トモダチになった文芸部の目隠れ美少女は、意外と積極的でウブ可愛い。

春一

第1話 見学

 女の子と恋愛関係になるなんて、俺からするとあまりにも非現実的なことだ。


 特技、なし。


 顔、不細工ではない、と思う。


 性格、暗くはないが明るくもない。


 おしゃべり、可もなく不可もなく。


 存在感、なし。


 うん、女の子にモテる要素が一つもない。


 勉強はそれなりにできるけれど、はっきり言って、そんなのは高校生の恋愛においてなんのプラスにもならない。


 成績が悪すぎるとマイナスになるかもしれないけれど、勉強ができるからってプラスにはならないのだ。


 そんなものより、スポーツができるとか、かっこいいとか、面白いとかの方が重要だろう。女の子の立場を想像しても、それが当然だとも思う。


 だから、俺は恋愛方面について何も期待していない。


 ただ、それでも、高校三年間の思い出に一切女の子が関わってこないというのは、心苦しいと思ってしまう。


 恋愛関係にはなれなくても、普通に会話をして、楽しい時間を過ごせるくらいにはなりたい。


 そう願って、俺は高校入学後、仮入部期間には色々な部活を覗いてみようと思った。


 もちろんと言うべきか、運動部になんて入れない。俺は身体的にも精神的にもスポーツや格闘技に向いていない。


 文化部で、そこそこ真面目に活動していて、女の子との交流も期待できるものがいい。


 軽く検討した結果、最初に文芸部を覗いてみることにした。


 俺はラノベくらいならばよく読んでいるし、一般文芸も嗜む。文学を読むのも苦痛には感じていない。


 自分で小説を書くことはしていなくても、これくらいのスペックがあればとりあえず大丈夫ではないかと思った。


 文芸部なら女の子だって在籍しているだろうし、多少は交流する機会もあると期待できる。


 そして、四月中旬の放課後。



「失礼します……」



 下心満載で、俺は別棟にある文芸部の部室のドアを開ける。


 俺が入学した一ノ矢高校は公立で、それゆえにそれなりに古びている。別棟も部室も良くいえば趣深くて、昭和、平成の香りが漂う。


 十畳くらいの広さの部室には、期待通りにちゃんと女の子がいた。それも、二人。男子も一人いて、これはこれでありがたい。女子だけの空間に男子一人というのも辛い。


 部室には、長机が二つ、長辺を付けて並べられていて、向かって奥の端には一人用の机も配置されている。パイプ椅子は、長机に三脚ずつと一人用の机に一脚の、計七脚。三人は三つの机に別れて座っている。


 そして、一人用の机を利用していた女子が立ち上がり、俺に向かって微笑みかけてくれる。



「お、新入生だね? 見学希望かな?」



 楕円形のメガネを掛けた、ロングヘアの女子だ。知的な雰囲気は魅力的で、柔らかな微笑みにもグッと来るものがある。その笑顔を見られただけで、俺が文芸部に足を踏み入れた甲斐があったというものだ。


 最初に声をかけてくれたくらいだし、先輩で、部長とか副部長の立場に違いない。



「あ、はい、見学希望です」


「おお、いいね、いいね、今日は二人も見学に来てくれた! いやー、この時代、文芸部なんて不人気だから、来てくれて嬉しいよ。ささ、こっちへどうぞー。座ってー」


「はい。ありがとうございます」



 案内された、入り口から見て右側の席に座る。唯一の男子生徒の隣だ。こちらもどこか風格があり、先輩だろうと思われた。あまりおしゃべりではないのか、無言で会釈してきたので、俺も軽く返した。


 そして、今更だが、向かいの席に座る女子に見覚えがあった。



「へぇ、雨宮あめみやさんも文芸部に興味があったんだ?」



 小柄で、前髪で目を半ば隠している女の子、雨宮翠あめみやみどり。俺と同じ一年C組。少しおどおどしたところがあり、引っ込み思案であることが一目でわかる。顔立ちも可愛らしくて、肩まで伸びる髪もサラサラ艶々。彼女と縁ができたのは嬉しいことだ。


 雨宮さんは、視線をさまよわせながら口を開く。



「あ、え、えっと……どうして、わたしの、名前、知ってる、の?」



 えっと……これはもしや、クラスメイトとして認識されてないってことかな? もう四月中旬だし、クラスメイトの顔くらいは覚えていてほしいものだよ? 名前はまだわからなくてもさ?


 まぁ、俺って存在感ないもんな。教室の壁にどんなシミがあるかなんて、いちいち覚えてるはずもないか。


 密かに心に傷を負いながら、俺は努めて笑顔を作る。



「……クラスメイトだからさ。俺、一年C組の夜野涼介よるのりょうすけ


「あ! そ、そう、だったんだ……。ご、ごめん、なさい……」


「いやいや、俺みたいなモブキャラを覚えてる方がおかしいんだよ。むしろ、名前を言い当てられた方がびっくりする。雨宮さんから何かの詐欺で狙われてるんじゃないかって」


「……ごめん」



 もう謝らなくていいのだが、雨宮さんは顔をうつむけてしまう。


 本当に、別にどうでもいいことなのに。



「今日覚えてくれればそれで十分だよ。本当に気にしないで。こういうの、よくあることなんだ。中学のときも、俺の名前を言える人の方が少なかったよ」



 はははー、と笑って見せたら、雨宮さんからどこか不憫そうな目で見られてしまった。


 一応、冗談のつもりだったんだけどね。中三でのクラスメイトで、俺の名前を言えない人なんてそんなにいなかったはずだよ。あえて尋ねたこともないから、実際のところは不明だけれど。


 世の中にはわからない方がいいこともあるんだよ! そうだよね!?

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