第22話 想う

 * * *


 勢い余って、告白してしまった。


 思い返すと、本当に大胆なことをしてしまったものだ。



「うぅ……こ、後悔は、ない、けど……。でも、恥ずかしい……」



 時刻は午後八時過ぎ。ベッドにうつ伏せに寝転んで、熱くなった顔を枕に押し付ける。


 恥ずかしさで死ねるような気さえするけれど、決して不快な感覚というわけではない。


 好きになった人に、好きだって伝えられた。


 そんな自分が誇らしいとも思う。


 ただ、自分の気持ちは本当に恋なのか? という疑問もないではない。


 夜野君と出会ってから、まだそう時間は経っていない。


 度し難いほどに熱い感情が胸の中を渦巻いているわけではなくて、ただ、わたしは夜野君と一緒にいたいのだ。


 誰にも渡したくないし、離れたくないし、ずっと繋がっていたい。


 それに、好きだって思ってもらいたい。


 けれど、今すぐキスをしたいかというと、少し疑問がある。


 求められれば拒まないとしても、そういう濃厚な接触を求めているわけではない。



「わたし……夜野君と、どうなりたいのかな……」



 恋人になりたい。その思いはある。


 恋人として側にいられればそれで幸せ。なのだと思う。


 これは恋なのだろうか?


 まぁ、恋なのだろう。これが、わたしなりの、恋の形なのだろう。



「……ずっと一緒に、いたいな……。連絡しても、いいかな……」



 夜野君のことを想っていると、スマホがメッセージを受信。


 夜野君からかと期待したが、花村先輩からだった。



『帰り道、ちょっと様子が変だったけど、何かあった?』



 心配してくれたらしい。花村先輩は面倒見がいいから、気にしてくれていたようだ。


 少し迷って、花村先輩には何が起きたか、伝えることにした。



『夜野君に告白しました』


『ほぉ! 予想はしてたけど、意外と展開が早かったね。それで、二人は晴れて恋人同士に?』


『いえ。まだ友達です。でも、振られたわけではないと思います。夜野君は、自分の恋愛感情に向き合うのが怖くて、ずっと目を背けてたらしくて。その気持ちと向き合う時間が必要みたいだったので、今はまだ友達としての関係を続けることにしました』


『そっかそっか。わかった。とにかく、二人の関係がこじれていないなら安心だ』


『こじれてはいないと思います。大丈夫です』


『私が余計な口を挟む場面ではないとだろうけど、一応言っておこうかな。お互いに色んな不満をかかえることがあるだろうし、色んな失敗をすることもあると思う。誰だってそんなもんだから、気楽にいきなよ』


『花村先輩も、そうなんですか?』


『興味があるなら、私の失恋話でも聞かせてあげようか?』


『気になります』


『そう? じゃあ、少し長い話になるから、通話がいいな』



 花村先輩から電話がかかってきて、寝転んだままそれに応じる。


 それから、花村先輩は失恋の話をしてくれた。


 色んな痛みがその話に滲んでいて、聞いているだけでわたしは胸が痛かった。


 でも、聞けて良かったとも思う。


 わたしからすれば、花村先輩は超人的な人だ。


 明るくて、綺麗で、夢中になれるものがあって、勉強もできる。


 そんな人でも、恋で失敗することもある。


 そう思うと、わたしがこれから色んな失敗を重ねたとしても、当たり前だと思える。



『……それじゃ、話はこの辺にしておこうか。またね!』


『は、はい……。また……』



 通話を終えて、わたしは深く息を吐く。


 花村先輩は素敵な人だけど、わたしはその溢れるパワーに圧倒されてしまうから、話していると少し疲れてしまう。



「……夜野君とは、全然、そんなことない……。やっぱり、夜野君が、いいなぁ……」


 夜野君と話したい。


 でも、告白したばかりで、少し気恥ずかしい。自分から連絡することをためらってしまう。



「……電話、して、くれない、かな……」



 スマホを握りしめながら、わたしはまた夜野君を想った。

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