第93話 残り55日 魔王、ラーファに到る

 魔王ハルヒ、ノエルを筆頭とした鬼族の戦士5人、堕天使サキエルが、階段とは名ばかりの、汚染物質の山を登る。

 ハルヒが登っている間にも、大量のゴミが上から降ってきた。


 山が崩れて転がったのではない。地上の出口から、何者かが投棄したのだ。

 ハルヒは会えて魔法陣を使わず、投げ込まれた汚染物質を自分の体で受けた。

 大きなものは神殺しの剣で破壊し、さらに進んだ。


 外に出る光が、だんだん大きくなってくる。

 ほぼ目の前だと思った時、大量の腐った魚が投げ入れられた。

 ハルヒは避けなかった。


 全身で生臭い魚の腐乱死体を受け止め、ついに魔法陣を思い描き、空中に放ち、魔力を込めた。

 ハルヒのいた周辺の汚物が、ハルヒが生み出した竜巻に巻き上げられる。

 竜巻は汚物の山を上り、地上に放たれた。


 汚物がなくなり、石の階段が露出する。

 最後の十三段のみ、ハルヒは石の階段を登った。

 ハルヒが地上に出る。


 そこは、町の中だった。

 ハルヒが生み出した竜巻がまだ周囲を巻き上げており、ハルヒが手を打つと霧散した。

 巻き上げられた物体が落下する。


 ハルヒの周りに、身長は低いが逞しい体つきの髭面の男たちが、5人地面に落ちた。

 かなりの高さから落下したはずだが、誰も怪我をしていないのは種族柄なのかもしれない。ちなみに、ドレス兎のコーデもずっとハルヒの肩にしがみついている。


「かつての地下帝国を、人間たちの汚物処理場にしていたのはお前たちなの?」


 ハルヒが、落下して怪我こそしていないが、痛みで呻いているドワーフたちに尋ねた。


「だ、誰じゃあ……」

「ち、地下帝国? そんなもん、とっくに滅んだわい。ただのでっかい穴じゃ。ゴミを捨てて、何が悪い」


 ドワーフたちは作業服を着ている。鎧や武器の類は、普段から装備しているわけではないのだろう。


「まだ生き残りはいるわ。女王は、最後の戦いを挑もうとしていた。それをお前たちは……汚染し、海ドブネズミたちしか住めない場所に変えたのよ」

「海ドブネズミって……なんじゃい?」


 ハルヒが振り返ると、まだノエルは階段を上っていた。ノエルには海ドブネズミと呼ばれる魔物を1匹担がせている。

 ハルヒの視線にノエルが気づいた。荷物を投げるよう手で示すと、ノエルは担いでいた海ドブネズミを軽々と投げ上げた。


「これよ」


 尻餅をついて転がった魔物を、ハルヒは靴の裏で押さえた。


「なんちゅう……醜い生き物じゃ……」

「地下の町は、こいつらしか生活できなくなっているわ。あんたたちが、汚染されたゴミを投げ込み続けたおかげでね」


「待て。わしらとて……好きでやっているわけではないぞ。人間たちの町で生きるために……人間が嫌がる仕事をせねば、日銭を稼げんのだ」


 まるで身分制だ。ハルヒは周囲を見回した。洞窟の入り口の他、粗大ゴミや腐敗した生ゴミが山と積まれている。そのゴミを入れるコンテナもある。


「最終処分場……みたいなところでしょうね。地下帝国では、ドワーフが最大の勢力を誇ったと聞いているわ。自分たちの帝国をそんな使い方をして、恥ずかしくないの?」


「しかし……帝国は滅んだのじゃ。地獄の魔獣はどうにもならん。再興など夢物語じゃ」

「ベヒーモスなら殺したわ」

「はっ?」


 ドワーフたちが頓狂な声を出す。その時、鬼族のノエルが階段を上ってきた。


「なっ……鬼……じゃと……」

「さあ、もう少しですよ」


 足を滑らせた鬼がいたのだろう。堕天使サキエルが鬼を抱えて飛んできた。他に、3人の鬼が姿を見せる。


「あ、あんたは……何者じゃ……」


 姿を見せた鬼も堕天使も、ハルヒの前に膝をつく。ドワーフたちがハルヒに、改めて尋ねた。


「魔王ハルヒよ。お前たちは、地下帝国の民だったのね?」

「は、はい……恥ずかしながら……」


「ゴミの山を降ったところに、あなた達の女王がいるわ。女王の元に戻りなさい。健康なドワーフは歓迎されるはずよ。それと……一人私に同行なさい。領主に文句を言ってやる」


「魔王様、人間は頭部を吹き飛ばされると、言葉を話せなくなるのでご注意を」

「わかっているわよ。私をなんだと思っているのよ」


 堕天使サキエルの囁きに、ハルヒが唇を尖らせた。

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