【第11話】
――【報告】聴覚機能で足音を察知しました。数、2588です。
廃墟と化したユーノの中心に仁王立ちをするユーバ・アインスは、自分自身の中で響いた平坦な声に反応する。
索敵機能が感知した敵兵の数と一致する。どうやら相手は、隠すつもりなど毛頭ないらしい。
リーヴェ帝国の目的は、あくまでユーバ・アインスのみだ。傭兵団『黎明の咆哮』には何の関係もなく、ユーバ・アインスが抱える事情に巻き込む訳にはいかない。名残惜しいが、ここで別れた方が賢明だ。
おかしなものだ、最強のレガリアたるユーバ・アインスが別れを名残惜しいと感じるのは。自立型魔導兵器に感情など必要ない。
「【発見】ユーバシリーズ初号機、アインス」
ユーバ・アインスの視覚機能いっぱいに、黒い人形の群れが押し寄せてきた。
人間と同じ背丈のものから見上げるほど巨大な自立型魔導兵器、さらには戦車の形をしたものに首が括り付けられた奇妙な形の魔導兵器まで多岐に渡る。数は2588と言っていたが、ユーバ・アインスを1機倒すだけなのにここまでの戦力を投入するリーヴェ帝国側に感服する。
おそらく、それほど投入しなければ自分を倒すことなど出来ないのだろう。愚かな帝国だ。
「【警告】当機と戦う場合、貴殿らの倒壊が確定する。【推奨】早期の退避行動」
「【却下】退避は推奨されていない。我々の任務は貴殿の撃破にあります」
「【納得】なるほど」
どうあっても元同胞たちと戦わなければならないようだ。
ユーバ・アインスはそっと嘆息を漏らすと、戦闘開始の準備を始める。
彼我戦力差は歴然だ。彼らがまとめて押し寄せてきても、ユーバ・アインスは無傷で勝利することが出来る。所詮は量産型である、どれほど戦力を投入しようが変わらない。
両足を肩幅まで広げると、ユーバ・アインスは全身に巡らされた擬似魔力回路に空中から取り込んだ魔素を流し込んで魔力に変換する。自分自身の中で平坦な声が飛び交い、兵装に関する点検を実施する。
――通常兵装、起動準備完了。
――非戦闘用兵装を休眠状態に移行完了。戦闘終了まで、この兵装を使うことは出来ません。
――残存魔力99.87%です。適宜、空気中の魔素を取り込み回復いたします。
――
――戦闘準備完了。
視覚機能が切り替わる。
暗闇でもハッキリと相手を認識することが出来る暗視機能が展開され、意外と多い敵兵に囲まれているとユーバ・アインスは理解した。廃墟と化したユーノを取り囲む量産型レガリアのつるりとした頭部に、チカチカと赤い光が妖しく瞬く。
右手を虚空に伸ばしたユーバ・アインスは、静かに通常戦闘用の兵装を展開した。
「【展開】
次の瞬間、量産型レガリア側から一斉射撃が飛んできた。
☆
兵装『
ユーバ・アインスが展開する純白の盾である。それは敵のどんな攻撃をも防ぎ、砲弾や魔法攻撃すら無力化する絶対の防御を示す盾だ。量産型レガリアによる魔力弾の雨嵐など、純白な盾を破る手段にはならない。
ユーバ・アインスは雨嵐の如く襲いかかる魔力弾を純白の盾で弾きながら、次の兵装を展開する。
「【展開】
パッとユーバ・アインスを中心にして、結界のようなものが展開される。
半透明な結界は魔力弾を通過するが、その通過した魔力弾があらぬ方向に逸れてすっ飛んでいく。ユーバ・アインスを守る結界が、魔力弾の弾道を歪めているのだ。
ユーバ・アインス自身を忌避するかのような逸れ方をする魔力弾に、量産型レガリアはやはり一斉に攻撃を止めた。弾道の再計算をしているようだが、その隙を見逃すほどユーバ・アインスは愚かではない。
「【展開】
純白の盾を消し、ユーバ・アインスの手には1本のナイフが握られる。大振りの軍用ナイフを思わせるそれは、刀身だけが異様に白い。
攻撃を止めた量産型レガリアの集団に突撃し、まずは先頭の1機を狙う。逆手に握ったナイフの白い刀身を先頭に立つレガリアの眉間に突き刺した。
通常のナイフだけなら簡単に弾いてしまうほど頑丈に作られた量産型レガリアだが、ユーバ・アインスの白いナイフは刃がずぶりと突き刺さってしまう。頭部で輝く赤い2つの光が、混乱を表現するように明滅する。
「【宣告】燃え尽きろ」
眉間に突き刺さるナイフを横に薙ぎ、量産型レガリアの脳天がパッカリと開かれる。切り口はまるで火傷した跡のようにじゅわじゅわと鋼鉄の表面が溶け、真っ赤に染まっていた。
兵装『
開かれた頭部から垣間見えた内側は、ドロドロに溶けていた。あれはもう助からない。
膝から崩れ落ちそうになった量産型レガリアの屍を蹴飛ばし、味方の1人にぶち当てる。まとめてぶっ倒れた量産型レガリアは、重たい味方兵の屍を退けようともがいていたが、ユーバ・アインスは丁寧に頭部を踏み潰す。
ぐしゃり、ぐしゃりと靴底から量産型レガリアの頭部が潰れる感触が伝わる。同じレガリアであっても、ユーバ・アインスは最強のレガリアだ。壊し方はアルヴェル王国の傭兵たちよりも知っている。
ただ、その慢心がいけなかった。
――【警告】攻撃が来ます。【推奨】回避行動、または兵装による防御。
弾かれたように振り返れば、小柄なレガリアがユーバ・アインスに巨大な砲塔を向けていた。
いくつもの銃口を束ねて作られたと見られる重機関砲だ。小柄なレガリアと言っても背丈は子供と見紛うほどだが、レガリア本体の背丈に見合わない巨大な砲塔は威力を重視して改造されたか。
ユーバ・アインスは白いナイフを消して、純白の盾を展開する。量産型レガリアの無駄に改造を施された重機関砲から放たれる魔力弾を防ごうとするが、
――【警告】通常の魔力弾ではありません。【予測不明】
「ッ!?」
頭の中で響いた「魔力弾ではない」という警告と同時に、ユーバ・アインスの構える純白の盾が左腕と一緒に食い破られる。
半分以上が千切れた純白の盾を捨てて、ユーバ・アインスは飛び退った。
重機関砲を構える小柄なレガリアから距離を取り、先程の攻撃内容を解析する。絶対の防御を誇る兵装『
自分の頭に搭載された人工知能が弾き出した答えは、
――【報告】解析完了。【説明】魔力を中和する魔力弾であると推測。
「【理解】なるほど」
ユーバ・アインスの兵装は、自分自身に溜め込まれた魔力から作られる。そのおかげで千変万化の戦況に対応することが可能で、防御体制からすぐに攻撃体制へ切り替えることが出来る。
ただし、魔力から作られる兵装なので魔力を中和されると受け止めることが出来ないのだ。おかげで盾ごとユーバ・アインスの左腕が肘より下だけ千切れた状態となり、回復に割く魔力が大幅に使われる羽目となった。
多勢に無勢、という言葉があり、今まさにそんな状況だ。やはりユーバ・アインスに対する策は講じてきた様子だ。
――【警告】熱源反応を感知。【予測】四輪車の類。
「【疑問】は?」
驚いたのも束の間、真横から木々を薙ぎ倒して量産型レガリアの群れに四輪車が頭から突っ込んだ。ベコベコに表面が凹んでも量産型レガリアを立派な車輪で轢き殺し、踏み潰し、あっという間に鉄屑の山と化す。
量産型レガリアを轢き殺しながら豪快に回転する四輪車は、砂埃を纏いながら停車する。歪んだ扉を無理やり開けて出てきたのは、大柄な男だ。
くすんだ金色の髪と筋骨隆々とした体躯。後部座席の扉を鍛えられた左腕だけで千切り取り、そこに積んだはずの戦闘用外装を引っ張り出す。
「よう、アインス。左腕が千切れてるじゃねえか」
大胆不敵に笑いながら痩せ細った右腕に戦闘用外装を嵌め込む男――エルド・マルティーニは、軽口を交えてこう言った。
「いいお洒落じゃねえか。で? 誰にやられた? ちょっとお礼参りをしねえとな」
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