【第9話】
「【展開】
――【了解】戦術の更新頻度を1秒に設定。高速戦闘を開始します。
ユーバ・アインスの視界に、ユーバ・ズィーベンを狙う為の
雨霰の如く弾丸がユーバ・ズィーベンに襲いかかる。
ユーバ・アインスの展開する兵装『
ユーバ・ズィーベンはユーバ・アインスの撃ち込む重機関砲の弾丸から逃げ回り、
「【宣告】そこです」
隙を突いて、肉薄。
鈍色のナイフが突き込まれ、ユーバ・アインスは攻撃を中断。ナイフの先端を重機関砲の砲身で弾き飛ばし、飛び込んできたユーバ・ズィーベンから距離を取る。
しかしユーバ・ズィーベンも諦めない。距離を取ろうとするユーバ・アインスの懐に構わず潜り込んでくると、鈍色のナイフを連続で突き出してきた。
閃く鈍色のナイフ。脇腹を抉るような軌道で差し込まれた鋭利な切っ先を重機関砲で受け止め、少女の手から弾き飛ばす。
「【展開】
ユーバ・ズィーベンの姿が空中に溶けていく。
再び高い迷彩技能を用いて、ユーバ・アインスの目の前から逃げたのだ。もう逃がすと思っているのだろうか。
更新された戦術に基づき、ユーバ・アインスは再び『
「【発見】そこか。【展開】
「ッ!!」
ユーバ・ズィーベンの足元が爆発し、周辺の量産型レガリアも大勢巻き込んで吹き飛ばされる。
放物線を描いて地面に転がったユーバ・ズィーベンの身体は、右足が千切れ飛んで左足があらぬ方向に折れ曲がっていた。人工筋肉を突き出して人工骨子が剥き出しとなり、バチバチと紫電が飛び散っている。
感情の読めない7色に輝く瞳をユーバ・アインスに向けた彼女は、自動回復機構によってボロボロになった両足を即座に治療して立ち上がる。コートに付着した砂塵を手で払い落として、
「【納得】2号機のお兄様まで真似したのですね」
「【回答】使える戦術は何だって使う」
そもそも、初号機であるユーバ・アインスに与えられた能力は、全ての戦場に対応できる『
真似事しか出来ずとも、本物以上に戦える。それがユーバ・アインスの強みだ。
純白の重機関砲をユーバ・ズィーベンに突きつけたユーバ・アインスは、
「【推奨】早期の投降を、ユーバ・ズィーベン。【補足】そうすれば機能停止に追い込むような真似はしない」
「【拒否】お断りします、お兄様」
新たな鈍色のナイフをコートの下から抜き取ったユーバ・ズィーベンは、
「【回答】当機はお父様のいたリーヴェ帝国を守ります。リーヴェ帝国を勝利に導きます。そのように命令を受けています」
「【嘆息】やはり相容れないか」
重機関砲の兵装を解除したユーバ・アインスは、そっと嘆息を漏らす。
話し合っても分からないことはあるのだ。どう足掻いても弟妹機はリーヴェ帝国のやり方へ従うように命令されており、その命令を取り除くのは言葉だけでは足りない。破壊する他に残された道は存在しない。
ここがレガリアと人間の大きな違いである。レガリアは自立型魔導兵器として設計され、搭載された人工知能には所属するリーヴェ帝国に叛逆できるような開発をされていない。ユーバ・ズィーベンもそうなのだ。
悲しいかな、やはり彼女をこの場で破壊に追い込まなければならないのか。
「【推奨】【再】投降しなさい」
「【回答】しません」
「【結論】ならば撃破するまでだ」
ユーバ・アインスは「【展開】
強く地面を踏み込み、瞬時にユーバ・ズィーベンへ肉薄。瞳を見開いて驚きを露わにする彼女の顔面を鷲掴みにし、力の限り放り投げる。
抵抗する間もなく放り投げられたユーバ・ズィーベン。空中で体勢を変える彼女に狙いを定めたユーバ・アインスは素早く重機関砲を展開し、引き金を引いた。
連続した銃声が聴覚機能を刺激し、ユーバ・ズィーベンへ大量の弾丸が襲いかかる。腕が吹き飛び、腹部に風穴が開き、右足の膝から下が千切れる。暗殺任務や潜入任務に特化した彼女では、ユーバ・アインスの放つ重機関砲を防ぐ手立てはない。
地面へ叩きつけられたユーバ・ズィーベンの身体は、無惨なことになっていた。大量の弾丸によって開けられた風穴から緑色の魔力が流出し、紫電が弾けてしまっている。
だが、まだ余力があるのか、自動回復機構によって彼女の身体に開けられた無数の穴は塞がってしまう。ユーバ・ズィーベンの恨みがましそうな視線が寄越された。
「【憤怒】酷いです、お兄様」
「【回答】酷くはない。敵となった以上、妥当と判断できる戦闘行為だ」
ユーバ・ズィーベンの顔面を蹴飛ばし、ユーバ・アインスは彼女を地面に縫い止める。額に重機関砲を突きつけ、冷たい光を帯びた銀灰色の双眸で見据える。
「【質問】何か遺言はあるか」
「【回答】まだ負けていません」
「【納得】そうか」
ズドン、と重機関砲をユーバ・ズィーベンの額に撃ち込んだ。
頭部に搭載された人工知能を的確に破壊する。彼女の頭が抉り取られ、内側の重要な回路まで剥き出しの状態となってしまった。
それまでは即座に適用されていたはずの自動回復機構だが、今回の攻撃を受けた傷痕は回復されなかった。未だに深い傷跡となって、その場に残り続けている。
「【説明】貴殿の残存魔力最低ラインを超えたか。だから自動回復機構が発動されなかった」
「…………」
ユーバ・ズィーベンは何も言わず、口を噤む。
残存魔力最低ラインとは、どんなレガリアにも搭載された機能である。行動をするだけでも魔力を消費するレガリアには、最低限の魔力を保有しなければ行動できなくなってしまうのだ。残存魔力最低ラインとは、普段の行動に必要な魔力の保証量である。
そのラインを超えてしまうと、レガリアは魔力切れとなって動けなくなってしまう。外部から魔力を注入されるまで目覚めることはなくなり、自動回復機構も適用されなくなってしまうのだ。
もうすぐ機能停止状態となるだろう。7号機の少女とも、ここでお別れだ。
「【疑問】遺言はあるか?」
「【否定】ありません。【遺憾】悔しいですが、負けを認めましょう」
「【回答】そうか」
ユーバ・アインスが重機関砲の引き金を引く間際のこと、ほんの一瞬だけユーバ・ズィーベンが小さな声で告げた。
「【謝罪】ごめんなさい、お兄様」
――――ズドン。
重機関砲の銃声が、曇天に響き渡る。
ユーバ・アインスはユーバ・ズィーベンの頭部を的確に撃ち抜き、ようやく機能停止に追い込んだ。自動回復機構は適用されず、頭部だけが目を背けたくなるほど酷い被害を負ったものと成り果てる。
静かに重機関砲の兵装を解除したユーバ・アインスは、
「【報告】ユーバ・ズィーベンの機能停止を確認。【状況終了】」
ふと、ユーバ・アインスは自分自身の頬に触れる。
濡れた感覚がある。指先を見れば、透明な液体が頰を伝い落ちていた。
この液体の理由は何なのだろうか。何故このような液体が流れ落ちるのだろうか。どれほど理由や原因を探しても、人工知能がエラーを吐いて仕方がない。
「【回答】気にするようなことではないか。【要求】エルドの状況は?」
――【回答】量産型レガリアの対処に当たっています。【提案】傭兵団『黎明の咆哮』に撤退の勧告を。
「【了解】その提案を受諾する」
ユーバ・アインスはユーバ・ズィーベンの亡骸を抱き上げると、元来た道を戻り始めた。
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