【第8話】
「【遺憾】残念ですが、やはりお兄様には敵いません」
ユーバ・ズィーベンはユーバ・アインスからおもむろに距離を取ると、
「【提案】ここは退却いたします」
撤退を宣言したユーバ・ズィーベンの姿が再び揺らぐ。
兵装『
どうやって逃げるのかと思えば、
「【挨拶】それではお兄様、さようなら」
ユーバ・ズィーベンが立っていた場所には、見覚えのない量産型レガリアがいた。
つるりとした頭部、チカチカと明滅する眼球代わりの赤い光。全身を真っ黒な色合いで統一し、人間のような姿形は保っているものの生きている気配は全く感じられない。パッと見ただけで作り物であると分かる、一般的な量産型レガリアだ。
機体の調子を確かめるようにぐるりと首を回す量産型レガリアは、エルドとユーバ・アインスに背を向けて逃亡し始めた。敵兵を発見すると迷わず攻撃する本来の量産型レガリアとは思えない撤退行動だ。
「あ、コラ待て逃げんな!!」
改造された右腕を鳴らすエルドは、量産型レガリアに擬態して逃げるユーバ・ズィーベンを追いかけようとする。
しかし、行手を阻むように戦車型の量産型レガリアがエルドの眼前に滑り込んできた。巨大な砲塔を素早くエルドに向けると、彼を吹き飛ばそうと迷わず砲撃を開始する。
ユーバ・アインスは純白の盾を出現させ、エルドと量産型レガリアの間に割り込む。襲いかかってきた砲弾を純白の盾で防ぎつつ、兵装を展開させる。
「【展開】
ゴィン、と純白の盾に砲弾がぶち当たる。純白の盾を通じて強い衝撃がユーバ・アインスの全身を駆け抜け、搭載された人工知能が「【警告】強い衝撃を感知しました」と脳内に告げる。
純白の盾に当たった砲弾は、逆再生されるかのようにそのまま跳ね返された。エルドに向けられていた砲塔に弾丸が吸い込まれていき、量産型レガリアを内側から爆発させる。
黒煙を噴き上げて機能停止に追い込まれた量産型レガリアを見上げ、ユーバ・アインスは索敵機能を密かに発動する。やはり擬態能力が高いだけあって、ユーバ・アインスの索敵機能ではユーバ・ズィーベンを追うことが出来ない。
「チッ、次から次へと来やがる!!」
エルドは舌打ちをし、蜘蛛のような形をした量産型レガリアを上からぶん殴って叩き潰す。6本の足を持つ気持ち悪い形をしたレガリアをよくもまあリーヴェ帝国は開発したものだ。
改造された右拳でぶん殴られたことにより、蜘蛛のような形の量産型レガリアの胸元に風穴が開く。バチバチと紫電が弾け、部品が零れ落ち、体内を流れていた魔力が漏洩し始めて、無惨な最後を迎えた。エルドの右拳は極めて強い力を発揮し、量産型レガリアなど1発で仕留めてしまう。
取り囲んでくる量産型レガリアを片っ端から殴って破壊していくエルドは、
「アインス、行け!!」
「【逡巡】しかし、エルドは」
「何年レガリアを相手にしてると思ってんだ、こんなところでくたばるタマだと思うなよ!!」
人型をした量産型レガリアの首をもぎ取りながら、エルドはユーバ・アインスの背中を押す。
「いいから行け!! やるって決めたんだろうが!!」
「【感謝】ありがとう、エルド」
ユーバ・アインスはすでに機能停止へ追い込まれた戦車の形をした量産型レガリアに飛び乗ると、車体から突き出たレガリアの部分を引き千切る。腰から下が車体と一体化していたので、グッタリと倒れ込む量産型レガリアを乱暴に放り捨てた。
注目したのは戦車の部分である。剥き出しとなった回路に右手を突っ込み、ユーバ・アインスは兵装を発動させた。
ただ足で追いかけただけでは、ユーバ・ズィーベンに追いつけるはずもない。だからこうして乗っ取るのだ。
「【展開】
ユーバ・アインスの右手から、ドロリとした白色の液体が流れ落ちる。
右手から垂れ落ちた液体が量産型レガリアの残された戦車部分に浸透していき、それからガタガタと盛大に揺れる。本来あるべき人工知能と動作回路などが、外部から侵食していくユーバ・アインスの魔力に抗っているのだ。
しかし、その抵抗も束の間のことだ。すぐに戦車部分は大人しくなると、ユーバ・アインスに主導権を明け渡してくる。頭の中で「【報告】子機の登録が完了しました」と声が流れる。
「【要求】量産型レガリアに残されたユーバ・ズィーベンの信号を探知、追跡の開始を」
――【了解】量産型レガリアに登録されております識別信号を確認。位置情報の設定を更新、本体に共有します。
ユーバ・アインスの視界の端で、赤い光点がチカチカと明滅する。自分のいる現在の位置から遠ざかっているので、ユーバ・ズィーベンで間違いはなさそうだ。
戦車部分に命令を下せば、ボコボコと荒れ果てた地面を滑るように移動を開始する。ユーバ・ズィーベンとの距離は開いたままだが、相手も油断しているのか徐々に速度が落ちてきていた。
量産型レガリアが犇めく戦場を見据え、ユーバ・アインスは末妹の7号機を追いかける。
☆
戦場からだいぶ離れた場所に、それは立っていた。
1機の量産型レガリアである。仲間である他の量産型レガリアからは最初から認識されていないように無視され、たった1機だけ逆方向に淡々と歩き続けている。
戦場を犇めく多種多様な量産型レガリアの中で、その1機だけは異様な雰囲気を漂わせていた。普通に相対すれば無事では済まないような、それでいて背後を見せた瞬間に首を狙われそうな歴戦の暗殺者めいた空気だ。
「【呼号】ユーバ・ズィーベン」
戦車の形をした量産型レガリアに乗ったユーバ・アインスは、戦場へ向かう量産型レガリアに逆らうようにして歩く異様な量産型レガリアを呼び止める。
「【呼応】やはりお兄様は追いかけてきますか」
量産型レガリアの姿が揺らぐ。
擬態という仮面が剥がれ落ち、残されたのは黒い雨合羽のようなコートを身につけた少女型レガリア――ユーバ・ズィーベンである。
ユーバ・アインスへと振り返った彼女は「【疑問】どうやって追いかけてきたのですか?」と問いかけてくる。
「【回答】量産型レガリアに登録された貴殿の識別信号を読み取った。量産型レガリアを乗っ取る兵装なら、当機も持ち合わせている」
「【納得】なるほど、4号機のお兄様のようなことをなさるのですね」
「【回答】ユーバ・フィーアの方が、当機の兵装よりも精度は高い」
4号機の能力は味方の回路を乗っ取り、侵食し、自分の手駒にすることが出来る厄介なものだ。滅多なことでは表舞台に姿を見せることのない珍しいレガリアだが、たった1機でレガリアの軍隊を率いることが出来る優秀な指揮官であると記憶している。
その4号機の弟が持つ能力を参考にして今回の兵装を組み上げたが、ユーバ・アインスの兵装では1機を操ることで精一杯である。4号機のような真似事は誰にも出来ない。
戦車から飛び降りたユーバ・アインスは、改めて末妹である7号機の少女と向き合う。
「【疑問】お兄様、何故ズィーベンの敵として立ち塞がるのですか?」
「【回答】秘匿任務に基づき、当機は行動している」
ユーバ・アインスは兵装を展開し、右腕を重機関砲に変形させた。
「【補足】開発者である父は、リーヴェ帝国のやり方を快く思わなかった。故に当機は開発者である父の命令に従い、リーヴェ帝国を壊滅させる。並びに敵として立ちはだかる貴殿らユーバシリーズもまた、全て撃破する」
「【回答】そうですか、お兄様が言うのであれば仕方がありません」
ユーバ・ズィーベンは鈍色のナイフを逆手に握ると、
「【宣告】私もお兄様の敵として、お相手します。リーヴェ帝国を壊滅などさせません」
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