第2話 部活紹介
俺のモブキャラ具合についてはさておき。
「おほん。えっとー、夜野君っていうんだね。私は
花村先輩が、努めて明るい声で自己紹介。さらに、俺の隣の男子生徒を見ながら、続ける。
「それで、そっちの無愛想なのが、副部長の
「……どうも」
岩辺先輩が再び軽く会釈。陽気な人ではなさそうだ。
「さて、夜野君。ここに来たってことは、夜野君も小説が好きだってことでいいのかな?」
「あ、はい。といっても、よく読むのはライトノベルで、一般文芸はほどほどです。純文学は、読んでも苦にならない程度です」
「それで十分だよ。別に文豪を排出する歴史ある文芸部ってわけでもないんだから。私たちだって、純文学なんかはほとんど読んでない。それで、君、書く方はしないの?」
「うーん、書いたことはありません」
「興味はある? 少しでも興味があるなら、書いてみると意外とハマるかもよ?」
「花村先輩は書くんですか?」
「うん。書くよ。そっちの岩辺君も書く。普段はほとんどしゃべらないくせに、小説の中では結構饒舌なんだ」
「へぇ……。意外ですね」
「小説を書く人ってそういうのも多いよ。それに、そっちの雨宮ちゃんも書くんだってさ」
花村先輩の紹介に、雨宮さんはあわあわと手を振る。
「せ、先輩! それは、ク、クラスメイトには、内緒で……!」
「まぁまぁ、いいじゃないの。小説に全く理解のないクラスメイトじゃなくて、文芸部に入ろうっていう特殊で奇特なクラスメイトなんだからさ。同じ部活に入ればどうせバレるって」
「それは……はい……そう、ですね……」
雨宮さんは頬を赤くして、また深く俯く。
小説を書くというのは、確かに高校生としては珍しいことだと思う。ときにはそのことでからかわれてしまうことだってあるだろうから、雨宮さんが秘密にしたがったのもわかる。
ここは、少しでも安心させてやることが友達への第一歩だろう。
「雨宮さん、すごいな。俺は自分で小説を書こうとも、書けるとも思ったことはなかった。小説は読むものだって思ってた。自分で書いてみようって思って、書き始めただけでも、俺は雨宮さんを尊敬する」
「は、はわわわわっ」
雨宮さんがさらに顔を真っ赤にしてしまう。意味もなく手をばたばたさせて、顔も左右に揺れる。
「うーん、夜野君、地味なふりして意外とやるねぇ」
「えっと、花村先輩、何がですか?」
「君は無自覚無双系かな? 俺、何かやっちゃいましたー? って」
「……俺、何かやっちゃったんですか?」
「わからないならそれでもいいさ。さて、せっかく二人も来てくれたことだし、簡単にうちの部の活動内容を話そうか」
そして、花村先輩の説明によると。
文芸部の活動は月曜日と金曜日の週に二回。ただ、それは特別な理由がない限りは参加する最低限の日程で、花村先輩は毎日部室に来ているらしい。来たければ毎日来ても良くて、勉強しても良し、執筆しても良し、部室にある蔵書を好きに読んでも良し。
活動内容は、小説を書く人は小説を書く。それ以外は、おすすめの本の紹介を書いたり、部員の作品を読んで軽く感想をしたためたり。
十月の文化祭では部誌を発行するので、そのときにはそれぞれ原稿を持ち寄る。内容は概ね何でも良い。
主な活動はそのくらいで、基本的には緩くまったりしている。文学を愛でるというより、読書好きが集まるお友達サークル的なノリであるらしい。
俺からすると丁度良い部活だった。実のところ、俺はここに女の子の友達を作りに来ただけなのだから。
「部活の説明は以上。ちなみに、文芸部員は掛け持ちもオッケー。一応部員は五人いるんだけど、私と岩辺君以外は他の部活に参加してるから、あんまり出てこないんだよね。
君たち二人がうちに入って、積極的に参加してくれると嬉しいな! なんて、見学の段階でプレッシャーをかけるのは良くないか。
うちは緩い部活だから、軽はずみに入ってくれて構わないよ。家でもない、教室でもない、ちょっと羽を休める場所くらいに思ってくれればいい」
花村先輩の話を聞いて、俺はほとんど文芸部に入ることを決めていた。
実態がどうなのかは確認するべきだが、俺はこういう場所を求めていたのだとも思う。
「それじゃあ、もう少ししっかり文芸部を体験してみようか。夜野君、とりあえず小説書いてみない?」
さて、俺にそんなことができるのやら。
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