第10話 帰路
* * *
れ、れ、れ、連絡先、を、交換、して、しまった……!
大抵の人からすると大したことではないのだろうけれど、わたしにとっては一大事だ。
まともに話すようになってから一週間。連絡先を交換するには早すぎただろうか? それとも、むしろ遅すぎるくらいだっただろうか?
まともに友達がいたことがないから、その辺の機微がわからない。
ただ、少なくとも、夜野君は連絡先の交換を嫌がっている風ではなかった。
タイミングは間違っていたのかもしれない。でも、とにかく、結果的に連絡先の交換ができたのは、嬉しいことだ。
「……ふ、ふふ、ふへ……」
我ながら、ちょっと気持ち悪い笑いが溢れてしまった。
まだ電車の中なので、自重して無表情を取り繕う。
深呼吸も重ねて、頭から邪念を取り払う。
数分で次の駅に到着し、下車。
淡々と歩いて改札を抜け、
すると、唇が勝手に笑顔になってしまう。
「……夜野君と、友達に、なれたのかな? これって、友達、なのかな……?」
学校では、よく話しかけてくれる。昼ご飯も一緒に食べる。放課後は同じ部活に行って、下校も一緒。
これは、友達以外の何者でもないのでは?
友達どころか、これはカップルにすら見えてしまうのでは?
「……か、か、カップル……。いや、でも、そんなのは……流石に……わたしには、分不相応……」
高校生になったら、一人でもいいから友達が欲しいと思っていた。物語に出てくるような楽しい青春を、少しでも味わいたいと思っていた。
彼氏ができたらいいなとも思っていたけれど、そこまで高望みはしていなかった。そんなキラキラした青春は、思い描くだけでも目が潰れそうになる。
だけど、夜野君は……わたしに対して、悪い印象を持っている風ではない。
わたしのことを、女の子として見てくれているのだろうか? わたしを、恋の対象に、思ってくれるのだろうか?
「……ありうる、のかな? 夜野君と……」
恋人として付き合う、なんて。
想像するだけでも気が引けるけれど、そんな日が来たら、きっと嬉しい。
ぼんやりと妄想していた超素敵でかっこいい彼氏君、とは全く違うけれど、やっぱり、嬉しい。
ふんわり包み込むようなその人柄は、きっとわたしが本当に求めていたもの。
「……これが、恋なのかな」
夜野君と一緒にいると、心がふわふわする。
落ち着かないのに、なんか落ち着く。矛盾しているけれど、そういう感じ。
「……連絡、くれるかな」
自分から連絡先の交換を申し出るなんて、今までにないほどの勇気を振り絞ってしまった。
学校外でも、繋がりがほしいと思ってしまったから。
「……わたしから、連絡しても、いいのかな」
帰り道はずっとふわふわしていて、ずっと夜野君のことばかり考えていて。
これが恋なのか、わからない。
友達ができて浮かれているだけなのかもしれない。
「……早く、また会いたい」
そう願いながら、家路を歩いた。
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