第24話 日輪先輩

 雨宮さんと図書館に赴いたのが日曜日。


 その翌日、月曜日は祝日だったのだが、雨宮さんとは会っていない。ビデオ通話をしながら宿題をしたり、おしゃべりをしたりしただけ。それでもとても楽しかったのは言うまでもない。


 火曜日からはまた学校へ。


 部活のときには、花村先輩からの要望だった、日帰り旅行の日記を提出。他の皆の日記を読むこともできて、これがまたなかなか面白かった。こういうちょっとしたことの積み重ねが、青春の貴重な思い出になっていくのだろう。きっと。


 そして、五月一日の水曜日に、普段と違う出来事があった。


 いつも通り、放課後に俺と雨宮さんが文芸部の部室に行くと、花村先輩が見知らぬ女子と話していた。


 リボンの色が赤いので、花村先輩と同じ二年生だろう。


 緩い癖のある栗色の髪が背中にかかっていて、どこかおっとりした雰囲気がある。身長は平均的だが、胸が少し目立つタイプ。



「あ、この二人が今年の新入生? 本当に毎日来てるんだねぇ。すごいすごい」



 ふくふくと笑う姿に、見ているこっちまで朗らかな気持ちになる。



「あ、えっと、俺は一年生の夜野涼介よるのりょうすけです。初めまして」


「あの……一年の、雨宮翠あめみやみどり、です……初めまして……」


「そんなに畏まらなくていいよー。ここは緩い雰囲気が売りの文芸部なんだからさ」



 先輩は微笑んで、続ける。



「私は日輪七星ひわななせ。お日様の輪っかに、七つの星って書くの。メインは美術部なんだけど、文芸部も兼部してるんだ」


「日輪先輩、ですね。普段は美術部ってことは、小説より絵を描く方が好きってことですか?」


「そうだねー。どちらかというと絵の方が好き。もう少し正確に言うと、漫画を描くのが好きなんだよね」


「漫画を? それはすごいですね。漫画を描くのってめちゃくちゃ難しいし大変でしょう?」


「お、わかってくれるかい? 本当に難しいし、大変なんだ、漫画って。描いたことがある人にしか、本当のところはわかりにくいんだけどさー」



 おっとりしているけれど、漫画を描いているというだけで、色んな面でタフな人だと想像できる。


 俺も漫画に挑戦したことはあるが、大変すぎてやめてしまった。



「そんな先輩が、今日はどうされたんですか?」


「この前、皆で日帰り旅行に行ったんでしょ? 花ちゃんから色々聞いたし、花ちゃんの日記も見せてもらって、たまにはこっちにも顔出してみるかーって気分になったの」


「なるほど。じゃあ、せっかくなので、日輪先輩が描いてる漫画、見てみたいです」


「私は別にいいけど、BLだよ?」


「……あ、すみません。水曜日は、じいちゃんの言いつけで漫画を読んではいけない日でした。この話はまた後日で」


「水曜日限定で漫画を読んではいけないって、不思議なことを言うおじいちゃんだね。何か嫌なことでも会ったのかな?」


「ある水曜日に、漫画が原因でおばあちゃんと喧嘩したとかなんとか……」


「もっと突っ込んでいって、夜野君がどんな嘘を重ねるのかには興味あるけど、この辺でやめとくね」


「はい。お気遣いありがとうございます」



 日輪先輩は、ふくふくと笑いながら今度は雨宮さんに話しかける。



「雨宮ちゃんは、BLもいけるんだっけ? 読んでみる?」


「あ、はい……。読み、ます……」


「そっかそっか。じゃあ、見せてあげるー」



 日輪先輩が鞄をあさり、タブレットPCを取り出す。軽く操作した後、雨宮さんに見せる。



「こ、これ……先輩が? 上手い、ですね……」


「ありがとー。そう言ってもらえると、頑張って描いた甲斐があるよ」



 花村先輩も一緒になって、三人で漫画を読み始める。



「うわっ……」



 なんて雨宮さんが声を上げて顔を赤くしたときには、一体どんなシーンを見ていたのだろう。


 きっと、男子は知るべきではない部分に違いない。


 ちなみに、岩辺先輩も部室にいて、一人淡々と執筆に励んでいた。


 俺も先輩に習い、席についてしばし執筆に励む。


 女子三人の漫画鑑賞会が終わったところで、日輪先輩が言う。



「ねぇ、夜野君ってイラストとか描けるの? 漫画を描くのが大変って知ってるくらいだから、描こうとしたことくらいあるんじゃない?」


「ああ、はい。イラストは少し。漫画はちゃんと描き始める前に諦めましたけど」


「ふんふん。夜野君の描いたイラスト、見たいな」


「ええ、いいですよ」



 タブレットPCを操作して、自作小説のキャラを描いたイラストを表示。


 それを見せると、日輪先輩の目が若干鋭くなる。同業のライバルを見る目、だと思われた。



「ふぅん……へぇ……。あっさりしてるけど、形は大きく歪んでないし、線も綺麗。顔も可愛く描けてる……」



 あまりじっくり見られると気恥ずかしい。そんなじっくり見るようなイラストではない。


 そのはずなのだが……。

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