第4話 部長さん
放課後になり夏美との約束通り練習試合を見に行こうとしていた。部活が始まるまでにはあまり時間がないので急いで帰り支度を済ませる。
「俺も部活だから先に行くわ」
「うん」
教室の入り口で付近から声をかけてくる啓。
帰宅部の僕と違って啓は、陸上部に所属している。中学のころからずっと陸上を続けており、部活に行くときの啓の表情はいつも楽しいそうだ。本当に陸上が好きなんだろうって気持ちが伝わってくる。実力もかなりのものらしい。
「夏美ちゃんによろしく言っておいてくれ。ちゃんと応援するんだぞ!」
そう言い終えるとすぐに、答える間もなく教室を出ていってしまった。公式の試合じゃなくて練習試合だが、もちろんちゃんと応援するつもりだ。
僕ももたもたしている時間は無いので急いで夏美のもとへと向かう。
廊下を急ぎ足で進み学校を出る。剣道部は学校の近くにある剣道場で活動しているが、今回練習試合を行うのは少し遠くにある体育館のようなところだ。少し距離があるので駆け足で行く。
しばらく進むと人影が見えてくる。目的の場所は剣道場を過ぎた少し先にあるはずだが、目の前に道着も着た部員らしき人が立っている。その中に夏美の姿もある。
近づいていくと僕の存在に気づいた夏美がこちらに向かって手を振っている。
「優斗!」
僕の名前を呼ぶ夏美に軽く手を振り返しながら近づく。
「おそいよ!」
「ごめん、ごめん。でもまだ始まっていないでしょ?」
「まぁね」
そう言って笑う姿はどこか幼く見えた。
「こんなところで何しているの?」
「練習試合の相手の学校の人たちを部長と一緒に待っているところだよ」
「なるほど」
今回の練習相手の学校は県内の学校らしいが、うちの学校とはかなり遠いところにあるので分からないだろう。目印兼道案内は必要だ。
ふと隣を見ると夏美と同じように道着に身を包んだ一人の女子生徒がいる。夏美の話では彼女が剣道部の部長さんらしい。
何も言わないのは失礼なので軽く挨拶をする。
「初めまして、一年の
「剣道部部長の
「よろしくお願いします」
「ふーん、君が天守君か……」
お互い簡単に自己紹介を済ませると、部長さんがこちらを観察するように全身を見てくる。
そんな視線にさらされて居心地の悪さというか、むずがゆさを感じて思わず疑問の声を上げる。
「な、何でしょうか?」
「あぁ、ごめんごめん! じろじろ見ちゃって」
僕が居心地の悪さを感じていることに気づいた部長さんは、すぐに謝罪の言葉を口にする。
「夏美がどうしても連れてきたい男の子が居るっているからどんな子か気になっちゃて」
「ぶ、部長!? 変な事言わないでください!」
夏美が慌てたように声をあげると、顔を赤くしながら抗議をする。
「だって夏美が連れてきたい言った子だし、しかも男の子だよ? 気にするなっていう方が難しいよ」
「ただの幼馴染だって説明したじゃないですか!」
「えー? ほんとにただの幼馴染なの?」
「本当です!」
部長さんは夏美の反応が面白くてわざと言っているのがわかる。からかわれている夏美の方は部長さんの言葉を否定するのに必死だが、その姿がより一層からかいたくなる気持ちを刺激しているに違いない。部長さんは楽しくて仕方なそうな顔をしている
夏美が先輩たちに可愛がられているのがわかって少し安心した。部活内でも楽しくやっているようだ。
夏美がからかわれている姿をもう少し見てみたいような気がするが、そろそろ会場の方に向かいたいので助け舟を出すことにする。
「夏美の言う通り、僕たちはただの幼馴染ですよ」
「冗談だよ。夏美の反応がかわいかったからつい意地悪したくなぅちゃったんだよ」
「もう! ひどいですよ!」
「あはは、ごめんごめん」
夏美に謝ると改めてこちらに視線を向ける
「天守君もごめんね」
「いえ、こういうのは慣れていますから」
「そうなの?」
「夏美は目立ちますから。そうすると自然と僕も何かしら言われるんですよ」
「なるほど、夏美は可愛いもんね」
部長さんは納得したように頷く。男子人気の高い夏美のそばによく分からない男がいるとそれだけで注目されることがあるのだ。
「引き止めちゃってごめんね。練習試合をやるのはあそこに見える建物だから」
そう言って指さす方を見ると、体育館のような建物が見える。
「私たちはもう少しここにいないといけないから、中にいる他の部員に言えば案内してもらえると思うよ」
「ありがとうございます」
「せっかくだから楽しんでいってね」
「はい」
部長さんに軽く会釈をして、手を振る夏美に手を振り返すとこの場を後にした。
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