【第6話】
「ゥオラ!!」
量産型レガリアをぶん殴って遥か彼方に吹き飛ばし、修復不可能なほどの重大な損傷を負わせる。
「飛んでけェ!!」
近場にいたレガリアの腕を引っ掴み、そのまま仲間のレガリア方面へとぶん投げる。
「だああああああ!!」
起きあがろうとしていたレガリアの両足を掴み、雄叫びを上げながらズルズルと引き摺り回す。
数え切れないほどのレガリアが視界を埋め尽くし、エルドは大立ち回りを演じていた。
さすが激戦区と呼ぶべき戦場である。エルドが見た覚えのない最新型のレガリアが多数投入されているが、やはり量産型は量産型だ。エルドの膨らんだ右腕でぶん殴れば修復不可能な損傷を負って
しかし、量産型を舐めてはいけない。ただでさえガラクタがうじゃうじゃと迫ってきているのだ、これを1機ずつ壊していたらキリがない。
「まだ来んのかよ……」
エルドは戦場を
味方であるアルヴェル王国軍の兵士たちは、ちまちまと量産型レガリアを討伐するのに苦労しているようだ。こんな量産型レガリア程度で苦戦しているようでは、今後の戦場は生きていけない。特にシリーズ名が与えられたレガリアは軒並み強い傾向にあるので、まずは無傷で量産型レガリアを倒すところから始まる。
アルヴェル王国軍の兵士だって、きっと内地でヌクヌクと勤務していたところを戦場に投下された哀れな連中なのだろう。同情の念は全く湧かないが、せいぜい頑張ってほしいものだ。
量産型レガリアが撃ち込んできた銃弾を改造した右腕で防ぐエルドは、
「クッソ、どこに消えた……!?」
ユーバシリーズが7号機、ユーバ・ズィーベンが見つからない。
擬態が得意な機体だと聞き覚えがあるのだが、まさかここまで高い迷彩機能を持つとは誰が想定するだろうか。ユーバ・アインスもまた軽率に奇跡を起こすような機体なので、予想できると言えば予想できる。
見渡す限り、量産型レガリア量産型レガリア量産型レガリアである。人型をした量産型レガリアや戦車と一緒になった量産型レガリア、両腕に砲塔を括り付けた不恰好な量産型レガリアと様々だ。
この中からあの少女を見つけなければならないとなれば、かなり億劫な遊びである。そもそも擬態能力の高いレガリアに『かくれんぼ』など絶対に負ける勝負ではないか。
「ッ!?」
どごん、と音がした。
遠くの方で砲声が轟き、エルドへ砲弾が飛んでくる。
右腕の兵装で飛んできた砲弾を殴って弾き返し、再び放物線を描いて量産型レガリアが密集する地域に落ちる。重量のある鉄球は味方のレガリアたちを容赦なく吹き飛ばし、機能停止に陥らせた。
量産型レガリアのつるりとした頭部で輝く赤い光が、チカチカと明滅する。「【警告】危険、第1級災害に認定」「【提案】戦術の更新」など搭載された人工知能がフル稼働している様子である。
「冗談じゃねェ!!」
エルドは「アシュラ!!」と叫ぶ。
改造された右腕からぷしゅー、と蒸気が噴き出る。青い光が右腕全体を駆け巡り、人間には出せない
殴った相手はエルドよりも大きな量産型レガリアである。木の幹のように太い両腕を引き摺って歩き、エルドの右拳が寸胴の如き脇腹に突き刺さって吹き飛ばされた。胴体が凹み、量産型レガリアの頭部に瞬いていた赤い光がプツリと消え失せる。
本当に洒落にはならない。早くユーバ・ズィーベンを見つけなければ。
「【警告】第1級災害を補足。攻撃を開始」
「うおおッ!?」
エルドの目の前に少年が飛びかかってくる。
見た目は少年だが、その両腕は重機関砲に変形していた。ボサボサになった緑色の髪を硝煙に
全身が真っ黒で顔の形すら判別できない量産型レガリアとは違って、シリーズ名で管理される特殊なレガリアだろうか。こんなところで出てくるとは誤算だ。
「ちッ、邪魔してんじゃねえ!!」
「【否定】邪魔はしていない」
「うるせえな!!」
エルドは苛立ちに身を任せて少年の姿をしたレガリアをぶん殴る。
相手はエルドの右拳を重機関砲に変形させた左腕で受け止めるが、耐え切れずに肩から千切れ落ちる。バチバチと紫電が弾け、緑色の液体のようなものが無理やり千切れた配線から流れ落ちた。
少年型レガリアは落ちた自分の腕を一瞥することなく、右腕の重機関砲を突きつけてくる。攻撃を開始するより先にエルドは少年型レガリアを蹴飛ばして地面に縫い付け、右拳を握った。
「【依頼】あとは頼みました」
「は?」
ジャコン、と背後で音がする。
同じような姿形を持った少年型レガリアが2機、エルドに重機関砲を突きつけていた。すでに銃口には光が灯り、今にも銃撃が開始されそうだ。
まずい、このままではエルドは確実に死ぬ。握りしめた拳を少年型レガリア2機に突き出そうとするも、おそらく間に合わないだろう。よくて重傷、最悪の場合は戦死である。
「はあッ!!」
その時、裂帛の気合いと共に放たれた足刀が少年型レガリアの首をもぐ。
千切れ飛んでいく少年型レガリアの頭。魔力による自動回復機構はどうやら備えられていない珍しい機体のようで、頭部をなくした少年型レガリアは静かに膝を折ってその場に倒れ込む。
彼の背後に立っていたのは、黒髪パッツンの髪型が特徴的な美女だった。怜悧な印象を与える緑色の双眸でエルドを睨みつけると、低い声で唸る。
「私にここまでさせておいて、何も言わんつもりか? なあエルド」
「姉御……!? どうしてここに!?」
「馬鹿野郎、どうしたもこうしたもあるか!!」
もう1機の少年型レガリアを蹴飛ばして屠った傭兵団『黎明の咆哮』の団長、レジーナ・コレットは「馬鹿エルド!!」と罵倒してくる。
「お前が死んだら困ると言っただろう!! お前は我が団の稼ぎ頭だ、これからも戦場で稼いでもらわなければ困るのに命を捨てる真似をするとは何事だ!?」
「それはごめん!!」
「この戦場を切り抜けたら説明責任を果たせ!! 仲間たちにもな!!」
「え、まさか」
エルドは嫌な予感を察知して、周囲を見渡す。
量産型レガリアが急速に追いやられていく。顔の判別すら出来ない様々な形状をした玩具のような量産型レガリアが、改造人間たちの手によって次々と討伐されていった。
見覚えのある顔だと思えば、彼らは傭兵団『黎明の咆哮』の戦闘要員である。激戦区だというのに、命を懸けてまでこんな戦場にやってくるとは愚かな選択だ。
「エルド、お前にだけいい格好させるかよ!!」
「絶対にテメェより稼いでやるからな!!」
「姉御から臨時のボーナス支給するって言ってくれたからな」
「何それ聞いてねえんだけど!?」
臨時ボーナスという聞き覚えのない制度に、エルドは思わず団長のレジーナへ振り返ってしまった。
「お前は好き勝手に行動したからなしだ。当然だろう」
「横暴だ!!」
「喧しい、嫌なら勝手な行動は控えるんだな!!」
レジーナに手酷く振られてしまった。自分勝手な行動をしたエルドの自業自得である。
「エルド、我々だけではないぞ」
「は?」
「この戦場を最も求めていた人物がいたようだな?」
レジーナが意味ありげに笑った瞬間だ。
「【展開】
混沌を極める戦場を浄化するかのように、1条の光線が大量の量産型レガリアを焼き尽くした。
噴き上がる爆炎。曇天を吹き散らすかのような強風がエルドのくすんだ金髪を揺らす。炎の中で倒れていく量産型レガリアの群れを、上空から降ってきた白い人間がじっと見つめている。
吹き荒ぶ戦場の風に揺れる白髪、凄惨な戦場を無感情に見つめる
「【謝罪】遅れた。すまない、エルド」
最優にして最強と名高い純白のレガリア、ユーバ・アインスは言う。
「【宣告】当機はこれよりレノア要塞制圧戦の任務と並行し、秘匿任務を開始する。【状況開始】」
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