第3話 好きなの?
「
「あ、うん」
放課後、わたしは
だけど里枝は知らない。本当はわたしが代わって欲しかったから、
掃除は堂林くんも一緒だった。もちろん
でも。それも昼休みまでのこと。
二人きりで、せっかくの機会だって言うのに、わたしは情けない時間を過ごしていた。
「けっこう集まったなぁ。これ集め終わったら一回捨てにいってくるよ」
「うん、お願いねー」
堂林くんの言葉に適当な返事をしながら、わたしは集められた砂まじりのほこりがちりとりに吸い込まれていく様子をじっと見つめていた。
ずっと考えていた。
昼休みからずっと、
だけど、いくらあれこれ考えてみても、結局はひとつの答えしかでてこない。
沈むような想いに耐えかねて、ふと視線を上げると、堂林くんの姿が目に入った。
ちりとりを支えるためにしゃがみ込んでいたわたしの目線からは、ほうきを掃く彼の
「……堂林くんってさァ」
それは何気なしに出た言葉だった。言うつもりのなかった言葉が、わたしの意思に反して、勝手に口を飛び出していた。
「——好きなの? 森川さんのこと」
「は、はぁ!?」
わたしの言葉に堂林くんは面白いようにうろたえた。
「な、なに言ってんだよいきなり!」
そのあからさまな反応で、すべてを
「へへ、だって堂林くん、最近いっつも森川さんのこと見てるじゃん。授業中も休み時間もいっつもさァ」
「た、たまたまだろ? べつに森川のことなんて見てねえよ」
あくまでもシラを切る彼に、けれどわたしは追及の手を休めない。よせばいいのに、傷つくだけなのに、わたしの口は、泣き叫ぶ心の要求に従ってはくれない。
「えーそうかなぁ。たまたまにしては多いと思うけどなぁ」
「だから! たまたま
「あはは、ムキになって、怪しいなぁ〜」
続けるわたしに、
「ほ、ほらっ! くだらないこと言ってないで早く終わらすぞ! 俺、一回これ捨ててくるから」
「あー逃げるんだァ」
「うるせぇ。喋ってばっかいないで吉崎も掃除しとけよ」
捨てゼリフを吐いて走り去っていく堂林くんを見つめながら、わたしはふっと大きな息を吐いた。にじみそうになる視界が、夏の暑さによって流れた汗に救われていた。
「——さっ、掃除そうじっと! 急ぐぞ吉崎! 他の奴らもう終わってるみたいだぜ!」
戻ってきた堂林くんは、わたしに視線を向けることなくほうきを手に取ると、わざとらしく地面を掃く音を響かせていた。
そんな堂林くんの姿がわたしはおかしくて、思わず笑ってしまう。
「……なんだよ」
「ううん、別に。なんでもないよ?」
「……なら、さっさと終わらせようぜ」
「ふふ、そうだね」
ほっと安堵した様子を見せる堂林くんに、だけどわたしは言った。
「——でさ、やっぱり好きなの? 森川さんのこと」
にこにこと無邪気に見えるように笑みを浮かべるわたしはまるでピエロだ。本当ならもう聞きたくなんてないのに、わたしの性格がそれを許さない。
「……はぁ、もう勘弁してくれよ、吉崎ぃ」
「えー、だって気になるんだもん」
わたしが
それから頭を掻きむしり、わたしからの視線を避けるように言った。
「……ああ、好きだよ。これでいいか?」
そっぽを向いた彼の横顔は、ほんのりと赤みがかっていて、誰の目に見ても恋をする少年の横顔だった。
「そっか」
と、わたしは呟いた。
「そっかぁ……」
もう一度呟いた言葉は、夏の太陽に溶けるように消えていく。
「……言うなよな、だれにも」
ぽつりと堂林くんが呟いた。恥ずかしそうに、けれど視線は強くわたしの目を
「……さァ、どうしよっかなぁ〜」
そう言いながらわたしは空を見た。入道雲が高らかに漂っている夏の空は、まるで悩みなんかないみたいに晴れやかだった。
「頼むよ」
胸が締め付けられるみたいに痛い。涙が出そうだった。でも、ここで泣いてしまったら、わたしはもう立ち直れない気がして、
「あはは、それは堂林くん
だから、それからもわたしは堂林くんをからかいながら掃除を続けたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます