第5話 練習試合
部長さんに言われた通り会場に着くとそこにいた部員の人に声をかける。
「すみません。今日の練習試合を見に来たんですけど何処に行けばいいですか?」
「それならあそこにいくつか感染する人たちの為に席を用意してあるのであいているところに座ってください」
「ありがとうございます」
親切に教えてくれた部員の人にお礼を言ってから客席へと向かう。練習試合ということもありほとんど人はいない。僕を含めても三人だ。もしかしたらこの後増えるかもしれないが、増えたとしても数人だろう。
壁はあいているので選び放題なので、見やすい一番前の席に座って待つことにする。
練習試合が始まるまでもう少し時間がありそうなので携帯電話をいじりながら時間をつぶすことにする。
しばらくすると体育館内が騒がしくなり携帯電話から顔を上げると部長さんや夏美、そして二人の後に続いて今回の練習試合の相手の他校の生徒らしき人たちが入ってくる。
お互い準備をしてすぐに試合を行うようで、いまから始まるのかと思うと楽しみだ。
僕はこれまで夏美の試合を見に行くことが何度かあったが、何度見ても夏美の試合を見るのはワクワクする。夏美の試合を見ることが好きなんだと思う。
夏美が剣道を始める前まではルールすら全く知らない状態だったが、今では基本的なことはわかるようになった。
例えば、剣道は三本勝負で先に有効打を二本先取した方が勝ちで、有効打は面、小手、胴、突きがある。その他にも細かいルールや反則行為などもあるのでなかなか難しそうなスポーツだと思う。
応援する分には完璧に知識が必要という訳ではないので、少しかじった程度の知識しかない僕でも十分に楽しむことが出来る。初めて剣道の試合を見たときはその迫力に圧倒されてしまった。
そうこうしていると準備が出来たのか試合が始まるようだ。しかも一番最初に試合をするのは夏美のようだ。
防具に身を包んだ夏美の姿はどこか堂々としており、全身から自身のようなものが感じられる。
夏美はかなり攻撃的なスタイルなので次々と攻め一本を取る姿は圧巻だ。もちろんただやみくもに攻めているわけではなく、相手の様子を見て攻撃の手を緩めたり、逆に相手の攻撃を誘ったりと駆け引きも上手なのだ。さすが全国大会優勝者だ。
夏美と相手が立礼の位置に進み礼をする。帯刀し三歩進んで開始線で竹刀を抜き、
夏美はすぐに突っ込むのではなく相手の動きを見ながら様子を見る。竹刀はわずかに触れあう距離。先に夏美が仕掛ける。軽く踏み込み竹刀を振る。相手はわずかに下がり竹刀ではじき、そのまま逆に攻撃を仕掛ける。夏美はその攻撃をしっかりと受け止る。二人は離れ再び間合いをはかる。
次の瞬間、わずか一呼吸で夏美が大きく踏み込む。その動きに合わせて相手も踏み込む。だが夏美は相手の動きを読んでいたのか、踏み込む勢いを弱めバックステップ。夏美の動きに動揺した相手選手の一瞬の隙を突きー-
「一本!」
夏美の竹刀が相手選手の頭をとらえた。息をするのを忘れ目の前の試合にくぎ付けになってしまう。一瞬で勝負が決まるので見逃せない。
そのあと二本目の試合も鮮やかに夏美が一本を取り、夏美の勝利で一試合目が終わった。
終わってみれば夏美の圧勝だった。しかも相手の人はどうやら三年生のようで、夏美の強さがわかる試合だったと思う。
その後も試合が続き全員が最低でも一回は行った。ちなみに夏美は全部で二試合行い両方ともしっかりと勝っていた。
部外者がいつまで残っていても邪魔だと思うので、試合が終わってから体育館を出る。ふと携帯電話を見ると夏美からメッセージが来ている。
内容は一緒に帰ろう、というものだ。返信してから夏美のことを待つことにする。
二十分くらい待つと体育館から出てきた夏美がこちらに駆け寄ってくる。
「ごめん、待たせちゃって」
「大丈夫だよ。帰ろうか」
「うん!」
二人で帰り道を歩き出す
「私の試合ちゃんと見てくれた?」
「もちろん! すごく格好よかったよ」
「ほんと?」
「ほんとだよ」
「そっか……えへへっ」
恥ずかしそうだけど、嬉しそうにはにかむ。夏美の頬はわずかに赤くなっている。
今日の試合のことなどを話しながら歩みを進める。気付けば家の前に到着していた。
別れの挨拶をして家の中に入ろうとしたところで夏美に呼び止められる。
「優斗! あのね……」
「どうしたの?」
「えっと……今週末、今度は私たちが相手の学校に行って練習試合をするんだけど、もし時間があったらまた見に来てくれないかな?」
わずかに上目遣いで、遠慮がちに聞いてくる夏美。この姿を見て断る男はいないんじゃないかと思うほどの破壊力だ。
夏美の剣道をしている姿を見るのは好きだし、応援にも行きたいところだが先約があるので断らなくてはいけない。
「今週末は用事があるんだよね……」
「そっか……」
明らかにがっかりする夏美の姿を見て申し訳ない気持ちが込み上げてくる。
「ごめん」
「ううん。優斗が来てくれないのは残念だけど、予定があるなら無理には誘えないよ」
「今週末は難しいけど、また機会があったら次こそは応援に行くよ」
「うん! 楽しみにしているね」
さっきまでの暗い雰囲気がなくなり安心する。
「じゃあ、また明日ね」
「また明日」
手を振る夏美に手を振り返すと家の中へと入った。
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