
エルドが叫ぶと、右腕の戦闘用外装に青色の光が駆け巡る。岩をも粉砕する怪力が発揮され、押し寄せてくる量産型レガリアの群れをまとめて薙ぎ払った。
散り散りにぶっ飛ばされる量産型レガリア。特に先頭を切って歩いていた機体は全身がぐしゃぐしゃにひしゃげてしまい、鉄の塊となって地面を転がることとなった。
ユーバ・アインスへ振り返ったエルドは、
「何してんだ、アインス!!」
「【疑問】不明だ。突然、兵装が解除され……?」
「アインス?」
ユーバ・アインスは自分の額を押さえると、
「【警告】何かが当機の精神回路に侵入。悪質なプログラムの除去を開始する」
「は?」
ユーバ・アインスから聞き覚えのない単語が次々と飛び出したかと思えば、彼は額を押さえたまま苦悶の表情を浮かべる。何かが彼の内部に侵入し、乗っ取ろうと画策しているのだ。
やはりユーバ・フィーアが襲撃してきた。自分の兄であっても配下に加えようと『侵入』の能力を使用しているのだ。その除去作業が難航しているのか、ユーバ・アインスは額を押さえたまま動くことはない。
このまま作業が難航すれば量産型レガリアに襲撃されて仲良く戦死、作業が失敗すればユーバ・アインスに殺されてエルドや傭兵団『黎明の咆哮』の壊滅が待ち受けている。
「アインス、しっかりしろ!! テメェ、4号機の兄貴だろうが!!」
「【回答】現在、悪質なプログラムの除去作業中だ。【報告】ねちっこくて仕方がない」
ユーバ・アインスは苦しげな表情で、
「【提案】ユーバ・フィーアは確実に当機やエルドのことを認識している。何か相手を驚かせるような手段があれば、ユーバ・フィーアの侵入を食い止められる」
「驚かせる?」
唐突な要求に、エルドは困惑する。
咄嗟に思いついた『ユーバ・フィーアを驚かせる方法』はあるにはあるのだが、それをすればエルドは憤死する可能性が高まってしまう。自分で穴でも掘って埋まりたくなる衝動に駆られることは間違いない。
だが、ここで殺されるよりは断然マシな戦術だ。恥など一瞬の出来事である。自分の命と傭兵団『黎明の咆哮』の命運がかかっているのに、なりふり構っていられるか。
エルドはユーバ・アインスの肩を掴むと、
「アインス」
「【疑問】エルド、どうし」
全ての疑問を紡ぐより先に、エルドはユーバ・アインスの口を自分の唇で塞いだ。
唇の感覚は少し冷たくて、思った以上に柔らかい。触れるだけの口づけを交わして解放してやれば、ユーバ・アインスは瞳を見開いたまま固まっていた。
やはりこれでは驚かせる手段にならないだろうか。襲いかかってくる羞恥心を捩じ伏せるエルドは、正直なところこれ以上の作戦が思いつかない。現場主義なのであまり頭はよろしくないのだ。
「【報告】除去の成功」
「え」
ユーバ・アインスからそんな報告を受けると同時に、
「【絶叫】他人の兄者に何ちゅーことをしていやがるでござるか、この脳味噌筋肉馬鹿野郎がああああああああああああああッ!?!!」
量産型レガリアの1機がエルドを指差して絶叫していた。
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