【第12話】
量産型レガリアの軍勢を前に、純白のレガリア――ユーバ・アインスが負った傷は左腕の消失ぐらいだろうか。意外と少ない傷で済んだ。
とはいえ、傷つけられたことは事実だ。
エルドは右腕に嵌め込んだ戦闘用外装をガシャコンと鳴らし、兵装を展開させる。馬鹿みたいに改造を施されて膨らんだ右腕に青い光が駆け巡り、殴っただけで量産型レガリアをまとめてぶっ飛ばせるほどの力が発揮される。
エルドの乱入に、相手の量産型レガリアは混乱している様子だった。彼らの狙いはあくまでユーバ・アインスに限定されており、それ以外の戦力に対応はしていないのか。
「【警告】貴殿が来る戦場ではない」
千切れた左腕をあっという間に回復させたユーバ・アインスは、
「【推奨】早期の退避。【補足】当機が貴殿の逃走完了まで奴らを引きつける」
「うるせえッ!!」
エルドは怒声を叩きつけていた。
こんなところで置いていけるか、置いて行ってたまるか。
確かにユーバ・アインスはリーヴェ帝国で作られた最強の自立型魔導兵器レガリアであり、事情は知らないが追われる身となっている。本当ならここで置いて行った方がいいことも分かっている。
だけど、エルドはこの場所に戻ってくる時に決めたのだ。
「テメェは!! もうウチの傭兵団で拾ったんだから、ウチのモンなんだよ!! 勝手に別れなんて告げてんじゃねえ!!」
拾ったモンはもう俺のモン主義のエルドである。落とした奴や捨てた奴が悪いのだ。
ユーバ・アインスはリーヴェ帝国のレガリアであり、本来であれば敵同士という状況だ。どういう運命か知らないが、あの廃教会で捨てられた状態で発見して直したのも傭兵団『黎明の咆哮』であり、起動したのはエルド本人である。なのでユーバ・アインスはもう傭兵団『黎明の咆哮』預かりの立派な傭兵だ。
仲間を守らない傭兵がどこにいる。一緒に戦場を駆け抜け、共に死線を潜り抜け、戦って金銭を稼ぐ仲間を助けない傭兵などいないのだ。少なくとも、エルドの周りには。
「【警告】傭兵団『黎明の咆哮』所属、エルド・マルティーニが乱入しました。【推奨】戦術を組み直し、改造人間及びレガリアに対応したせんばかぶぐな」
「喧しいんだよオラァ!!」
エルドの膨れ上がった右拳が、目の前に立っていた量産型レガリアの頭部を正確に撃ち抜いた。
首から千切れ飛んでいく、つるりと丸い頭部。明滅していた赤い光もプツリと途絶え、地面に転がって何も言わなくなった。
頭部をなくした胴体は、ゆっくりと膝をついてその場に横たわる。さすがにユーバシリーズのように空気中に散った
戦車の形をしていたり、異様に身長が高かったり、逆に小柄なのに腕だけが妙に膨れ上がっていたりと様々な形式がある連中だ。目の前にいる量産型レガリアは目で数えても100は超すだろう。
「上等じゃねえか、ウチの後輩が世話ンなったお礼をしてやるよ!!」
エルドは歯を剥き出しにして笑うと、撃破したばかりのレガリアの死体を掴んだ。だらりと垂れ落ちる腕を掴み、近くにいた見上げるほど大きなレガリアに首のなくなったレガリアの死体を叩きつける。
改造された怪力には耐えられず、振り回されたレガリアの死体は胴体から半分に真っ二つとなった。それだけではなく叩きつけられたレガリアの方にも凹みが出来て、深刻な衝撃が伝わったようだ。
チカチカと赤い光を明滅させて、大きな手のひらをエルドに向かって伸ばす。だがエルドはその手のひらへ真っ正面から右拳を叩きつけ、
「オラァ!!」
押し返す。
岩をもすり潰して砂にする怪力に耐えられず、巨大なレガリアの腕が千切れ飛んだ。夜空を舞うレガリアの腕。地面に叩きつけられて、青い魔力の燐光を垂れ流す。
チカチカと赤い光を明滅させて「【警告】」などと言うレガリアに、エルドは2発目を胴体に叩き込んでやった。
鋼鉄の腹を突き破るエルドの右拳。力なくクタリと四肢を垂れ落とす死んだレガリアを腕に通したまま、エルドは乱雑に右拳を薙いだ。
「オラオラオラオラとっとと退けェ!! 邪魔する奴は皆殺しにしてやらァ!!」
口汚く罵りながら、エルドは暴風雨のように量産型レガリアを相手に無双した。
子供に見紛うほど身長の低いレガリアには遠慮のない蹴りをお見舞いし、吹っ飛んだところで重機関砲の部分を踏み潰して砲身をひん曲げてやった。戦車の形をしたレガリアは、面倒なので突き出ていた頭の部分を戦車からもぎ取ってやる。それだけで動けなくなるのは滑稽だ。
背後から量産型レガリアが銃火器の兵装を展開してくる気配を察知して、右腕を盾にして防御する。飛んでくるのは魔力を弾丸のようにして放つ魔力弾の類だが、エルドの装甲には傷一つつかない。
「無駄だって言ってんだろうが、俺を倒したけりゃちゃんとしたレガリアを連れてこいやァ!!」
右拳を突き上げて量産型レガリアをまとめて打ち上げてやるエルドは、目の前で銃火器の兵装を展開する量産型レガリアめがけて拳を突き出した。
的確に頭部を撃ち抜いて、首と永遠に別れさせることに成功した。飛んでいった頭部は夜の闇に消え、崩れ落ちた胴体を他の量産型レガリアめがけて投げつける。これほど相手が多いとキリがない、体力も消耗してしまう。
すると、鋼の右拳を握りしめるエルドを、ユーバ・アインスが「【制止】待て」と告げる。
「邪魔してんじゃねえよ、テメェ」
「【提案】ここは当機に任せてほしい」
「ああ゛? テメェ、まだこの場に残って――!!」
「【否定】そうではない」
ユーバ・アインスは首を横に振ると、
「【要求】当機を力の限り殴ってほしい」
「あ?」
「【要求】当機を貴殿の右拳で、力の限り殴ってほしい」
純白の盾をどこからともなく出現させ、ユーバ・アインスは「【進言】さあ殴れ」と言ってくる。
訳が分からなかった。味方と宣言したエルドだが、その味方と認識したはずのユーバ・アインスからまさかの要求である。ちょっと状況が読めない。
唖然とした様子のエルドに、ユーバ・アインスは「【開示】当機の本来の性能を見せる」と言う。
「【質問】貴殿の持ち得る情報で、当機はどのような性能だと認識している?」
「え、えーと。受けた攻撃をそのままそっくり返す……?」
「【否定】当機には確かにそのような兵装も有しているが、それは当機自身の性能ではない」
純白の盾を構えるユーバ・アインスは、
「【説明】当機の性能を確かめるのであれば、実践が1番早い。【要求】当機を力の限り殴ってほしい」
エルドが「本気かよ」と呟くと、量産型レガリアが俄かに騒ぎ始めた。
どうやらエルドにユーバ・アインスを殴ってほしくないようだ。慌てた素振りでエルドとユーバ・アインスに銃火器の照準を合わせてくる。
なるほど、量産型レガリアがあれほど慌てるのならば致し方ない。エルドは右拳を掲げると、
「吹き飛ばされんじゃねェぞ!!」
ユーバ・アインスの掲げる純白の盾めがけて、渾身の1撃を放った。
鋼鉄を殴った感触が伝わってくるが、ユーバ・アインスは数歩ほど後ろに退がっただけに留まった。腕も折れていなければ足も折れていない。渾身の力で殴ったにも関わらず、ユーバ・アインスは頑丈だった。さすが最強のレガリアと言えようか。
純白の盾を消したユーバ・アインスは銀灰色の双眸を瞬かせ、
「【構築】先程の受けた攻撃を兵装に変換」
――【報告】拳の衝撃、速度、魔力等の計算完了。
――【構築完了】兵装『
ユーバ・アインスの中から平坦な声がいくつも聞こえてきたと思えば、バチバチと音を立てて純白の巨大な拳が彼の前に作られる。
純白の盾と同じ原理なのだろうか。夜の闇を明るく照らすその拳は、エルドの右拳によく似ている気がした。
ゆっくりと引かれていく純白の拳。合わせるようにユーバ・アインス自身も右の拳を引いていく。
「【説明】当機の性能は、受けた攻撃を兵装として構築・再現する『
銀灰色の双眸で量産型レガリアを睨みつけるユーバ・アインスは、
「【感謝】協力に感謝する、エルド。【宣告】貴殿の拳、使わせてもらう」
そう言って、ユーバ・アインスは右の拳を突き出した。
虚空を穿つ彼の拳の動きに合わせて、巨大な白い鉄拳が量産型レガリアをまとめて吹き飛ばしてしまう。ただ殴っただけなのに、量産型レガリアはひしゃげて飛んでいき、そしてまとめて動かなくなってしまった。
あっという間にガラクタの山と化した量産型レガリアの大群を前に、エルドはポツリと呟く。
「凄え」
月並みな感想しか出てこなかった。
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